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第54話 「貞操のピンチ」

 露になってしまった額の宝石、そして女性化した僕を僕と認識したお嬢様、

 今の状況ははっきり言ってカオスだ。


「まず、アルちゃんに説明します」


 そう宣言し、お嬢様たちへの説明を後回しにする。

 普段のお嬢様なら自分を優先しろと憤慨するところだけど、今回は状況が状況だけに頭がフリーズしているようで、文句を言う素振りが見えない。

 ライムさんも頭に疑問符を浮かべて、声を発することもしない。


「まず結論から言うと、僕は魔石の一族じゃありません」


「え、でもその額は……」


「数十日前に、僕は死にかけたんです。お腹がえぐられちゃって、死ぬ寸前でした」


 あの頃の痛みは今でも鮮明に覚えている。

 逃れようのない死が目前まで迫り、二度目の死をも覚悟していた。

 あの状況で助かるなんて思っていなかったし、なんなら僕は死を受け入れていた。

 何の意味もない人生、死んでも生きても変わりはないと。

 しかし結果はお嬢様に助けられ、こうして生きながらえている。


「お嬢様は瀕死の僕にこの宝石を埋め込み、魔力の活性化を促したんです」


「そ、そんな危険なこと……」


「しなければどうせ死んでいましたからね。ダメで元々、だったんでしょう」


 事実、あの場では宝石を埋め込むか見殺しにするかの二択しかなかった。

 今僕がこうなったのは、仕方のないことと言える。


「そして宝石の埋め込みに成功したんですが、そのせいで僕の魔力が暴走したんで、宝石を傷つけなくてはいけなかったんです」


「……あ、本当だ。傷がある」


「宝石は傷物、そして魔石の一族でもなかった僕は、その一族の象徴とでもいうべき宝石が埋め込まれているけど、魔石の一族ではないということです」


 説明を終え、アルちゃんの反応を見る。

 アルちゃんはこの額に驚いたような反応を見せたが、怯える様子も何もなかった。

 魔石の一族に対して何かしらの感情がある、というわけではなさそうだ。

 むしろ、僕の説明を聞いてどこか、残念がっているようにも見えた。


「そっか……うん、そっか! わかったよ!」


 すべて納得したように声を上げ、いつものような笑顔を見せるアルちゃん。


「正直びっくりしたけど、ユイちゃんはユイちゃんだもんね。というか、キラキラ輝いてて、むしろ羨ましいなって思っちゃった」


「納得してくれてありがとうございます。けどこれ、綺麗なのは確かですけど、他の人に見られたら厄介なんで、隠すしかないんですよね」


「まあそうだよね。人によっては恨みもあるだろうし、かの有名な魔石の一族って聞いて、倒してやろうって人も多いだろうから」


 事情を理解してくれて、アルちゃんは本当に僕個人のことを考えてくれていると実感した。

 本当に、僕なんかにはもったいない友達だ。


「じゃあ私はわかったから、今度はセウルちゃんとあの女の子に説明してあげて。混乱してるだろうし」


「はい。それでお嬢様、ライムさん、僕ユイです。ロイド先生の実験で、女の子になっちゃいました」


 こっちに関してはそう言うしかないので、簡素に言わせてもらった。

 その際の2人の反応は、


「ロイド、あんたまたユイで変な実験したのね! マジでぶっ殺すわよ!?」


「クソ爺、私のユイ様になんてことしたんですの!? ユイ様への実験は私が安全を証明してからという約束だったでしょう!?」


 そんな約束してたんだ。それはそれで申し訳ないな。

 なんかライムさんが僕の身を守っていたみたいで。


「ていうか……可愛いわね」


「……同感ですわ」


 お嬢様とライムさんが僕の顔をマジマジと見ている。

 体の変化は何となくわかるけど、顔がどうなっているかはわからないからな。

 そんなに大きな変化があったのかな?


