第31話 「序列最下位の男」
突然の宣戦布告に僕は混乱した。
戦う? お嬢様と?
勝てるわけがない。
と思っていたのだが、お嬢様は僕の反応など無視して言葉を続ける。
「もちろん私とあなたの一対一じゃないわ。クラス単位で行う模擬戦争。それを申し込むわ」
模擬戦争……確か個人間での戦闘の上位版だ。
詳しい内容は分からないけど、断る選択肢はなさそうだ。
けどこれは個人戦ではなく団体戦、僕一人の意思で決めていいものではない。
どうすればいいか、このクラスの最上位序列のクランさんに顔を向ける。
すると、クランさんは僕の方など見向きもせずにお嬢様に宣言した。
「受けて立つ!」
……仮にも僕に申し込まれた戦争なんだけどなぁ。
「勝負は明日の14時! 形式は陣地制圧式! 異論は!?」
「ない! 首を洗って待ってろ!」
そうして、僕の意思は一切介入せずに模擬戦争が決定した。
*
「では今から明日の模擬戦争の作戦会議を始める!」
お嬢様の宣戦布告からわずか10分後、なんと今日のスケジュールがすべて変更となり、丸々一日を明日のために使用していいとのことだ。
学校なのにそれでいいのかと、疑問に思ってしまう。
「明日の戦争は陣地制圧式、セオリー通りまずは6個のグループに分ける。俺の指示は全て絶対順守、いいな!?」
「「「おお!」」」
クラスは明日の模擬戦争、ヤル気満々みたいだ。
明日行う陣地制圧式模擬戦闘、概要はこうだ。
学園国家が持つ広大な敷地で行う戦争であり、計11個そびえ立つ小規模な塔を奪い合うという物だ。
塔の最上階には玉座があり、その玉座に座った学生の所属するクラスが陣地を一つ制圧したことになる。終了時間に玉座に座っていなくても、一度でも座ればその時点で制圧完了となり、放置していても問題はない。
もちろん、制限時間内であれば陣地を取り返すことは出来、時間いっぱいまで気を抜くことは出来ない。
……考えれば考えるほど、グループを6個に分ける意味が分からない。
たった一つのグループが戦闘不能に陥ればその時点で敗北の確率が急上昇する。
こんなリスキーなセオリーが理解できない。
けど、それを進言することはない。
言う必要もないことだから。
「イチホシ、貴様はこいつらと同じグループだ。ここの陣地を制圧してもらう」
指示とともに、地図を手渡された。
陣地の場所がすべて記載された地図だ。
「わ……かりました。頑張ります」
こんなに事細かに詳細が分かるのに、詳しい作戦は立てないのか?
これはこの人のだけがそうなのか……いや、他の生徒も疑問に思っていなさそうだ。
お嬢様がどんな戦略で来るかは分からないけど……
「勝てる気がしないかい?」
僕の考えを見透かしたかのように、一人の学生が笑みを浮かべながら肩を組んできた。
「えっと……」
「ライ・エフォートだよ、よろしく」
「あ、どうも。ユイ・イチホシです」
「知ってるって、10分前に聞いたばっかなんだし。で、どうなの? 今回の模擬戦争、どう思ってる?」
気安く語り掛けてくるので、僕は困惑する。
こういう人に慣れてないというのもあるけど、この人の考えがまるで読めない。
僕が奴隷だからだろうか?
だから、首輪をした立場でありながら、こんなにフランクに話せるのだろうか?
「ん? この首輪が気になる?」
「あ、いえ……」
「なら詳しく自己紹介しようか。改めて、序列最下位、ライ・エフォート、学内スレイブだけど気楽に話そう。ライって呼ぶといい」
……奴隷同士、どちらも口に出せなさそうなはずの言葉だ。
だけどこの人は、それをいともたやすく口に出した。
序列最下位でありながら。
「で、話の続きをしようよ。ユイ君さ、明日の戦争で勝てる気しないでしょ?」
「……はい」
「ははっ、正直だね。じゃあさ……引っ掻き回そうよ」
「他の人たち次第ですね」
僕たち二人だけならば、どれをしても別にいい。
けど、僕のグループはライさんだけでなく、あと2人学生がいる。
たった4人、しかし残りの2人次第では僕らの行動は制限されてしまう。
はずだけど、
「大丈夫さそれは。2人も承諾してる。クランの奴は知ったら文句を言うだろうけど……気付かれなきゃ問題ないだろ?」
「その通りですね。ならどうします?」
「話が早い。けどまあ、具体的な案はないさ。今回は勝ちに行きはするけど、君がどんな戦いをするか知りたいだけだからさ。あ、学内スレイブのくせにとか思った?」
「そんなことは思わないですよ。全くこれっぽっちも」
僕だって奴隷なんだし。
「ま、気楽にいこう。どうせクランも自分の制圧する塔にしか行かないだろうし、俺たちが勝手な行動をしてもばれないさ」
お気楽そうに言って、ライさんはどの塔を攻めに行くかだけを僕に伝えて、どこかへと去って行った。
……ここの学生の割には、序列を気にしていなさそうな態度には違和感を覚えた。
それと同時に、勝ちに執着してなさそうなあの雰囲気には共感を覚えて、嫌いな感じではないと思った。
*
さて、明日の作戦決めを大体決めた僕はすでに屋敷へと戻り、夕食の準備をしていた。
本来なら学生はあの学園国家内に住まわなければいけないらしいが、僕は序列3位の学生が所有する奴隷、自宅への帰還は普通に許された。
「なにやら、大変そうですね」
音もなくアニスさんが現れた。扉のないはずの壁から。
まったくこの人は、神出鬼没すぎる。
「大変……ってわけでもないですよ。むしろ自由に行動できて楽なくらいです」
「お嬢様は、負けた方にはペナルティとおっしゃってましたよ?」
「……初耳なんですけど」
お嬢様の口からそんなことは一切聞いていない。
ただ戦うとだけ知らされただけなのに、いつの間にそんな賭けが成立していたのだろう。
まあ従うけども。
「それで、どんなペナルティなんですかね」
「さあ?」
「わー怖い」
などと気の抜けたやり取りを数度かわしたあと、アニスさんは明日について細かく聞いてくる。
「で、ユイ君はどう動くつもりなんですか?」
「別に特別なことはしませんよ。お嬢様に言われた通り、ただ勝つために動くだけです」
「どんな風に?」
「……聞きたいですか?」
「ぜひ聞きたいですね。不機嫌になったお嬢様の口から」
悪い笑みを浮かべながら、アニスさんはそれ以上の詮索をしてこなかった。
お嬢様が負けると思っているのか、僕を信じているのか、どちらかは分からない。
けど僕とお嬢様との模擬戦争を、楽しみにしているようだった。
「あ、そうだアニスさん、一つお願いしていいですか」
「お願いですか? まさかとは思いますが夕食の準備を手伝えと?」
「いいえ違います。ただ明日の朝、お嬢様と顔を合わせたらこう言ってほしいだけです」
と、アニスさんに耳打ちする。
別に決定打になりうる重大な言葉というわけでもない。
ほんの少し、微々たるものかもしれないけど、勝つ可能性を上げるための行動だ。
「ま、それくらいならいいでしょう」
快く了承してくれたアニスさんは、作りかけの夕食を一つ摘み食いして、壁から部屋を出て行った。
……普通に出ればいいのに。




