表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/179

第45話 「魔力吸収」

「ユイ君、ちょっと実験に付き合ってくれないか?」


 おもむろにロイド先生から、一つの石を手渡された。


「なんですかこれ? 魔道具ですか?」


「ああ、その石に魔力を込めてみてくれ。なに、命にかかわるようなことは決してない」


「はあ、わかりました。やってみます」


「ユイ様、ちょっとは躊躇しないんですの?」


 呆れ交じりにライムさんに言われるが、命にかかわらないというのであれば別に何をしてもいい。

 それについこの間、大誤算によって僕を傷つけたばかりで、そんな危険なものを使わせないだろう。

 と、楽観視して指示通り石に魔力を込める。


「……なんか、変な感じです」


 石に魔力を込めた瞬間に、体の力が抜けていく感覚に陥る。

 ほんの少し眩暈もして、思わず石をその場に置いてしまう。


「ユイ様!? このクソ爺、また失敗ですの?」


「……失敗といえば、失敗かな?」


 と、呑気なことを言うロイド先生に、ライムさんが鬼の形相で近づく。


「ライムさん、僕は大丈夫です。ちょっとクラッときましたけど、あの瞬間移動装置に比べたら全然楽です」


「つらい思いするのなら同じじゃないのかしら? ユイ様、本当に一度、本気でこのクソ爺に鉄槌を食らわせるべきだと思いますわよ? その資格も十分にあるでしょうに」


「別にこれくらいのことでやり返そうなんて思いませんよ。ライムさん、僕は本当に大丈夫ですから」


「ユイ様がそういうのでしたら……で、クソ爺、この魔道具はどんな効果なんですの?」


「対象の魔力を根こそぎ奪う魔道具だ」


「危険極まりないじゃないですの! ぶっ殺しますわよ!」


 そしてライムさんの魔の手はロイド先生の首にかかる。


「ま、待つんだライム君、話せばわか……ぐえっ!」


「死んじゃいますよ。その辺でやめておいてあげたほうが」


「バカは一度死なないと治らないんですわよ、ユイ様」


 そう言って、ライムさんの手にますます力が入っていく。

 ロイド先生の顔色はどんどんと青くなっていって、これ以上は本当に危ない。


「もうやめましょう。僕がいいって言ってるんです、お願いですから、やめてください」


 ライムさんは渋々、首に回していた手を放す。

 ロイド先生は激しくせき込みながら、苦しそうに床に寝転がる。


「まったく、実験が失敗に終わったからいいものの、魔力を根こそぎ奪えば生死にかかわるんですのよ。このクソ爺は何をもってこんな危険なものを……」


 石を手に取り、失敗と言い切った魔道具に遊びで魔力を注入するライムさん。

 何事もなさそうに、石をコロコロと手で回して遊んでいるように見えたのだが、そのすぐ直後にライムさんが泡を吹いて倒れた。


「……実験成功」


 ボソッとつぶやくロイド先生を、瀕死の状態で睨みつけるライムさん。

 あ、表情がちょっと恍惚だ。怒りながら感じているな。


「こ、これ……本当、に……ヤバ、い……です、わ……」


 息も絶え絶えになっていて、快感以上に苦痛の方が大きいようだ。

 この魔道具の実験が成功なのだとしたら、どうして僕は無事だったんだろか?


「ユイ君、ちょっと体を触らせてもらってもいいかな」


 ロイド先生に尋ねられたので、僕はそれを了承する。

 体を触らせるぐらいなら、何も問題はないだろう。


「ふむ、なるほど」


 そう声をあげながら、僕のおなかや二の腕あたりをベタベタと触りながら分析している。

 なんか、妙な気分だ。

 恥ずかしいような、気持ち悪いような……


「うむ、わかったよ」


 そういって、ロイド先生は床に落ちた魔道具を拾い上げた。


「ユイ君は体が丈夫なんだね。ライム君やほかの人間ならば魔力に頼り切った生活のせいで体自体が弱いが、ユイ君は魔力なしでも十分に生きていけるほどの体の丈夫さを持っているようだ。まるで、今まで魔力なしで暮らしてたみたいだ」


 ああ、なるほど。確かに魔力で体が強化されていたら、それ相応の負荷でなければ筋力を鍛えることはできない。

 ゆえに、魔力のない生活をしていた僕は魔力を吸われても平気で、魔力を常に体中に巡らせているこの世界の人たちは体そのものは弱く、魔力がなければロクに立つこともできないほどに弱々しいのか。


