第53話 「性転換と露呈」
「で、何の実験をするんですか?」
「うむ、今回君たちにしてもらう実験は」
……君たち?
僕もやるの?
そんな疑問がわいてきたが、何を言っても聞かないだろうし、僕にやらせるならそこまで危険ではないだろう。
「性転換実験だ」
「はい?」
予想だにしない言葉が出てきて、思わず聞き返してしまった。
性転換?
つまり性別を変えるってこと?
「あの、ロイド先生、いったいどうしてそんなものを作ったんですか? もしかして女の子になりたいんですか?」
「私にそんな趣味はないよ。だが、世の中には性別を変えたいという人が少なからず存在する。この装置は、そういった人間たちから依頼されて作ったものだよ」
なるほど、確かに性別を変えたい人間は普通に存在するだろうな。
僕のいた世界でもそういう人たちはいたし、性転換の装置があってもそこまでおかしくないのか。
「一応聞きますけど、安全性は確かで、元にも戻れるんですよね?」
「もちろんだとも。性転換は魔力の性質を変えてしまうが、理論上、生死にかかわるほどのことになることはない。これは絶対だ」
そう断言するロイド先生だが……実験なんだよなぁ、これ。
不測の事態は常に起こりえるし、ロイド先生の理論がそもそも間違っている可能性だってある。
性転換なんて人体に及ぼす影響を考えたら、危険が一切ないと断言する方がむしろ不安だ。
ある程度の不安材料も考慮されてた方がまだ信頼できる。
「ではさっそく始めよう。アル君と言ったね? このヘルメットを被っておくれ」
そう言って、ロイド先生はその性転換装置であるヘルメットを渡す。
あれを被り、魔力を変容させ人体の構造そのものを作り替えるらしい。
聞けば聞くほど危険極まりない実験だ。
だがそんな実験に対しアルちゃんは、
「はい! これを被ればいいんだね!」
予想に反しノリノリの様子だ。
見た目が女性みたいに可愛いし、性格も女性よりのアルちゃんだ。
もしかしたら女性に変わりたいと思っていたのかもしれない。
「ユイ君の分はこれだ」
「女性になるなんて、にわかには信じられないですね」
半信半疑ながらも僕はヘルメットを頭にかぶる。
結構ごつごつとして被り心地は最悪の一言に尽きる。
まあヘルメットとして使うものではないし、心地よさを求めても意味ないことだと分かっているが。
「横にスイッチがあるだろう? それを押してもらえれば、すぐに装置が作動する」
「へえ、魔力を流す必要はないんですね?」
「起動に必要な魔力が膨大だから、事前に充填しておく必要があるのだよ。作りながら新たな理論に気づいたのだが、周囲の魔力を収集し蓄積する方法を見つけ出してね。これから先、もっと楽しいことができそうだ」
ロイド先生は楽しいだろうが、実験する身としては不安でしかない。
結局は実験に付き合うんだけども。今みたいに。
僕は装置のスイッチを押し、起動させる。
「お。おぉ……」
「ユイちゃんユイちゃん、なんかすごい変な感じ!」
アルちゃんの言う通り、なんとも言えない不思議な感覚が体を襲う。
だが不快ではない。
ムズムズする感覚の延長というか、瞬間移動装置の時のような身の危険は一切感じない。確かに安全ではあるのかもしれない。
そして体を襲う謎の感覚が終わりを迎えたとき……ヘルメットが爆発した。
*
「ちょっとロイド、うるさいわよ! 実験するなら別の場所でしなさいよ! てかユイを実験台にしてるんじゃないでしょうね?」
工房の扉が勢いよく開けられ、セウルお嬢様が怒鳴り込んできた。
あのヘルメットの爆発音を聞いたら、お嬢様が黙っていないか。
「ちょっとクソ爺、私に声をかけずに実験を行ったんですの!? やるなら私を呼んでからなさい! というかユイ様になにかしたんじゃないでしょうね!?」
お嬢様に続き、ライムさんも工房へとやってきた。
ライムさんはこの工房に所属する学生だから、来てもおかしくはない。
むしろもう少し早く来ていたら、僕たちと一緒に実験を喜々としてやったかもしれない。
「お嬢様、ライムさん、落ち着いてください」
爆発の衝撃が強く地べたにの転がった状態だが、僕は2人に声をかけ、何も問題ないことを伝える。
が、
「ん? だれあなた? ロイド、また新しい生徒でも入れたの?」
「クソ爺、もしかしてこの可愛らしい女性を実験台にしたんですの? 救いようもないクズですわね」
2人とも僕であると気が付いてない様子だ。
ああ、そうか、性転換したから、見た目もそれ相応に変化しているのだろう。
詳しく説明しないと。
地面から立ち上がって事の成り行きを伝えようとする。
「あっ……」
普通に何事もなく立ち上がろうとすると、僕が身に着けていた衣服がストンと落ちてしまった。
女性になったことによりウエストやら何やらが急激に細くなったようで、服なサイズが全く違くなってしまったようだ。
……というか、ついてない。
ズボンが落ちないように押さえ、衣服を肌に押し付けていた故に気づいたのだが、あるべきはずのものがなくなり、ないはずのものがついている。
完全に女性になってるなぁ。
「ねえロイド、あんたの趣味にとやかく言うつもりはないけどさ、これはさすがにどうかと思うわ」
「というか普通に不愉快ですわ! あなた大丈夫ですの? そこの変態に何か変なことされていませんこと? もし事後だというのなら、代わりに殺して差し上げますわよ?」
あ、完全にロイド先生が女性を連れ込み、暴行を働いたと思い込んでいるようだ。
確かに今の状況を整理すると、サイズの合わない服を着せられている女性と、そのすぐそばにいる男性、明らかに変態的行為が行われようとしているか、もしくは行為が終わった後にしか見えない。
「ま、待て2人とも、それは誤解だ! 冷静になれ!」
自身にあらぬ疑いをかけられ慌てふためくロイド先生、けど必死に弁明しようとすればするほど怪しく見えてしまう。
そういえばアルちゃんはどんな反応してるんだろう?
もともと女性っぽいからそんなに変化はなさそうだけど、
「こ、これ……」
アルちゃんは自身の体をまさぐり、体の変化を認識している。
胸や下半身、そして顔をペタペタと触り続け、そっと胸に手を当てる。
「アルちゃん、大丈夫ですか?」
「あ、うん、大丈夫だよ。変な感じはするけど、特に問題はないみたい」
そういうアルちゃんを見て感想が一つ。
何か変わった?
胸が少し膨らんでいるように見えるが、それ以外は顔も声も何もかもが変わっていないように見える。
やっぱり元が女性っぽいからか。
「大丈夫そうならよかったです」
「うん、心配してくれてありが……と……う……」
アルちゃんは僕の方を向き、声を出すが、その声が途切れ僕の顔をじっと見始めた。
いや、顔というよりも、僕の額を……
「それ……」
そして信じられないものを見るかのように、僕の額を指さす。
何かあるのかと思い額に手を当ててみると。
「あ……」
お嬢様につけてもらった額あてが、外れてしまっている。
額あては僕のサイズが小さくなり、さらには爆発の衝撃で吹き飛んでしまい、地面に転がっている。
そのせいで、隠していた僕の額が……額の宝石が、露になってしまった。
「ユイちゃんって、魔石の一族……だったの?」
振るえながら指をさし、問いかけるアルちゃん。
それに付随して、セウルお嬢様も声を上げる。
「え……ユイなの?」
この状況、どうすればいいのだろうか?




