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第47話 「一人目の強く哀れな男」

 アニスさんの提示した 3 人の 1 人、アイラさんの情報は入手した。けど戦うのはまだずっと先の話だ。

 アイラさんの序列はお嬢様を上回る2位、今戦って勝っても他の2人と戦えなくなってしまう。

 最初の標的、それは、


「マグナ・ガンズさん、でお間違いないですか?」


「ん?ああ、そうだけど」


 学内序列第456位、マグナ・ガンズ。

 僕より年上の、幼少期からこの学内国家に在籍する学生だ。

 授業という名の自主練のさなか、僕は他クラスにいるマグナさんの元まで訪ねた。倒すべき情報を得るために。


「えっと……お前だれ?」


「はじめまして、僕はユイ・イチホシといいます」


「ユイ……お前がシュテルの奴隷か!?」


 セウル・シュテルの奴隷として、僕はこの学園でそこそこ有名らしい。

 入学して間もなく序列が1000位台というのも、名を広めるのに一役買っている。


「はい、お嬢様の奴隷をさせてもらっています。今日はマグナさんにお話があって」


「俺に話?」


 突然の来訪、奴隷という身分の僕に、単純に何の用事だろうかと、疑問の顔を浮かべている。

 不快感を感じた様子は微塵もない。

 学園に入学して少したってから分かったことだが、この学園の人間は身分をあまり気にしない。

 たとえ奴隷であろうと強者は強者として扱い、露骨な差別をすることは少ない。学内スレイブに対しては弱者ゆえ、ひどい扱いをする者もいるが。


「はい、以前マグナさんのお話を聞いて、ぜひお近づきになりたいなって」


「へぇ、俺のうわさってどんなの?」


 僕の言葉に何の疑問も抱かず、むしろ嬉しそうに前のめりに聞いてきた。その無垢な顔を見て、ほんの少しだけ、胸に痛みを感じた。


「相当な強さを持っているって聞きました。特に魔力の扱いに長けた人と。ぜひ戦闘についてご教授を受けたいと思いまして」


「……え? 俺に教えを請いたいってこと?」


 マグナさんは嬉しい表情から一転、怪訝な顔を浮かべた。


「はい、強くなるためにぜひ」


「マジで言ってんの?」


「マジです。マグナさんほどの人から教えを受ければ、僕も強くなれると思って」


「……ふーん」


 マグナさんの目が、変わっていくように見えた。

 うわさを聞いたと言った時の嬉しそうな表情ではなく。教えを受けたいと言った時の怪訝な顔でもなく。

 前の世界で見続けていた、人を見下す目へと変貌を遂げていた。


「なあ、見てろよ」


 見下した目を変えずに、腕を上げて手のひらを壁に向けるマグナさん。はた目から見ても、魔力が練り上げられているのがよくわかる。

 鍛錬を重ねているのが感じられる、精錬された魔力だ。


「はっ!」


 10秒ほど練りこまれたその魔力は、マグナさんの声とともに手のひらから放たれた。炎でも水でも風でも土でもない、ただの魔力の塊が、壁にぶち当たる。

 壁は砕け、後者の敷地外から突風が流れ込んでくる。


「これが俺の実力だ」


 そう言って、僕に背を向けた。


「工房の仲間ならともかく、全く関係ない奴に強くしてくれなんて言う腑抜け、相手になんかしてらんないんでね」


 僕に対する興味を一切なくしたように、見向きもせずに校舎内へと入っていく。その後姿を見ながら、今のこの状況を分析する。

 マグナ・ガンズ、あの人はとても誇り高い人らしい。

 強くなるためとはいえ人に頭を下げることなど許さない、生粋の戦士。ゆえに、僕のような人間はどうでもいいのだろう。

 頭を下げることもなんとも思わないプライドのない人間。自らの力を信じない信念なき人間。

 きっとマグナさんの目に僕は、虫けらのように映っていたんだろう。これが、人間的な分析。


 戦士としての分析は、正直かなり強い部類だ。

 魔力の塊、それの放出であれほどの威力を誇るのなんて、セウルお嬢様くらいだと思っていた。

 大量の魔力を集中させなければいけないし、中途半端な練度の魔力では壁にぶち当たる前に霧散してしまう。

 確かな技術と魔力量がなければ成立しない攻撃を、いとも簡単に繰り出したあの人は確実に僕よりも強い。


 人よりも魔力が多いだけ、一応は特異属性でもある。

 そんなアドバンテージが吹き飛ぶほど、基礎能力は僕よりもはるかに高い。それは当然の話だ。

 僕はこの世界に来るまで喧嘩の一つもやってこなかった。人を殴ったことだって一度もない。

