第49話 「弱い存在」
僕が次に狙う学生、アル・クール。
序列223位、優秀な序列ではあるが、今後のターゲット、アイラさんや僕の主人、セウルお嬢様と比べれば些か見劣りしてしまう。
しかしこの人にはある特異な点がある。。
学園での戦闘に置いて、一度も負けたことがないということ。
この学園で一度も負けたことがない人間は限られている。
先ほど挙げたアイラさん、セウルお嬢様、そしてアラムさんに他の十指が二人だけの計5人しかいないのだ。
さらに言えば、このアル・クールさん、過去の戦闘回数がアイラさんに次ぐ歴代第2位だ。
戦った人間の強さは自身の序列以下に限定されてはいるが、それでも異様な成績である。
そんな人の戦いを見るために僕は闘技場まで足を運んだのだが。
「ユイ様、今日の私との戦闘の準備をしないで大丈夫ですの?」
観戦する僕の横で、ライムさんが尋ねる。
僕はこの後ライムさんと戦うことになっている。
普段から私に愛を与えてくださいと高らかに叫ぶライムさんに、僕ではなくロイド先生が我慢の限界だったようだ。
うるさくされると研究の邪魔だと、なんとかしろと、そう僕に言ってきた。
そして考え出した案として、1か月に一度、ライムさんと戦う約束をしたということだ。
本当ならアル・クールさんの偵察に専念したいところなんだけど。
「今日の一番の用事はあなたじゃないんです。少し静かにしててください」
「はうっ! そんな素っ気ない反応もまたいいものですわ!」
最近、ライムさんのあしらい方がよくわかってきたつもりだ。
何も考えずに返事だけをする。
そうすれば勝手に喜んでくれる。
「そろそろですね」
今日の目的、アル・クールさんの戦闘が始まる時間だ。
223位と351位の戦い、それなりの戦いが見れそうだ。
序列だけで見れば互角に近い力量のはず。
うまくいけばアル・クールさんの技量のすべてがわかるかもしれない。
高望みしすぎにしても、何らかの情報は得られるだろう。
なんといってもアニスさんが対戦相手に選んだ学生だ。
普通とは違う、特殊な能力があるに違いない。
「あの方がユイ様が見たがってた、アルさんですのね? ホントに男ですの? 弱そうですわ」
つまらなそうに視線を送り、さりげなく僕の肩に手を置いてくるライムさん。
今のライムさんとの序列は天と地ほどの差があるというのに、どうしてこんなに強気になれるんだろうか?
そのメンタルの強さだけは、少し分けてほしいくらいだ。
「見た目だけで判断して、僕に負けたのを忘れたんですか?」
「とても気持ちのいい敗北でしたわ。私はラッキーでしたわね」
負けたことを心の底からラッキーだと言っているようだ。変態さんの気持ちはよくわからない。
そうこう言っているうちに、戦闘が始まった。
立ち上がりはいたって普通だ。
お互いが魔法を放ち、その後に魔力を体に巡らせ敵との距離をとる。
なるほど、属性は火か。
見たところ魔力の扱いは僕以上、魔力量なら僕が上といったところか。
その後も戦いは続くのだが、至って普通の戦闘風景だった。
魔法を打つ、殴り合いをする、再び魔法を放ち、といったことが十数分ほど続く。
同じような光景の繰り返しで、正直ただの力比べみたいになっている。
「退屈ですわね」
ライムさんが言葉を漏らし、あくびまでしている。
確かに、代わり映えしない光景が続き、セウルお嬢様のようなド派手な工房みたいなものは一切ない。
けど……なんだろうか、違和感がある。
戦い方を見る限り、僕よりは強い。
普通に戦えば100回やって80回以上負ける、それくらいの力量差はある。
それなのに、この勝負を見てて拭いきれない妙な違和感が……。
そう考えていると、戦闘に変化が訪れた。
序列351位の男が露骨に距離を詰めようとしてきた。
おそらく魔力が残り少なくなり、勝負に出たのだろう。
それに対しアル・クールさんは急速に後退して距離を保つ。
そして、魔法を放ち対戦相手を追い詰める。
「やっと勝負がつきそうですわね」
ライムさんのつぶやき、それが引っ掛かった。
やっと……やっとか。
むしろ、もう終わるのか、と思ってしまう。この戦いを僕は、もう少し長引くと予想していた。
見た感じ、2人の力量差はそれほどでもない。
いやむしろ……アル・クールさんのほうが弱い?
若干の、違和感程度にしか感じないほどだが、弱いんだ。
序列223位の方より、序列351位の方が強い。
思い返せば、最初の方は351位の方が押している風に見えた。
にもかかわらず、時間が経てば経つほど力は拮抗し、そして今のように力関係が逆転している。
思考を重ねているうちに、いよいよ勝負はついてしまった。
結果はアル・クールさんの勝利、しかも傷一つついていない。
実力差はそんなにないにしても、アル・クールさんの方が弱い、なぜこんな結果になったのか。
「……あ」
もう一つ、気づいた。
疲れた素振りを見せてないんだ。
魔法を絶え間なく乱発し、接近戦も積極的に行っている。
にもかかわらず、一切の衰えを見せていない。
これはおかしい。
目視した限り、それほど魔力量が多いわけではない。
平均よりは多いが、僕よりは少ない。
そんなアル・クールさんは、悠々とこの闘技場から出ていく。
「異常なまでの魔力の回復速度……か」
力の一端がわかった。
持久戦は論外、やるなら短期決戦か。




