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第51話 「友達との食事」

「ねえユイ、今日アルの戦い見に行ったんでしょ? どうだった?」


「友達になりました」


「ファッ!?」


 突然口から料理を吹きこぼすセウルお嬢様。

 そしてせき込み、苦しさからかうっすらと涙を流している。


「大丈夫ですか? はい、これで拭いてください」


「あ、ありがと……じゃなくて、アルと友達になった!? なんで!?」


「なかなか面白い人でしたね。明日はアルちゃんと一緒にご飯を食べに行く約束をしたんです」


 友達と約束なんて初めてで変な感じだけど、何事もなく終わるといいなぁ。


「いや一緒にご飯って。しかもアルちゃんって、どんだけ仲良くなってんの!?」


 いまだ取り乱すセウルお嬢様に、アニスさんは呆れたような顔つきをする。


「落ち着いてくださいお嬢様。ユイ君のことです、そうやって敵を油断させる作戦ですよね? 友達にまでなるのは驚きですけど」


「いえ、別にそういうつもりは一切なかったです。友達になろうって言ったのも、アルちゃんの方からですし」


「え……そ、そうですか」


 珍しくアニスさんがうろたえた様子を見せた。

 確かに改めて考えてみると、僕の行動っておかしいな。

 友達になろうと言い出したのはアルちゃんの方からだけど、それを了承したのは僕だ。

 普通なら今後戦う人と仲良くしようなんて思わない。何かの打算があるのならわからなくもないが、アルちゃんにそんな打算があるようにも見えないし、僕も友達になること自体、打算があったわけじゃなかった。

 本当に、ただ何となく、友達になってもいいと思ったから友達になっただけだ。


「今の僕の行動は、おかしいですかね?」


「正直おかしいですね。でもまあ、課題をどう達成するかの指定はないんですし、どれだけおかしくても問題ないですよ。そもそも、目的が達成できればその過程はおかしくなかった、ということになるんですし」


「なるほど、確かにそうですね」


 その理屈は正しい。圧倒的に了承できる。

 ただ訂正しなければいけないのが、アルちゃんと友達になったこと、その経緯は、課題の達成と何の関係もないということだ。

 僕とアルちゃんの関係は、いつかは戦うことになる、しかしそのことは互いに了承している、正真正銘、ただの友達……だと思う。

 向こうには何か考えがある可能性があることも否定できないが、少なくとも僕は何も考えていない。

 いざ戦うときにどんな手を使うかは考えている。

 けどそのためにアルちゃんとの今後の交流で何かをするつもりは一切ない。

 ……始めて友達と認識して友達になった存在と、普通に過ごしたいだけかもしれない。


「ねえユイ、一つ聞いてもいい?」


「はい、一つと言わずなんでも答えますけど」


「じゃあ聞くけど、アルに勝つ算段はついているのよね?」


「……正直、微妙ですね」


 僕とアルちゃんの基礎能力には差がある。力はバランスがいい万能型、型にはめれば案外あっさりと終るかもしれない。

 けど、戦いを観察し、多少の会話はしただけだけど、バカではないと思う。

 むしろあの学園の生徒にしては頭がいい方だと、そう感じた。

 簡単に罠にはまってくれるような事態にはならないと思う。


「はあ? なのに、悠長に友達になんかなったの? マグナみたいに夜襲をかけるとか?」


「一つの手としてはありですけど、あまりうまくいく気はしないですね」


 アルちゃんは観客席の中にいる僕の視線に気づいた人だ。暗闇での夜襲をかけても、気取られる可能性が高い。

 その結果、手の内の一端をさらすことになり、少しといえど不利になる。

 ちょっと相性が悪いと思う。


「まあ、頑張りますよ。いろいろと考えてはいるんで」


「頼むわよ。アルなんか通過点に過ぎないのよ。最終目的はアイラなんだから」


 通過点か。まあ普通に考えればそうか。

 けど、僕にとってはアルちゃんこそ最終地点だ。

 こう言ってはなんだけど、アイラさんには負けるイメージはわかない。


     *


「ユイちゃん、何食べに行く?」


 アルちゃんとの約束で、今日の昼食は一緒に取ることになっている。

 こうして誰かと横並びで歩いて、一緒にご飯を食べに行くなんてことが僕の人生で起こるなんて想像していなかっただけに、正直僕は今、戸惑っている。


「アルちゃんの好きなものでいいですよ」


 僕はこういう時に自分の意見を言える人間ではない。 すべて丸く収まれば何でもいい、そんな事なかれ主義の僕は基本的にすべての決定権を他人にゆだねても問題ない。

 友達の在り方として正しいのかどうかはわからないが。


「いいの? じゃあ、気になるケーキ屋さんがあるんだ。そこでもいい?」


 ケーキか、昼食なのに。

 なんというか、女子らしいと言えば女子らしいのか、でも女子だって昼食をケーキにするなんてレアケースだろう。

 まあ僕は別にいいけど。


「いいですよ」


「ありがとう! 実はさ、ああいうお店に男一人で入るって恥ずかしかったからさ、ユイちゃんが一緒に来てくれて、すごいうれしい!」


 まったくもって恥ずかしがる必要なんてないと思うけどな。

 正直言ってアルちゃんは普通の女子よりも女子らしく、普通にかわいい。

 ひとりでケーキ屋さんに行っても何の違和感も感じないだろうし、むしろそこらの女子よりもよっぽど様になると思う。


「楽しみだなぁ、初めてお友達とケーキを食べに行くなんて、夢みたい」


 ……本当にかわいい人だな。

 プライベートなこの人を見ていると、序列が223位であることは当然ながら、この学園の人間であることすら疑わしい。

 戦いなんて言葉はこの人から最も縁遠いものに見える。

 けど、なんか今の状況が普通の学生っぽくて、悪い気はしない。

 自分を罪深い人間であると分かっていても、今のこの状況に身を任せてしまう。


 そうして何分か歩いて、目的のケーキ屋さんまでたどり着いた。

 店内は可愛らしい装飾が施されていて、客はすべて女性だけだ。


「わぁ、おいしそうなケーキがたくさんだよ、ユイちゃん」


 アルちゃんは子供の様に無邪気な笑顔を見せ、目を輝かせている。


「そうですね。僕も甘いものは好きなので、ちょっと楽しみです」


「普段はあまり来れないし、めいっぱい楽しもうね!」


 僕とアルちゃんは、普通にケーキをたくさん食べて、普通に会話をして、普通にこの時間を楽しみ、時間が過ぎていった。

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