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第11話 「暴露と評価」

 朝の訓練を終えた僕は、急いで朝食の準備をする。

 といっても、朝はそんなに多く作らなくてもいいと言われてるので、時間は十分にある。

 メニューは、トーストに目玉焼き、コンソメスープのわずか3品だ。その中の二つは簡単にできるので、朝食は苦もなく出来上がった。

 完成した朝食を食卓に運ぶと、すでにセウルお嬢様とエイジン様が椅子に座っていた。


「あ、ユイ、おはよう」


「おはようございます、お嬢様」


 僕は頭を下げて、出来る限り丁寧にあいさつした。


「こちら、朝食です」


 テーブルに2人の食事を並べ、僕は一歩下がって、その場に待機した。

 しかしそんな僕の行動を、アニスさんとセウルお嬢様が指摘する。


「ユイ君、私たちも一緒に食べるんですよ」


「そうよ、はやく朝食を並べて、席につきなさい」


 その言葉は、少し信じられなかった。

 召使いであり、立場としては限りなく下のはずなのに、主とともに食卓を囲もうなどと、少なくとも僕の常識ではありえなかった。

 けど主の言うことなのだから、僕は黙ってそれに従う。


「それじゃ、いただきます」


 各々が食事をとり、少しの沈黙が流れる。

 セウルお嬢様はチラチラと僕の体を見ては、何かを話そうとしている。

 それに対し何かアクションを起こすべきかなとは思いつつ、特に話題もないので僕は黙々と食事を続ける。

 すると、お嬢様ではなくアニスさんが、最初に口を開いた。


「ユイ君知ってますか? セウルお嬢様は、つい最近まで旦那様と一緒にお風呂に入っていたんですよ?」


「アニスあんたぶっ殺すわよ!」


 唐突のカミングアウトに、セウルお嬢様は立ち上がった。

 ああうん、その反応で真実であることが大体わかりました。


「アニスさん、どういうつもりですか?」


「いえ、些か辛気臭かったので、明るい話題をと思いまして」


「だからって乙女の秘密を暴露する召使いがどこにいんのよ!」


「暴露話って盛り上がるじゃありませんか」


「それでも内容を考えなさい!」


「お嬢様の胸のサイズはAです」


「おい!」


「へえ、もう少しあると思ってました」


「詰めてるんですよ。本当はペッタンコ」


「喧嘩売ってんの!?」


「これもだめですか。じゃあ……」


「もう黙りなさい!」


 お嬢様の怒号で、この暴露話は終わった。

 結果としてお嬢様が恥をかいただけの暴露話が。


「アニスさん、謝った方がいいんじゃないですか?」


「ごめんね」


「許すか!」


 と、この朝食での会話は終わった。

 これ以上はアニスさんも挑発することはなかったし、僕としてもピリピリとした状況で話をするほど度胸もない。

 沈黙のまま、この食事は終わった。


「それじゃあユイ君、片づけをお願いします」


「分かりました」


 空になったお皿を重ねて、僕は台所までそれを運んだ。


     *


 ユイが部屋を出てから1分ほど、エイジンがアニスに向かって問いかけた。


「で、あの少年の力のほどは? まああの痣だらけの顔を見れば、一目瞭然だがな」


 鼻で笑う主人に、アニスは淡々と事実だけを述べる。


「現段階では使い物になりませんね」


 評価は辛辣な物だった。使い物にならないと、それがアニスのユイに対する見解だった。

 しかしそれは、あくまでも現段階での話。


「才能はあるのか?」


「才能というか……努力のたまもの、的な能力は持っています」


「はあ? 現段階で使い物にならないのに、努力での能力を持ってるわけがないだろう。適当なことを言うのはやめろ」


「いえ、実際にそうなんですよ。ユイ君には、妙な特技があったんです」


「妙な特技?」


「はい」


 それは、ユイにとって、あまり喜ばしい特技ではなかった。

 なぜならそれは、苦痛から回避するためではなく、あくまでも苦痛を軽減するだけのもの。

 平和であり残酷な世界で生きたという、苦しい結果を示すものであったから。


「ユイ君は、急所を外して攻撃を受けることに慣れているんです」


「なんだそれは?」


「私がどんな攻撃をしても、決してクリーンヒットはしませんでした。それどころか、大してダメージにならない箇所にばかり攻撃が当たり、見た目の痣ほどダメージは残っていなかったんですよ。それでも、結構な痛みではあったと思いますけどね」


「それ、どんな努力で身に着けたのよ」


 セウルの疑問ももっともだ。

 それは、攻撃されることを、しかも避けずに受け切ることを前提に考えられる特技だ。

 しかも防御ではなく、あくまでもダメージの残る受け方など、通常の努力では手に入らない能力だ。

 いや、だれもそんな能力を身につけようなどとは思わない。


 その能力は、強くなるためでも、成長するために身に着けたものでもない。

 いじめに耐えるために身に着けたものなのだから。


「……なにか、特殊な環境にいたのかもしれませんね」


 アニスは分かっていた。

 ユイがどのようにあんな特技を見につけたのかを。

 平和な世界で、格闘技をやっていたわけでもない。

 ならそれは、理不尽な悪意によって育まれた物だと。


「ですけど、使えそうではあります」


「本当か?」


「はい。急所を外す、そんなことが出来るのは相手の攻撃がしっかり見えているからです。手加減して遅めだったとはいえ、私の攻撃を見切ることが出来たのですから、ユイ君の持つ妙な癖を無くすことが出来ればかなりの上達が期待できます」


 アニスのユイに対する評価は中々に高かった。

 鍛えれば物になると、この屋敷に置いても問題はないと思えるほどの能力はあると判断している。

 ならばあとの問題は一つだけだ。


「じゃあ、あとは魔法の才能次第ね」


「そこはお嬢様に一任します。私は対魔法用の戦い方は教えられますが、魔法は教えられませんですから」


 魔法は戦力を大幅に向上させる可能性を秘めている。

 傷ついたとはいえ魔石を埋め込んだユイの潜在能力は高く、もしかしたらこの屋敷の者に匹敵する力があるかもしれない。

 ……だが、下手をすれば魔石の傷は致命的な物だったかもしれない。


「とりあえず普段のユイ君からは、魔力を感じましたか?」


「ええ、少しだけど感じたわ。昨日よりも少し大きくなってたし、まだまだ魔力は大きくなっていくはずよ。それに特異属性なんだし、魔法の才能は並み以上にあると思う」


「でも元が魔力0だし、期待しない方がいいかもしれませんね」


 それも、懸念材料の一つだった。

 まったく魔法についての知識がなく、魔力も活性化していなかったのは、この世界の常識ではありえない。

 ユイの世界にいる存在はセウルたちからすれば、虫けらにも等しい。


「まあそこは祈るしかないわね」


 運頼み、結局はそれだった。

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