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第40話 「序列1位の男性に迫られた」

「ユイ様! もう一度私と戦ってくださらないかしら!?」


「お断りします」


 戦いの翌日、朝一の教室でライムさんにそう迫られた。

 もちろん丁重にお断りさせていただいた。

 序列下位からの挑戦は基本的には受けなければいけないけど、戦闘から一週間は断ることが出来るのだ。


「というか、別の人に頼めばいいじゃないですか。痛いのが好きなだけなら、僕に固執する必要ないですよね? あと様付けはやめてください」


「それもそうなんですけれど、あなたからの苦痛が、試した中で一番快感でしたので」


 一体何を試したのか……なんてことは聞きたくない。


「大体、僕もライムさんも、そろそろ研究工房を決めなきゃいけないじゃないですか。期限は明日までですよ? 僕たちと一緒に編入した人たちは、もう工房に所属してて、ただでさえ出遅れてるんですから」


「大丈夫ですわ。私はユイ様と同じ工房にしますので」


「そんな適当な。ちゃんと自分に合った工房を見つけないと」


「私に合った工房は、ユイ様のいるところですわ!」


 ……なぜこんなことになってしまったんだろう。

 僕のせいで、ライムさんがこんな変態になってしまったわけだけど。


「じゃあ、放課後に僕は工房を探しますから、勝手についてきてください」


「はい、わかりましたわ!」


 とても面倒なことになってしまった。

 下手をすれば、お嬢様にグチグチ小言を言われるよりも面倒なことに。


     *


 放課後になって、僕は学園にある工房を探し始めた。

 工房は国中に点在しており、校舎内以外に何十個も存在している。

 正直に言うと、別にどの工房でも構わないと思ってるんだけど。


「で、ユイさん、まずはどこを見ますの?」


「ユイ、私のとこに来なさい! で、所属を決めなさい!」


 傍らにはライムさんと、セウルお嬢様がいる。

 なんでも僕に工房に入ってほしいらしく、放課後に教室にやってきて、すぐに拘束されてしまった。


「お嬢様って、何を研究する工房なんですか?」


「魔文字の研究よ」


「魔文字? 魔札みたいなものですか?」


「ううん、魔札とは全然違うわ。魔文字の凄さを見せてあげるから、ついてらっしゃい!」


 楽しそうに僕の手を引いて、工房まで走るお嬢様。

 その姿はまるで今どきの女子高生みたいで、とても人を殺したことがあるようには見えない


「ユイは真面目で頭もそこそこいいから、きっと研究がはかどるわ。そうすればあの爺も、もう文句は言えなくなるわ」


 走っている途中、ニヤニヤとつぶやく姿は女子っぽくはなかったけど。


 そして10分ぐらいたったころ、工房があるという建物にたどり着いた。

 そこそこ大きく、外装も綺麗でこの国の中ではトップレベルの建物だろう。

 その中に、お嬢様に連れられ入っていく。

 こちらを一切振り向かず歩いて行くお嬢様だったけど、階段を上って行く途中で足を止めた。

 何事かと思うと、目の前に一人の男性が立っていた。


「おや、セウルじゃないか。相変わらず美しいね」


 開口一番お嬢様を美しいと述べた男性は、階段を下りてお嬢様の顎をクイッと持ち上げた。


「嬉しいよ。君のような美しい女性が僕に会いに来てくれて」


「同じ建物に工房があるんだから、偶然会うことだってあるに決まってるでしょう。これ、何回言わせる気?」


 不快そうに男性の手を押しのけ、お嬢様は男性を睨みつけた。

 しかし意外だ。お嬢様なら触れられる直前で手首をへし折って顔面に一発入れると思ったのに、何の抵抗もせずに顎クイをさせるなんて。


「アラム、私は今から工房に行くの。そこをどいて頂戴」


 これまた意外だ。

 普段のお嬢様ならどいてと言わずに無言でどかして踏みつけにするはずなのに。

 このアラムという男性は、お嬢様にとって特別な立ち位置なのであろうか?


「アラム……ですって?」


 男性の名前を聞いて、ライムさんが声をあげた。

 見ると、神妙な面持ちで男性を見ている。


「知っているんですか?」


「……ユイ様、知らないんですの?」


「はい、知らないです」


 そう言うと、ライムさんはため息交じりに彼のことを教えてくれた。


「この学園にアラムという名の学生は1人しかいませんわ。アラム・ティーフ、この学園の序列1位ですわ」


 序列……1位?