 魔力についても知らなかったのだ。

 意思も、技術も、何もかもが僕には足りていない。


 ライムさんのような力押しだけの戦い、それならば対処の方法はいくらでもある。

 アニスさんの指導のおかげで、この世界の基準よりも強い位置にいることだってすでにわかりきっている。

 けど、この戦闘が当たり前の世界である学園国家において、学内序列1000位以内の真の猛者たちとは比べるまでもない。

 真正面から戦えば僕の敗北は必至、避けようのない未来だ。そう、真正面から戦えばだ。


「……仕方ないけど、勝とう」


 勝つだけならどうにでもなる、そう思い、僕はマグナさんへの対戦申し込みへと赴いた。


     *


 時刻は夜の11時、魔力による街灯と月明かりにのみ照らされ、夜中ではあるが問題なく歩行できるほどの明るさはある。

 注意深く見ればその人の一挙手一投足を逃さずとらえることができる。

 この学園国家ではとりわけ、魔力を用いた道具が豊富であり、常に明かりをともす街灯は稼働している。

 こんな時間に出歩くなんていつぶりだろうか。

 前の世界では、バイトで夜中に出歩くことなんか日常茶飯事だった。

 しかしこの世界では、夜中では基本的に勉強か訓練、夜中に外に徘徊するなんてことは一切ない。

 ではなぜ僕は、屋敷の周辺ではなく夜中の学園国家の通路にいるのかといえば…… 街灯に照らされながら、数人の学生がこの通路を歩いてくる。

 みな笑顔で語り合っており、今どきの学生感がにじみ出ている。

 その内容は魔力による攻撃ではどのようにすれば相手に致命傷を与えられるか、という物騒なものではあるが。

 そんな魔力談義をしている学生たちの中心に位置するのは、僕が今日話しかけ、軽蔑の目を向けられた生徒、マグナさんだ。

 彼らは歩きながら話を続け、ふと、こんな話題に変わった。


「そういえばマグナさん、明日、試合をするんでしたよね?」


「ああ、この前編入してきた、奴隷の首輪してるユイってやつとな」


 僕の存在に気付いているのではないか、そう思えてしまうほどにピンポイントでタイムリーな話題だ。

しかし僕に気づいている様子はなく、たまたまこの話題になっているだけのようだ。


「強いんですか、その学生?」


「正確な強さはわからん。だが、つまらない奴だよ。話したこともない俺に、いきなり戦闘について聞きたいって言ってきたんだよ」


「は?初対面でそんなこと言ったんですか?」


「当然、門前払いしてやったよ。確かに俺は強いぜ? 序列こそ3桁だが、興味ないだけでやろうと思えば、二桁だって余裕だしな」


「そうですよね。特に遠距離への魔力放出攻撃だけに限るなら、序列 10 位以内の、神の十指にだって引けを取りませんからね。正直な話、なんで序列上げようとしないんですか?」


「雑魚ってわかりきってるやつらと戦うより、こうして工房で研鑽してるほうが強くなれるんだよ。お前らと一緒にいるほうが全然益になる」


「マ、マグナさん……自分、そこまで言っていただけて感激っす。しかし、そんなマグナさんのお手を煩わせるなんて、そのユイってやつ、今度シメてやりましょうか?」


「やめとけ、プライドのない雑魚にかまうのなんて時間の無駄だ。それにどうせ、明日俺がコテンパンにのすんだから、必要がねえよ」


「そっか、それもそうっすね」


 ひどい言われようだ。

 実際、プライドなんてかけらも持ち合わせていないから怒りもわいてこないけど。しかし、マグナさんはそんなにも強かったのか。

 本当の実力は序列10位に限りなく近く、遠距離攻撃なら十指の人たちにすら届きうる。まともに戦ったら勝てる可能性は皆無だろうな。

 というわけで、まともになって戦いません。

 僕は魔道具研究工房にて、ロイド先生が作成した魔力爆弾、そしてアニスさんお手製の火薬たっぷりの爆弾を手に持ち、それをすぐそばで歩いているマグナさん率いる学生たちに向けて、投げつけるのであった。


     *


「あー、マグナ・ガンズは先日、大けがをしたとのことにより今回の勝負には参加できん。よって、まあ……ユイ・イチホシの不戦勝とする」


 限りなく最小限の力を持って、僕はマグナさんとの戦闘に勝利した。

 すでに戦闘申請が受理されていたことにより、けがをしたマグナさんの自己責任として、戦闘は問題なく僕の勝利となる。

 アニスさんに与えられた課題、そのうちの一人に、僕はほんの少しの手間だけで勝ったのであった。

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