第24話 「唐突な戦闘」
「待たせたな。ではこれより、お前たちには既存生徒との戦闘を行ってもらう」
唐突な発言に、この場の人間は呆気にとられた。
「あ、あの……戦闘って?」
「無論、お前たちの今後の序列を決めるための戦闘だ。なに、負けてもすぐに学内スレイブになることはない」
「入学拒否とかは……」
「ない。お前たちも、さきほど試験に合格した奴らも、すでに入学しているのだ。知っているだろう? たとえスレイブ落ちしたとしても、強制的に退学にさせられることなどない。まあ、卒業までスレイブ生活するもの好きなどはいないだろうがな」
「戦う相手の序列は?」
「20000前後の、強いとも弱いとも言えない中途半端な奴らだ。さきほどは負けてもスレイブ落ちはしないと言ったが、私や他の教師陣からの評価はまあ、下がるだろうな」
それは、今後の成績にも関わりそうな案件だ。
序列は教師の評価も少なからず起因し、それが悪くなればスレイブへの危険性が高まる。
普通に負けたくない戦いだろう。
「だが、私の見立てではここにいるお前らは1人として負けることはないだろう。一応言っておくが、編入試験免除は滅多にない特例措置だ。お前たちは試験前、そして戦う前から優秀であるというお墨付きをもらったのだ」
そこに僕も入っているというのは、何とも不思議な気分だ。
ただまあ、アニスさんとセウルお嬢様、たまにエイジン様と、世界最強レベルと言われている3人から直々に訓練を受けているのだから、それなりの力をつけていなければおかしいという話だ。
「ではどうする? 誰から戦う?」
キョウチ先生に聞かれ、誰よりも先にライムさんが手をあげた。
「私がやりますわ」
自信満々のその表情は、自分が負けることなど一切想像していない強者の者だ。
だがそれはライムさんだけではなかった。ここにいる人たちから、戦いという単語が出てきた瞬間にプレッシャーが跳ね上がるのを感じ、また不安な表情をする者は1人もいなかった。
5人とも例外なく、戦闘を経験していることが容易に分かった。
「うむ、では最初はライムからだな。ではその次は……」
そうして、今後の戦いの順番が決まって行った。
ライム→アリン→ミル→カリウ→クラウ→僕という順番になった。
まあ……最後まで黙っていたらいつの間にか最後になった。
「準備はいいな。では私について来い」
そう促されたが、僕は不意に気になったので、一つ質問をする。
「あの……試験を受けた人たちは?」
「ん? ああ、受かった奴はすでに序列は決めている。実力はもう完全に分かったからな。あとはお前たちだけだ」
「なるほど」
「じゃあキョウチ先生、その人たちの中で一番序列が高い人は何位ですか?」
「40135位だ。お前たちが戦う奴らよりも序列は大分低いから、そいつらよりも低くなることは、たとえ負けたとしてもないだろう」
「ありがとうございます」
40135……弱い雑魚……おっと、つい失礼なことを考えてしまった。
「ちなみにだが、これから戦う相手の6人は、最初に手をあげたライムから選んでいい決まりになっている」
……じゃあ僕に選択肢はないのか。
そんなことを思いながら、闘技場までたどり着いた。
以前見た時と同じく、それなりの熱気を持った会場だ。
そこで僕が今から、戦うわけか。
「ライムはここをまっすぐ行け。他の奴らは控室で待機だ」
「では皆さん、この中で一番の序列になって帰ってきますわ。今後私と話すときは、敬語をお忘れなきように」
自信満々の表情で、ライムさんは戦場へと向かっていった。
相手のことは序列のみしかわからないのにあれだけの自信を持てるなんて、正直言って僕はあの人とは一生分かり合えないだろう。
「控室はこっちだ。無論、戦闘を観戦できるようガラス張りになっている。戦いを見るもよし、戦いに備えて集中するもよしだ」
