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第33話 「開戦の合図」

「制限時間は3時間、時間までに制圧した陣地が多い方を勝ちとする。なお、敷地内には見張り役が数十名配置してる。戦闘不能と判断した時点で見張りが回収するが……そんな無様を晒してくれるなよ? ではみな、所定の位置につけ!」


 大雑把な説明をキョウチ先生が施し、それぞれのクラスは自分のスタートする場所へと向かう。

 話には聞いていたけど、模擬戦争では誰がどこからスタートするかは、特に決まりが無いらしい。

 敷地内にさえ入らなければ、どの場所から始めても構わないのだ。

 そのことは事前に知っていたのだけど……さすがにこれは予想外だ。


「じゃあみんな、しっかりと頑張るのよ」


「お前ら、気を引き締めて掛かれよ」


 各クラスのリーダーからの言葉を受け、セウルお嬢様のクラスは数名が散り散りにバラけ、それ以外がセウルお嬢様と一緒のグループになり、こちらのクラスも当初の予定通りのグループに固まった。

 情報を赤裸々に公開する行動に驚きもしたのだが、それ以上に驚いたのが。


「……だーれも興味ないんですね」


 目の前に情報が転がっているのに。

 誰と誰が何人くらいで固まっているのか、どっちの方向からスタートするのであろうか、戦略を考えるのに必要なはずの情報を、全く得ようとしていない。

 お嬢様でさえだ。

 アニスさんに鍛えられた僕だから思うのか分からないけど、この学園の人たちは知恵を甘く見過ぎだ。

 個人戦なら力で押し切れるだろうけど、団体戦はそうはいかないはずだ。

 それすら考えていないことが、どうしようもなく呆れてしまう。


「……どう勝とう」


 勝つ道筋は5つほど見えた。

 そのどれで行くかを一瞬だけ考え、僕は5つの中で最も圧勝となる道筋を選んだ。


     *


 僕は他の3人の学生と同じ場所で、開始の合図を待っている。

 さすがにスタートぐらいは指示された場所にいないと、クランさんにばれてしまう可能性が高い。

 ……バレてはいけない。バレるのではなく、バラさないと(・・・・・・)いけないんだ。


「でさ、ユイ君、結局最初はどこを狙うの?」


「……どこだと思いますか?」


「うーんそうだなぁ、俺ならあっちの塔を狙うかな。クランの奴が狙う塔から一番離れた場所が、一番安全だろ」


「そうですか。ではライさんはあっちに進むとして……」


「おいおい! 別行動をとるつもりはないぞ?」


「だって、そもそも目的が違いますし」


「目的?」


「僕が最初に狙うのは、塔じゃありません」


「塔じゃない? それって、…………ああ、人か」


「正解です」


 ライさんはどうやら、生粋の馬鹿ではなさそうだ。

 塔を目的とする勝負で、塔以外を目的とするのなら、それはもう人、相手側の戦力しかいない。


「で、誰を狙うんだ? もしかしてセウル?」


「そんなわけないじゃないですか。僕はこの戦いで、セウルお嬢様とは一度も会うつもりはありません。きっとお嬢様は動き回るだろうから、それが一番大変でしょうけど」


「セウルが動き回る? なんで?」


「僕の考えを読むためです」


 僕が勝つための道として考えたのが、お嬢様を嵌めることだ。

 向こうのクラスのリーダーは当たり前だが、セウルお嬢様だ。

 クラスメイトはお嬢様の言うことには絶対服従、ならお嬢様が罠に嵌れば僕の勝ちが確定する。

 本来ならお嬢様は力押しで来るはずだ。けどアニスさんが僕の伝言をちゃんと伝えてくれたのなら、ただじっとしているはずがない。

 わざわざ作戦会議をすると伝え、かなり早い時間に屋敷を出た。

 その時点で、お嬢様はこう考えるに違いない。


 僕に発言権があると。


 すべてが受け入れられるわけではないが、僕の考えがこの戦争で少なからず反映される。

 アニスさんから教えを受けた僕の考えがだ。

 そのことを深く考えないほど、お嬢様もバカではない。

 つまりは朝の伝言で、ただの力のぶつけ合いから、知能を使った戦いへと変貌したはずなのだ。


「……セウルが動き回るなら、不利じゃないか?」


「大丈夫ですよ」


「自信ありげだね」


「だってお嬢様、短絡的ですから」


「アッハッハ! セウルが短絡的か、なるほどな! 確かに、確かにそうだ! ハハハハ!」


 僕の発言にライさんは腹を抱えて笑い転げた。


「アーハハハ! いや、マジで笑ったわ。つまり君は、セウルに戦略で勝負を挑んで、そのセウルは短絡的なバカだから軽くあしらえると?」


「バカとまでは言ってません。視野が狭いだけです」


「短絡的で視野が狭いと。セウル、大将に向いてないな」


「でもカリスマ性はあるんですよね」


「無能のクセに発言に説得力があるとか、タチが悪いだけじゃん」


「こっちとしては好都合です」


「うんうん、ユイ君のやりたいことは分かった。じゃあ最初は誰を狙うんだ?」


「ライムさんです」


「……は? ライムって、君と一緒に編入してきた、あの勘違いお嬢様か?」


「そうです」


「そうですって……どうして?」


「ほとんどの人はグループで行動しています。けどライムさんだけは、無駄なプライドで単独行動をするはずです。序列がすべてとは言いませんが、1対1でライムさんが僕に勝つのは無理でしょう」


「いや、勝てるかどうかじゃなくてさ。仮にも同じクラスメイトの仲間だろ?」


「そうです。だからクラスの勝利のために利用させてもらうんです」


 あの程度の実力で、しかも単独行動をするライムさんなど戦力には数えられない。

 ならせめて、道具として使わせてもらおう。


「俺、君のことを見誤ってたわ。中々にえげつないね」


「勝つためですから」


 本来ならこんな方法は使いたくはないけど、この方法を使えば手っ取り早く最小限の犠牲で塔を制圧することが出来る。

 あぁ心が痛む。

 でもお嬢様が勝てって言ったんだから、しょうがないよね。


「んじゃ、最初の標的はライムってことで。お、もう始まるみたいだぜ」


 ライさんがそう言って、ある方向を指さした。

 すると、なにやら光輝いている球が急上昇している。

 なるほど、あれが開始に合図か。

 僕はその球をじっと見つめていると、約5秒後、花火のようにきれいに球が飛び散った。


「開始だ。ま、気楽にいこうぜ」


「はい。負けたら負けたですもんね」


 勝負に対して弛緩した態度で、僕とライさんは敷地内へと足を踏み入れた。

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