表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/179

第25話 「最強の男」

「バカな! なぜ……なぜあいつが今回の戦いに参加しているのだ!」


 控室で、キョウチが叫んだ。

 その様子を不思議そうに、5人の新入生が眺めている。


「くそ! あいつが出たのでは公平性が全くない!」


 歯ぎしりし、地面を思いきり蹴飛ばした。

 そのあまりにも異様な憤慨ぶりに、5人の新入生は疑問を浮かべる。


「どうかしたのですか、キョウチさん。あの男がなにか?」


 教師に対して少し慣れなれしく、ライムが質問した。

 だがその質問に答える前に、キョウチは勢いよく扉を開けて、どこかへと向かっていった。


「な、なんなんですの? 人が聞いているのに無視するだなんて……」


 明らかに不満をあらわにするライムを宥めるように、アリンとクラウの2人が穏やかな口調で話しかける。


「あの人、何かわけありなんですかね?」


「僕の目には特別何かあるようには見えないなぁ。ライムさんはどう?」


「同じくですわ! あのガルドという男も、イチホシさんもどっちもパッとしないわね! 見る価値なんて一切なさそうですわ!」


「ま、まあまあ、そんなに言わなくても。ユイ君だって試験免除になったわけだし……」


「それだって私は納得いっていませんわ。あなた方4人はともかく、あの男には一切の力を感じませんわ!」


「……見た目だけなら、そうかもしれませんね」


「私も……そう思う」


「あ、皆さんそう思っていたんですか。僕もですよ。カリウさんは?」


「雑魚にしか見えん」


 この場にいる全員は、ユイの実力を一番最下層だとみなしていた。

 それどころか、試験免除で合格されたことに納得すらしていなかった。

 当のユイはこの4人こそを下に見ているのだが。

 などと会話をしていると、血相を変えたキョウチが一人の女性を連れて控室に入ってきた。


「おい貴様、あいつを見てどう思う?」


「え、えっと……」


 キョウチにひどい剣幕で迫られた女性は、涙目であわあわと言っていた。


「さっさと言え! あれはなんだ!?」


「はい! 新入生君の対戦相手は序列24124位、ガルド・ラージ! 学園最強の男だと言われている学生です!」


「「「は!?」」」


 女性の驚異的な発言に、新入生は口をそろえて驚きの声をあげた。

 そう、ガルド・ラージの序列は24124位、そこは問題ない。

 問題なのはその次、学園最強だと言われている学生、だと。


「20000前後の学生を用意しろとは言ったが、あいつだけは例外だろうが!」


「すいません先輩! 適当に選んだからまさかピンポイントでガルド君が選ばれてしまうなんて……」


「適当、だと?」


「あ!? いえその……」


「減給! 反省文を100枚書け!」


「そんな先輩! 殺生な!」


 そんなやり取りが交わされる中、新入生5人は学園最強と言われるガルドを何度も見ては、考え込んでいる。

 なぜ最強が、序列24241位なのか?


「あの、キョウチ先生……」


「なんだ!?」


「どうして、最強と言われる学生の序列が、あんなに低いのですか?」


「……見てれば分かる」


 そう言って、キョウチはそれ以上説明することはなかった。

 ただ一言だけの助言以外は。


「一番最初の攻撃、それだけをよく見ておけ」


 その言葉に従い、新入生5人は真剣な表情で、ユイとガルド、2人の戦いを見つめた。


     *


 さて、どのように戦おうか。

 目の前の人の序列は低い、普通に戦えばまず負けないだろう。

 だからこそ、今後のことを考えた戦いをすべきか。

 属性は火を装っている。氷を使うのは論外にしても、魔法無しの身体能力強化のみで戦うのもどうなのか。

 ある程度はぽいことをしておいた方がいいのだろうか?

