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第42話 「テスト」

「……誰かね?」


 工房に入ると、中にいた高年の男性が僕を見て尋ねた。


「あ、僕、この前編入してきたユイ・イチホシです。ちょっと見学しててもいいですか?」


「構わないが、ここからここの魔道具だけなら見てもいい。こっちの魔道具は触れないように」


「ありがとうございます」


 男性の指定した場所には、無数の道具が揃っている。

 道具というよりも、機械という言葉の方がふさわしい気がする。


「これ、何に使うんだろ?」


 適当に一つ持ち上げてみるが、何の用途で使う物なのかが全く分からない。

 箱のような形をしているが、上下左右見ても、スイッチのような物は見当たらない。


「君、ここの道具は魔道具だ。魔力を込めれば使えるようになるよ」


「あ、はい」


 言われるがままに、魔力を通してみる。

 すると機械は光だし、ゴーッと、大きな音が鳴りだした。

 そして周囲にあった小さなごみを、あっという間に吸収し始め、箱に収納している。

 効果から察するにこれは、掃除機かな?

 僕は掃除機と思わしき機械を、埃の溜まっていそうな隅っこにまでもっていく。


「ん? それがどんなものか分かったのかね?」


「なんとなくですけど。ゴミを吸い込む道具、ですか?」


「正解だ。初めて見た輩は大きな音にビビるものなんだがな」


「似たものを見ていましたから」


 しかしこれは、僕の世界にあった掃除機よりも有用だ。

 軽いから持ち運びは便利そうだし、どういう原理か分からないが、小さな箱の許容量をはるかに超えて吸い込んでいそうだ。


「これは何かな?」


 掃除機を一度おいて、今度は20㎝ほどの棒状の機械を手に取る。

 見た目では何が何やらわからないが、これはどんな効果があるのかな?

 と、魔力を込めてみると、パシャッ、という音が流れた。


「それが何か分かるかね?」


「……なんでしょうか? 音的にカメラかなとも思ったんですけど」


「今度はこの紙にその機械を押し付けながら魔力を流してみなさい」


「はい」


 言われて、僕は紙に機械を押し付けて魔力を流す。

 すると、薄っすらと色が浮き出てきて、最終的にこの部屋の風景が映し出された。


「やっぱりカメラだ」


「カメラ……という名は知らんが、それを見て驚かないのかね?」


「とくには」


 これも形は違えど僕の世界にあったものだ。驚くほどの物ではない。


「ふむ……君、見学と言ったが、この工房に入る気はあるのかい?」


「……興味はあります」


 正直この世界の技術レベルは舐めていたけど、これほどの物を生み出すこの工房に、興味が引かれている。

 お嬢様の工房とどっちに入りたいかと言われれば、迷わずこちらを選ぶほどに。


「そうか、ならこの課題を解いてみなさい」


「これは?」


「こう言っては何だがな、ここの学生はいかに魔力を効率的に扱うか、それを重視している。場所によってはそうではないかもしれないが、大抵の工房は魔力以外の知識を軽んじているし、受け入れる柔軟さも持ち合わせていない。つまり、私の工房にバカを入れる気はない」