「ほれユイ君、鏡を見てみなさい」


「あ、どうも」


 ロイド先生から鏡を手渡されて、僕は自分の顔を確認する。


「おお……確かに可愛いですね」


 自画自賛になってしまうが、女性の中でもかなり可愛い部類に入るんじゃないだろうか?


「まあユイ様は元々可愛い寄りでしたからね。女性化で可愛くなるのは当然かと。それに見たところ、お胸も結構大きいのではなくて? 女性としてはかなり高レベルですわね」


 気にしなかったけど、大きいか小さいかで言えば大きい部類かもしれない。

 絶対に口に出しはしないが、お嬢様よりも全然大きい。


「ま、女体化したっていっても危険な感じはなさそうだし、ロイドへの折檻は見送りにしてあげるわ」


「そうかそうか、実験は成功だったしそれはなにより」


 この場は比較的穏やかに済みそうだ。

 性転換なんて大実験だとも思うが、無事に成功し、お嬢様もライムさんもすでに怒っている雰囲気はなさそうだ。

 ……いや、なんか2人が変な目でこちらを見ている気がする。


「さてと、じゃあユイ、本当に何もないか、いろいろと調べましょうか」


 妙な手つきをしながらお嬢様が近づいてくる。

 あ、これはいけない。

 なんかよくわからないが、身の危険を感じる。


「落ち着いてくださいお嬢様。僕は何ともありません。調べる必要なんてないですから」


「ユイの言葉には信憑性がないのよね。確証が必要なのよ」


 何を言っても聞かない様子だ。

 そして近づくお嬢様とは別に、異様な雰囲気をライムさんが発している。


「ああ、なんでしょう。普段ならユイ様にいじめられたいですのに……今、ユイ様をいじめたくてしょうがありませんわ」


 こちらはこちらで危険なことを口走っている。

 このままでは、僕はこの2人に襲われてしまう。


「ていうかライムさんは僕の額を見て何も思わないんですか? 額に宝石が埋まってるんですよ?」


 せめて1人だけでも数を減らそうと、額を指さしライムさんにそう言うが、


「それがどうかしまして? 驚きはしましたけど、その石はユイ様の人格とは何ら関係のない事柄では?」


「魔石の一族は世界で疎まれているんじゃないんですか? 僕はそれかもしれないんですよ?」


「さっきそこの女性に言ったではないですの、魔石の一族ではないと」


「信じるんですか?」


「当然ですわ。そもそも、ユイ様が本当に魔石の一族だったとしても関係のないことです。ユイ様はユイ様であり、一族が何をしようとユイ様には何の関係もないことですから。仮に私の両親が魔石の一族に殺されたとしても、そいつがユイ様でないのなら、ユイ様を疎む理由なんて一切ありませんわ」


 一切おかしなところのない完全なるまともな回答だ。

 この人は本当にライムさんかと疑いたくなるほどに。

 確かに実害を被っていない以上、僕個人を恨むのはお門違いだ。


「さ、お話はこれで終わりにしまして、まずはそのダボダボな衣服を脱いでしまいましょうか」


 ライムさんは傍から見てもいやらしいと分かる手つきで僕に近づく。

 それに呼応し、セウルお嬢様までもが僕に近づく。

 このままでは、剥かれる。


「ロイド先生、早く元に戻してください。実験は終わったんですから、もう元に戻って問題ないですよね?」


 僕は初めて焦っているかもしれない。

 男性であったときはどんな苦痛にも耐えられる自信はあるし、辱めを受けてもしょうがないと割り切れる。

 けど、今のこの状況では、恥ずかしさが今まで以上だ。

 しかし、


「あちゃぁ、完全に壊れてしまったな。やはり大量の魔力を使用する場合、装置に負荷がかかりすぎるのだな。ユイ君、悪いが1週間ほどそのままでいてもらえるか? アル君も悪いが、それでよろしく頼む。というかそうせざる負えない」


 今、僕の貞操が終わりを迎えることが確定いたしました。

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