表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/179

第19話 「人の死」

 アニスさんに足りない物は、火力らしい。

 首を飛ばせば人を殺すことが出来る。

 しかし魔力量が平均レベルのアニスさんは、全力で剣を振りぬいても首を飛ばせるとは限らないし、魔法も大した威力はでないらしい。

 技や奇襲で戦うアニスさんは、真っ向勝負では世界的に見てもレベルは低いということになる。

 それゆえの爆発物だ。


 この屋敷のトラップが殺人級で、どれだけの威力を誇っていてもかからなければ意味はない。

 相手が手練れであればあるほど、その人自身の力が求められてしまう。

 それを補うため、アニスさんはセウルお嬢様に頼らない高火力トラップを無数に用意している。


 しかもそれは、相手が引っ掛かるのをジッと待つ、普通の物ではない。

 必ず掛かると確信したうえで、手動で発動する物。

 使う者が使えば不可避であり、即死させることのできる極悪の物だ。

 そう、使う者が使えば。


「やってくれたな……ガキが!」


 侵入者は激高しながら、爆発の起きた部屋から飛び出た。

 姿を見ずとも分かる。殺意に満ち溢れた表情をしていることを。

 ここで殺さなければいけなかったのに、僕は失敗してしまった。

 もはやなす術はない。

 観念して通路に常備してある武器を手に持ち、最後の悪あがきをしようと隠し通路から出る。

 しかし侵入者の姿を目視し、完全に絶望するには早いと、そう判断した。


「この……召使い程度の下等な人間が、この俺様を……!」


 威勢を張っているが、その姿はボロボロだ。

 衣服はズタボロの上半身裸、出血量もおびただしい。

 僕でも勝てるかも、そう思わせるほどの重傷だ。

 タイミングを少し間違っていたようだけど、まあ、及第点ということか。


「痛いのはいやなんで、抵抗させてもらいます」


 あくまでも下手に出た発言だが、侵入者はそうは思わない。

 自身を殺すことに何の躊躇も持たない、冷徹な人間に僕が見えることだろう。

 それだけのことをした自負はある。

 だから……疑問を持った。

 こんな状況で、異常な考えだと分かっている。

 そんなことを考えている暇はないと分かっている。

 しかし思ってしまったのだ。


 人を傷つけることの、何が楽しいんだろうと。

 そんな疑問から、僕は思わず語り掛けてしまう。


「あなたは、何故この屋敷の人をすべて殺そうとしたんですか?」


「ああ!?」


 激高している侵入者は、僕の問いかけにいら立ちを募らせる。

 しかし僕は本当に疑問に思ったのだ。


「こんなことをして……楽しいですか?」


 それが引き金となったのか、侵入者はボロボロの体で、僕に突進してきた。

 装備していた剣は僕を捕らえている。殺る気満々だ。

 けど、見える。

 アニスさんの攻撃を常に受け続けた慣れか、侵入者の動きが遅いのか。

 あるいはその両方により、敵の動きを鮮明に追うことが出来た。


「ぐっ……!」


 僕の剣と、敵の剣が衝突する。

 その場で停滞し、鍔迫り合いが開始する。

 ボロボロの手練れと、無傷の素人、力は拮抗している。

 相手の必死さが剣を通じて感じられるが、僕は冷静だった。

 こんな攻撃で、死ぬわけがないと。


「もう、引いたらどうですか?」


「なに?」


 別に殺したいとも、傷つけたいとも思っていない。

 倒せるのに倒さないとセウルお嬢様やアニスさん、エイジン様に怒られるかもしれない。

 けど、相手はこの屋敷にターゲットがいないと分かり逃げて行った。

 粉塵爆発は威嚇のためにやった、そういえば言い訳にはなるだろう。

 殺さなくてもいい理由は、存在するのだ。

 だからこそ……逃げてほしかった。

 けど、


「なめるな! 今の俺に、貴様を殺す力がないとでも思っているのか!?」


 敵の力が増す。怒りとともに、剣が押し込まれてしまう。

 なるほど、確かにこの人には僕を殺す力が残されている。

 五分五分と思われていた身体能力は相手の方が上で、さらには経験値も僕なんかより上だろう。

 あんなことを言いはしたけど、まともに戦い続けていたら僕は死ぬ。

 万が一の間違いもなく死ぬだろう。

 それでも……本気で倒そうという気は起きない。


「こんなところでモタモタしていたら、帰ってきたお嬢様たちに殺されますよ?」


 死にたくないと思っているのか?

