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第50話 「はじめての友達」

 さてと、ライムさんを軽くボコボコにしてから、僕はこの闘技場を後にする。

 何をしているかわからないけど、ライムさんは中々に力をつけているように感じる。

 ボコボコにしたとはいっても、確実に僕との差は詰まっている。

 あとは力押しの戦いにほんの少しでも知略が加われば、少々厄介な存在になるだろう。

 と、ライムさんを再評価していると、


「やっほー」


 誰かが話しかけてきた。

 僕はあたりを見回し、僕に話しかけていることを再確認する。

 その人は、


「アル・クールさん……」


 標的にしている男性その人に声を掛けられ、僕は硬直する。

 それに対し、アル・クールさんは満面の笑顔を向けている。


「君さ、私になんか用?」


「え?」


 わけがわからなかった。

 僕とアル・クールさんに接点はないはずだ。

 僕が勝手に視線を送っていただけで、話しかけたことなど一切ない。

 にもかかわらず、何か用がないかと尋ねられた。


「あ……と……」


「あれ、違った?  さっきの戦闘で、特別な視線を感じた気がしたんだけど」


「……気づいていたんですね」


「そりゃあんなに熱い視線を送られたらね。私、そういうのに敏感なんだ」


 何というべきだろうか。

 あれだけの人数がいながら僕の視線に気づくほどの人だ。下手な言い訳はあっさり見破られるはず。

 かといって本当のことを言うべきか否かで言うと、言うべきではない。

 あなたを倒すために観察していました、などバカにもほどがある。

 そうして何を言うべきか考えていると、


「あーそんなに警戒しないでよ。別に私、君に何かするつもりはないんだし」


「……別に、僕もあなたに何か言うつもりはありません。何か失礼なことをしたのなら謝ります。すいませんでした」


「固い、固いよ! 私と君ってそんなに年変わらないでしょ? もっとフランクに話そうよ」


 などと朗らかな笑いを見せるアル・クールさんに、ある感想を抱いた。

 可愛らしい人だな、と。

 声や話し方や仕草が、男性よりも女性らしさを感じさせる。

 何よりも容姿が、中世的というかなんというか、女性と言っても信じてしまいそうだ。

 事前に男だということは知っていて、闘技場では戦闘にのみ注力していたゆえに気にしなかったけど、大きな緑色の瞳、水色のような透き通った色の肩にかかるほどの髪、手に収まってしまいそうな小顔、華奢な体躯、どれをとっても女性の持つ要素としか思えない。


「ん、どうしたの?」


 あなたの顔と体をじっと見ていました、などと言えるはずもなく、何も言えずに口ごもってしまう。

 そんな気持ちの悪い反応を示す僕に笑いかけながら、


「そういえばさ、君の名前は?」


「え……と、ユイ・イチホシです」


「ふーん、ユイちゃんか。私は……って、知ってるか。けど一応、アル・クールだよ。アルちゃんって呼んでくれるうれしいな」


 なんて人懐っこい人なんだろう。僕みたいな人間にこんな反応を示してくれるなんて。人によっては馴れ馴れしいと言ってしまいそうだ。


「はあ、アルちゃんですね」


 人の呼び方に特に何も思わない僕は、ためらいなくちゃん付けで呼ぶ。

 いや、ちょっと恥ずかしいな。やっぱりさん付けにすればよかったかも。

 けど今更呼び方を変えるのも失礼な気がするし。


「うん、よろしくね! で、私に用事はないってことでよかった?」


「はい」


「この後の予定とかってある?」


「いえ、特には」


「じゃあ遊ぼ!」


「……はい?」


 無邪気な笑顔での遊びのお誘い、なんと自由奔放な人なんだろうか?

 いや、もしかしたら僕の狙いに気づいて、探りに来ているのかもしれない。

 こんなに可愛らしい見た目をしていても序列223位の男性、侮ってはいけない。


「用はないですけど、急にそんなことを言われても」


「倒そうとしている人に誘われて、不安?」


「っ……!」


 僕の考えを見透かされていたのか、思わず息をのんでしまう。

 そんな反応が愉快だったのか、アルちゃんは口角を上げて、語り続ける。


「別にそんなに警戒しないでよ。私を倒そうとする人なんか数えきれないくらいいたし、どんな人だって仲良くするのが私のモットーだし」


「にわかには信じられないですね。この国の人が、みんなと仲良くなんて」


「あはは~、よく言われるよ。そのせいで変人扱いされるんだよ、参っちゃうよね」


「僕としては本心からそう言っているのなら、好感持てますけどね」


「お、君もなかなかに変人なのかな? もしかして、私と仲良くしてくれる?」


「倒さなきゃいけない理由があるんで、そのあとがいいですね」


「そんなの気にしなくていいんじゃない? 友達同士でも喧嘩することくらいよくあるでしょ? むしろ、そういう関係に憧れちゃうなぁ。本当の友達って感じで」


「友達……ですか?」


「あれ、もしかして私なんかと友達になりたくない? だったら泣いちゃうよ?」


 アルちゃんは瞳を涙でにじませているが、明らかなウソ泣きだ。

 多分、この状況を楽しんでいるだけだ。


「いえ、そんなことは思っていません。むしろ……」


 友達と呼べる人がいたことない僕にとっては、誰かと友達になる、なんて想像が一切つかない。

 ライムさんとは妙な関係だし、ライさんとも話はするけど、友達と呼べるほど親しいかと言われると、そうでもない気がする。

 だから、僕なんかと友達になりたいのか、と聞いてみたくもあった。


「むしろ、なに?」


「いえ、なんでもありません。僕でよければ、友達になりますよ」


「ホントに!? やったぁ!」


 無邪気……そうに喜ぶアルちゃん。

 その反応が本当かどうか、判断しかねる。


 その後、倒すべき相手と晴れて友達となった僕は、明日一緒にご飯を食べる約束をして、家へと帰った。

 ……もしかしなくても、初めてちゃんと友達と言える人ができたかもしれない。

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