「そのためのテストってわけですか」


「この問題を一問でも正解すればこの工房の所属を認める。もっとも、私以外にその問題を解いたものを見たことはないがね」


 ……だろうね。

 この学園の座学レベルは、正直言って小学生レベルのことをやっている。

 それに対してこの問題は、高校数学レベルの問題だ。

 たとえお嬢様でも、一問も正解できないと予想できる。


「制限時間は1時間ある。そこの机を使っていいから、終わったら言いなさい」


「はい、分かりました」


 僕は椅子に腰かけ、渡された問題を解き始める。

 高校数学レベルと言ったが、中にはセンター模試で見たような問題も交じっている。

 日々勉強はしていたけれど、この世界に来てからは数学も物理も化学も勉強してないし、解けるかどうかは微妙なところだ。

 けど……こうして問題を解くために考えているという行為が、楽しい。

 きっと僕は、根本的に勉強が好きなんだと思う。

 だからこの難題も、喜々として取り組んでいる。

 解けるかどうかは分からない。けど、全力を持ってこの問題に取り組んだ。


     *


 1時間が経過し、問題を解き終えた。

 正直、自信はある。

 まるっきりわからないという問題はなく、とりあえず答えを全て書くことは出来ている。

 数問は何度も見直して99パーセント正解だとも思っている。


「終わりました。採点をおねがいします」


「お、もう時間……ん? 全部解いたのか?」


「一応、計算するだけはしてみました。自信のないものもいくつかありますけど」


「……そうか。では採点するから、そこで待っていなさい」


「はい」


 そう言われ、僕は椅子に座って採点をジッと待つ。

 すると、突然ドアが勢いよく開かれた。


「ユイ、ここにいるの!?」


 お嬢様とライムさん、アラムさんの3人が勢いよくこの部屋に入ってきた。

 その様を見て、男性が採点を一旦中断する。


「シュテル、騒々しいぞ。ここには極力近づくなと言ってあるはずだが?」


「私の勝手でしょ。というか、ユイ、あなたこんなところで何してるの? 気付いたらいなくなってて、心配したでしょ」


「すいませんお嬢様。さっきまで問題を解いてて」


「問題?」


「はい、この工房に入るためのテストで……」


「ここに……入るですって?」


「ち、ちょっと興味が沸いちゃって……」


「帰るわよユイ。この爺、どうせユイを入れる気なんかないから」


 そう言って、お嬢様は僕の手を引っ張って工房から出ようとした。

 しかしそれを、ライムさんが制止する。


「お待ちなさいセウルさん。ユイ様がどの工房に入るかはユイ様の自由のはずですわよ?」


「……いや、ライム君、この工房は別だよ」


「別?」


「入りたい云々じゃなくて、そもそも入れないんだ」


「入れないって、どういうことですの?」


「ここの工房長、ロイド・ジーフ先生はね、とてもじゃないが解けない難問を解けなきゃこの工房には入れさせてくれない、意地悪な人なんだよ。僕もセウルも、他の学生も誰一人として、ロイド先生の出す問題を解いたものはいない」


「そういうこと。こんなとこにいるのは時間の無駄なのよ。ユイ、さっさと出るわよ」


「待ちなさいシュテル、その手を離すんだ」


 僕の手を引っ張るセウルお嬢様を、ロイド先生が制止する。


「なに、なんか用?」


「それは私のセリフだよ。私の工房に所属する生徒に、一体何の用なのかね?」


「は? なに言ってんの?」


「二度言わないと分からないか? ユイ君は私の生徒だ。乱暴はしないでもらいたいんだがね」


「ユイが……あんたの生徒?」


「その通りだ。君たちが解けなかった問題をユイ君は解いた。だからもう、彼はこの工房に所属する生徒だ。手荒な扱いはよしてくれ」


 その発言に、お嬢様とアラムさんが信じられないと言った表情で僕を見てくる。

 確かに、あの問題をこの世界の人が解くのは難しいだろう。

 多分、このロイド先生が特別な頭脳を持っている、それだけだ。


「あら、ユイ様が入るのでしたら私もここに入りますわ。ロイド先生、でしたわよね? 私にもその問題とやらを見せていただけないかしら?」


 時間の無駄だと思うけど。


「これが課題だよ。1問でも解ければ合格だ。1日に2人も解ける学生がいるとは思えないが」


 まったく期待していない目で問題用紙をライムさんに手渡すロイド先生。

 というよりも、この場にいる全員が無駄だと思っていることだろう。

 問題用紙をざっと見通すライムさんは、数秒目を通して口を開く。


「4つ目の問題、答えはx=6、y=17でなくて?」


「は? なに適当言って……」


「せ、正解……だ」


「これで私はユイ様と同じ工房所属になったということですのね? ではセウルさん、さっさと立ち退いていただけます?」


 なんというか、場の空気を一切読まないライムさんと、一緒の工房に所属することになりました。

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