 などと考えを巡らせながら、戦う準備をする。

 そしてその数秒後、戦いは始まる。


「ルールは簡単です。気を失うか、降参するかで勝敗は決します。ではお互い、全力を尽くせるよう頑張ってください。始めて大丈夫ですよ」


 何とも穏やか過ぎる開始の合図に、僕は一瞬だけ硬直してしまう。

 その一瞬を逃さず、ガルドさんが動き……


「は!?」


 その動きは、あまりにも早すぎた。

 ギリギリのギリギリ、視界にガルドさんの姿を捕らえることは出来ている。

 だが超高速で向かっていることが分かる、ただそれだけで、それ以上のことをするには僕の能力は低すぎた。


「くらいな」


 ガルドさんの一声とともに、拳が繰り出される。

 僕の鳩尾を狙った渾身の一撃……わずかに打点をずらすぐらいが、僕にできる精一杯だった。


「が……!」


 息が止まる。

 一瞬、水中にいるのかと錯覚するほど、息を吸うことが出来なくなる。

 たった一撃喰らっただけだが、すぐに理解した。


 僕はこの人には勝てない。


 圧倒的な力量差があることが一瞬で分かるほどの一撃だった。


「へぇ、お前、そこそこ強いな」


 遥かなる高みから放たれる言葉、僕はその声を聞きながら、その場に座り込まないだけで精一杯だった。


「さて、だいたい分かった。4本……てとこだな」


 ガルドさんは悶絶している僕に追撃はせずに、距離を取った。

 絶好のチャンスであったはずなのに、その行動は悪手だ。理解できない。

 しかしその直後、さらに理解できない行動をガルドさんがした。


『ボギッ!』


 ひどく不快な音が、僕の耳に響いた。

 お腹を押さえながら僕は、目の前の光景に驚愕する。


「な……にを……」


 ガルドさんはあろうことか、自らの指の骨を4本、へし折ったのだ。


「ぐ……つぅ……やっぱ慣れねえな」


 苦痛に顔を歪ませ、さらには涙目になりながらガルドさんがつぶやく。

 そのわけのわからない行動だったが、直後に呟く言葉で、その一端を理解する。


「多分これで、互角か」


 そう……あろうことかガルドさんは、僕との実力差を埋めようとしているのだ。

 圧倒的な実力差、何故それを自ら埋めようとしているのか。

 逆の立場ならわかる。

 弱者が勝つためにあらゆる手段を用いて差を埋めようとするのは。

 だが今は、ガルドさんの方が圧倒的に強いのだ。にもかかわらずのこの行動は、わけがわからなすぎる。


「さあイチホシ君、真剣勝負を始めようぜ!」


 ……初めて見たかもしれない。

 これが、狂気に憑りつかれた顔という物か。


     *


「4本……それがイチホシの実力か」


 指を折るガルドを見て、冷静な分析をキョウチはする。

 その反応を見てもこの指を折るという暴挙が、常に行われていることがわかる。


「な、なにやってるんですの?」


「あいつ……バカじゃねえのか?」


「……痛そう」


「意味が分かりません」


「驚愕……ですね」


 その行動の異常さに思わず息を飲む。

 自らの指の骨を折るという行為、それは耐え難いほどの激痛だろう。

 想像するだけでも身の毛がよだつ。


「あれがガルドの……骨折りと呼ばれる男の戦い方だよ」


 面喰っている5人のためにか、キョウチが説明する。


「あいつは戦うことが何より好きな戦闘狂だ。そしてそれはただ戦うだけでなく、拮抗した戦いをこそ望んでいるのだ。しかしあいつは……強すぎた」


「強すぎ……確かに最初のあの動き、全く見えませんでした。みんなはどうですか?」


 その問いかけに、5人は沈黙を持って答えた。

 誰一人として目で追うことが出来なかったと。


「生まれた時から恵まれた身体能力を持ち、その魔力も身体強化に最大限割り振られている極端なものだ。その結果、奴は早すぎる段階で最強になってしまった。最強になった故、奴に拮抗できる人間が存在しなくなったのだ」


 その評価は、さきほどの攻撃を見た5人を十分に納得させた。

 ガルドは紛うことなき最強だと、そこには一切の疑問が無い。


「じゃ、じゃあ、あの指を折る行為は」


「自分より強い、もしくは拮抗した相手がいないのであれば、自分が弱くなればいい。それだけだ」


「そ、そんなのって……」


「拮抗した戦いが出来れば、あいつはそれだけで満足なんだよ。まあそんなことを繰り返しているから、なんてことない勝負でも負け、さらには治療のための3日ほどを無駄にして、今の序列に落ち着いているということだ」


 それが最強であるにもかかわらず低い序列である理由らしい。


「ちなみにこれは過去の対戦であったことだが……ガルドは序列2000位の学生に対しては、右の指全てに、右腕の骨もへし折っている」


 その言葉で、5人の表情が一変した。

 なるほど、ガルドが最強であること、そして最強ゆえの奇行も理解した。

 凡人には理解できない、したくもないアホな行動だ。

 だがその最強が、相手との実力を拮抗状態にさせ続けた男が、同じ新入生であるユイを相手に、序列2000位以上の相手と同等以上に見ているという事実が発覚してしまった。

 その瞬間から、5人のユイを見る目が弱者を見る目から、強者を見る目へと変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