 この軽薄そうな男の人が?

 この学園に2人しかいない、お嬢様より上の存在?


「おや、僕のことを知っているのかな? お嬢さん」


「知っているに決まっていますわ。というよりも、知らないユイ様の方がおかしいんですの」


「ハハハ、それは嬉しいことを言ってくれるね、ライム・ミヤ君」


 男性は……アラムさんは笑いながら、ライムさんの名前を言った。


「わ、私の名前を存じているんですの?」


「もちろんさ。後ろの君は、ユイ・イチホシ君だろ? 2人とも、この前編入してきた学生だよね?」


「……なるほど、この私とユイ様のことは、事前にチェックしていたというわけですのね! あなたの序列を脅かすものとして!」


「違うよ」


 意気揚々のライムさんと違って、アラムさんは笑顔で淡々と否定した。

 即座の否定に、ライムさんは固まってしまう。


「同じ国に所属する仲間じゃないか。知っていて当然だろ?」


「じゃあ、この国の全員の名前を知っているんですか?」


 少し意地悪な質問だったかも知れないと、言ってから後悔した。

 国民の数は10万を超え、その名を全て知っているはずがないのに。

 でもアラムさんは、当然のようにこう言った。


「もちろん」


 自信に満ちた返答により、この人は本当に全国民の名前を憶えているのだろうと直感した。


「……しかし君、もうちょっと顔を良く見せてくれないか?」


 お嬢様を素通りし、アラムさんは僕に顔を思いっきり近づけてきた。

 鼻と鼻がぶつかってしまいそうなほどの距離で、僕の顔をまじまじと見つめる。

 それが5秒ほどしてから、つぶやく。


「美しい」


「……へ?」


 キラキラと輝かせた目で、明らかに僕のことを美しいと言った。


「君はとても美しい。どうだろうか? この後僕と一緒にお茶でもしないかい?」


 この人が何を言っているかを理解して、背筋に寒気が走った。


「やめなさいアラム。ユイが怯えているでしょ」


「怯えた顔は美しくもありとても可愛いね」


「前々から思ってたけど、あなたってそっちもイケるの?」


「美しさに性別なんて関係ない。君もそう思わないかい?」


 キメ顔で僕に聞いていた。

 正直ライムさんと並んで、関わり合いになりたくない。

 ……同性愛者ぐらいなら、前の世界でも関わりが多少あったけども。


「美しさには関係ないかもしれないけど、愛には関係あるんじゃないですか?」


「君はそう思うのかもしれないが、僕はそう思わない。僕の愛は女性にだけではなく、全人類に注ぐものなんだよ」


「その愛を受け入れるかどうかは僕の自由ですよね?」


「受け入れるまで注ぎ続けるだけだよ」


 あ、ダメだこの人。

 なに言っても無駄だ。


「ちょっとアラムさん、私のユイ様にちょっかい出さないでもらえるかしら?」


「ライムさんの物になった覚えはないんですけど?」


「ユイ様は以前、私に熱烈な愛を与えてくださった大事なお方なのですよ!」


「勝手に興奮していただけですよね?」


「大丈夫だよ。僕はユイ君だけじゃなく、ライム君にもちゃんと愛を与える。僕の愛は無限なのだよ」


「何が大丈夫なんですか?」


「あなたの愛なんかいりませんわ。私にはユイ様がいますもの」


「ライムさんのための僕はいませんよ?」


「安心していい。僕はすぐに君たちにとってかけがえのない存在になって見せる」


「わー、なにも安心できない」


「この2人、やるわね。あのユイがツッコミに回るなんて」


 セウルお嬢様が真剣な顔でつぶやくが、一体何がやるのか?

 というか……疲れる。


「立ち話もなんだ、僕の工房でゆっくりと話さないかい? 僕の僕による僕のための、美しさを追求する工房で!」


「あ、お断りします。今日はお嬢様の魔文字研究工房に行くので」


 丁重にお断りして、僕はお嬢様の所属する工房に行こうとする。

 しかし、


「なら仕方ない。話の続きは魔文字工房でしようか」


 さも当然のように、アラムさんは工房へと向かう僕たちについてくる。

 お嬢様は諦めたようにアラムさんの動向を許し、僕らは4人で工房へと向かった。

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