「あ、一つ質問があるんですけど」
僕は戦いのため、気になることを聞いてみる。
「なんだ?」
「武器の使用は認められますか?」
「認めている。実践も想定しているからな」
その答えに、僕は少しだけほっとした。
武器……と言うよりも小道具を用いた卑怯な戦法をとれることは僕にとって大いにプラスだ。
それが他の人たちの目にどう映るかは分かりはしないけど。
控室についてから、3分後にはライムさんと序列19004位の学生が現れた。
ライムさんは自信満々、既存学生は鬼気迫る表情だ。
そして戦いの行方だが……ライムさんの圧勝で終わった。
開始早々に圧倒的に特大なバカでかい火球が既存学生を襲い、その直撃によって、死んだな、そう思うほどの大ダメージが負わされた。
その後の戦闘でもまあ、同じような結果に終わった。
アリンさんもミルさんもクラウさんもカリウさんも、圧倒的な実力で勝利をもぎ取った。
二つほど誤算があったとすれば、クラウさんとカリウさん、2人は先程自己申告した属性とは違う属性の魔法を使っていたことだ。
クラウさんは水、カリウさんは火だった。
そのことに対し、アリンさんは苦笑を浮かべ、ライムさんは憤慨した。
僕としては正直なことを言っているなんて微塵も思っていなかったから、何とも思ってないけど。
「さて、最後はユイだな。準備は出来ているか?」
「はい。まあ、出来る限りはやってきます」
と言って、僕は力なく立ち上がって、戦いの場に赴く。
そんな僕の後ろ姿が頼りなかったのか、キョウチ先生は不安な声をあげる。
「私の目は、狂っていたか?」
試験免除、それが間違いかと疑わせるほどに、僕からヤル気が感じられなかったのだろう。
実際問題、ヤル気なんか微塵もないのだから仕方ないけど。
「ゆ、ユイ君、頑張ってね」
この場でただ一人、アリンさんだけが僕の応援をしてくれた。あとの4人は我関せずと言ったところだ。
「ありがとう。頑張ってくるよ」
社交辞令としてのお礼を言い、僕は控室を後にする。
これから僕が戦う人は、序列24124位、ガルド・ラージと言う人らしい。
とりあえず分かる情報はこれくらいで、あとは属性をも何も分からない。
だけど、僕は負ける気は一切なかった。
というのも、観戦していて思ったのだが、これまで戦っていた学生も、アリンさんたちも、計10人の実力が、あくまでも僕個人の見立てによるものだが、あまりにも低すぎた。
僕は本気の戦いなど過去に一度しかしたことが無い。
そのたった一度しかない真剣勝負の相手、かつてシュテル家に侵入した暗殺者の、それも傷だらけの状態の動きにさえ、ここの学生は劣っているのだ。
僕自身があの時の侵入者よりも優れているわけではないが、あの人との短時間の真剣勝負を経験した僕にとっては、序列20000位前後の学生に負けるビジョンなど見えなかった。
だから、とてつもなく余裕を感じていた。
そんな余裕綽々の状態で対戦相手であるガルドさんに対峙する。
「君が新入生のユイ・イチホシだな。俺はガルド・ラージ、本気の勝負を楽しもうな!」
屈託のない笑顔で、握手を求めてきた。
「あ、よろしくお願いします」
差し出された手に、僕は反射的に手を差し出す。
ガッチリと力強く、これからの戦いを正々堂々と行う、そんな誓いのように握りしめる。
「ん?」
僕の手を握ったガルドが声をあげる。
「あ、すみません。なんか手に入り込んでいたようです」
僕の手のひらに、固い何かが入り込んでいたみたいだ。
それがガルドさんの手に違和感を与えてしまった。
「いや、気にするな。ちょっとチクッとしただけで、何の問題もない」
特に気にする様子もなく、それどころかこちらの方を抜くためか終始笑顔を向け続けてくれている。
こんな顔を見ると……いや、気にしない方がいい。
これは真剣勝負、この人がどんな人であろうと、勝つ以外にないのだから。