 いいや違う。僕はそんな気持ちで撤退を促しているんじゃない。


「引き下がれるものか!」


 唾が顔面に跳ぶほどに詰め寄られ、まさに今、剣の刃が僕の目の前にある。

 僕も力を込めはする。

 必死で押し返そうと、渾身の力を込める。

 倒す意思はなく。


 そうして、1分ほどの鍔迫り合いが続いた後、侵入者の口から言葉が零れる。


「…………ねえよ」


 うまく聞き取れなかった。

 それほどまでにか細い声だったが、直後、侵入者は叫ぶ。

 さきほどまでに感じた怒り以上の感情を載せながら。


「こんなことが楽しいわけねえだろうが!」


 悲痛な叫びが、僕の鼓膜に響いた。

 ああ……やっぱりそうだ。

 この人は、やりたくてやっていたわけじゃない。

 僕をいじめていた人たちのように、人を傷つけることを楽しんでなんかない。

 だから僕は…………心配したんだ。


「こんなこと、望んでやるやつがいるか! だけど……!」


 その表情は、険しい物だった。

 怒り、悲しみ、憎しみ、様々な感情が入り乱れているような。

 読み取ることなど困難なほどの複雑な表情をしていた。


「こうしなきゃいけねえんだよ!」


 この人には、こうせざるをえない事情がある。

 ゆえに、この場から逃げることは絶対にしない。

 なら僕は、僕のできることすべてを駆使し、退けるのみだ。


「ぐっ……!」


 鍔迫り合いを回避し、僕は侵入者と距離を取る。

 身体能力は若干むこうが上、経験値も向こうが上、勝つ可能性は限りなく0だ。

 ……まともに戦えば、だけど。


「よく見ておいた方がいいですよ」


 そう言って、僕はポケットから一つの玉を自分の後ろに放り込んだ。


「なにを……くっ!」


 僕が投げた球は、床に直撃するとともに、激しい光を拡散させる。

 真後ろに投げたゆえに僕にその光が直撃しない。

 けど僕の目の前にいる男には、強烈な光が眼球を襲った。

 多少明るくなったとはいえ、まだまだ外は暗い。

 そんな状態で閃光弾を喰らえば、しばらくは目が見えない。


「ああ、あっ……!」


 両目を押さえて悶える侵入者が、哀れに見える。

 したくもない殺しをしなきゃいけなく、その結果、僕のような素人に追い詰められる。

 しかもその最後は、目が見えず、完全な暗闇と化している。

 哀れすぎて……同情してしまう。


「最後に、名前を聞いてもいいですか?」


 僕が初めて殺す人、その名前を、聞きたいと思った。

 そうすることがせめてもの礼儀だと感じて。


「黙れ! 最後などと言うな! まだだ! まだ俺は……やり直せる!」


 無理だ。

 もうこの人に先は無い。

 この状態では、屋敷の罠を掻い潜り逃げるなんてできないだろう。

 僕が手を貸したとしても、それは不可能だ。

 ゆえに、この場に留まってもお嬢様たちに殺され、屋敷を出ようとしても罠に殺され。

 詰んでいるのだ。


「俺は……エイジンを殺しっ……!」


 そこまで言った時点で、侵入者の最後を確信した。

 いつの間にそんなに時間が経っていたのだろうか。

 侵入者の真後ろに、アニスさんが立っていた。


「あなたでは無理です。潔く死ね」


 無慈悲な言葉とともに、侵入者の首が跳んだ。


「あっ……!」


 飛ばされた首が、声にならない声を発した。

 そして……目が合った。

 生気を感じさせない目が、飛び散る血が、僕のすぐ目の前に存在する。


 これが、人の死。


 初めて目の当たりにする光景に、僕は頭も心も、カラッポになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