「さて、実験は成功だと分かった。ユイ君、すまないがこの魔道具をこの場所に届けてきてもらえないかね?」


 ロイド先生から一枚の紙を手渡された。

 それには地図が描かれていて、金貨10枚と、この魔道具の値段も書かれていた。


「これ、依頼されて作ったんですか?」


「ああそうだよ。何に使うかはわからないが、結構な金額を提示されたから、頑張って作ってみた」


 こんな魔法使い殺し、絶対ロクな目的じゃないだろう。

 そう思いながら、地図に書かれた場所まで魔同部を持っていく。


     *


「ここかな」


 目的地にたどり着いた。

 そこは、肉体強化研究工房と書かれていて、中から野太い男の声が聞こえてくる。 

 まるで高校の部活動のような熱気が、ドア越しからも伝わってくる。

 僕はドアをノックし、中からの反応を待つ。


「入りたければ勝手に入れ」


 聞いたことのある声色が、中から聞こえた。

 僕はドアをゆっくりと明け、中の様子を確認する。

 そこには、


「2414、2415、2416……!」


 数十人の男が、大量の汗を流しながら腕立て伏せをしていた。

 その中心には、学内序列10位、オズキ・クランさんがいた。


「ん、貴様か。何の用だ。我が工房に入りに来たのか?」


 腕立てを中断して、僕の元まで歩み寄るクランさん。

 ……正直な話、鼻を抑えたいほど汗臭い。


「いえ、今日はこの魔道具を渡しに来たんです。ロイド先生に頼んでいたんですよね」


 魔力を吸い込む魔道具を手に乗せ、クランさんに見せる。


「なぜ貴様がこれを?」


「ロイド先生に頼まれたので。これを持っていってくれって」


「ロイドがお前に?」


「一応、僕はロイド先生の工房に所属する生徒なんで、こういうおつかいもしなくちゃいけないんですよ」


「貴様が、ロイドのところに? 知能が高い奴だとは思っていたが、それほどとは……魔道具に関しては感謝する。待っていろ、今金貨を持ってくる。それまではあいつらと一緒に腕立てでもして待っていてくれ」


 くつろいで、ではなく腕立てをしながら、か。

 なんというか、クランさんはきっと、勤勉の積み重ねで今の地位にたどり着いたんだろう。

 自他ともに厳しくあり、そうしてつかみ取った序列10位の座。

 改めて、この人に尊敬の念を抱いてしまう。

 だからかな、言われた通り腕立て伏せをしてクランさんを待った。

 ……腕立てをして気づいたけど、体が軽い。

 10を超えたあたりは当然としても、50を超えても一切の疲れが見えない。

 無限に腕立てができるとさえ錯覚するほどに、腕に負荷がかからない。

 これが魔力による力の賜物なら、なるほど、そう簡単に体を鍛えることなんてできない。

 新たな発見をしてからさらに腕立てを100回ほどしたのち、クランさんが金貨を持ってきた。


「待たせたな、約束の金貨10枚だ。確認してくれ」


「はい……確かに。それにしても、こんな道具、何に使うんですか?」


「もちろん、俺の魔力を吸い出すためだ」


 そう言って、クランさんは躊躇なく魔道具に魔力を込めた。

 ライムさんは1秒魔力を流しただけで卒倒したのに、クランさんは5秒ほど流し続けても平然としている。


「なるほど、力が急激に抜けていくな。効果のほどは確認できた、感謝する」


 自分の魔力を完全に吸い出されたのを確認してから、クランさんは腕立て伏せを再開した。

 この人は、どこまでも真面目で、努力家なんだな。

 体に高負荷をかけるために、あえて体内の魔力を空にする。

 そうすれば筋トレの効果は飛躍的に上昇することを知っているからだろう。

 でも、ライムさんを見れば魔力の枯渇がどれほどの苦痛かわかるだけに、クランさんが自発的にそれを行うことが、素直にすごいと思う。

 この人はなぜ、こんなにも愚直に高みを目指せるんだろうか。

 多分、僕には一生わからないだろう。


「それじゃあクランさん……」


「オズキでいい」


「あ、じゃあ……オズキさん、頑張ってくださいね」


「貴様もな、ユイ」


 腕立て途中にもかかわらず僕のほうを向いて、ほんの少しだが笑みを浮かべて、送り出してくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