第106話 「苦痛の道のり」
金策を始めてから、3ヶ月の時が経過した。その道のりは、やはり険しいものとなってしまった。
序盤は効率よく稼ぐことが出来た。少しずつ確実に利益を得て、1日になんと金貨500枚も手に入れられた。この調子なら1ヶ月以内に10000枚も夢じゃない、そんな楽観的な思考をしていたのだが。
手持ちが2000枚を越えた辺りから雲行きが怪しくなった。まるで図ったかのように勝てなくなってしまい、ジリジリと金貨が減っていく。
それもそのはず、いくら店側のトータルの利益がプラスとはいえ、1人の客が勝ちすぎていいわけがない。周りの客からは不審な目でみられ、いかに楽しむために来ているといっても、イカサマをされていると気づいてしまえば賭けるはずもない。
僕の存在は店にとって害悪、速攻で出禁にしたい輩だろう。
だがあからさまに出禁にすればイカサマをしていると公言するようなもの、ゆえに店は強行手段に出た。
僕を集中的に負けさせるということだ。
たとえ店にとって不利益になったとしても、将来的にみれば僕という存在を消す方がプラスだと考えられてしまった。
そこからは話が早い。僕は負け続け、この店でギャンブルをするわけにはいかなくなったということだ。
だが狙い撃ちされてると感じた僕は、手持ちの金貨が1800枚の段階で切り上げたから、かなりのプラスで終わっている。
目標金額には到底及ばないが。
僕は新しい賭場でも見に行こうかと思ったが、そこで問題が起きる。どこも僕を入店させてくれないのだ。
どうやら不自然に勝ちすぎたことで注目を浴び、ブラックリスト、というものに載ってしまったらしい。僕自身はなんのイカサマもしてないというのに。
手っ取り早くお金を稼ぐ手段をなくしてしまった僕は頭を悩ませ、いかにすればこの金を10000枚にすることが出来るか思考する。
……やはり一つしかないと、僕は観念する。
そもそもギャンブルで一億円相当のお金を稼ごうなんて無茶があったんだ。こうして手元に1800枚の金貨が残っているだけでも奇跡に近い。
それに僕は、楽をしようとしていた。あの子のために傷つく覚悟をしたはずなのに。人を殴った瞬間に覚悟が揺らぎ、ギャンブルという逃げ道に逃げ込んでしまった。
だめだ、そんなんじゃ。
そんなんじゃ僕は、胸を張ってあの子の前で、幸せになろうなんて言えない。
今度こそと僕は覚悟を決め、アストさんの元へとある提案をしに行く。
金貨10000枚、そんな無茶を叶えるためには相応のことをしなくてはいけない。
僕にとっての相応のこととはもちろん、戦うことだ。
アストさんに提案した内容は闘技場である戦いをすること。
それが、複数対1人の連戦だ。
人気闘士でも1回の試合で多くて金貨30枚、10000までに300以上かかってしまう。そんな時間はない。
一度に複数と戦うことで報酬を吊り上げ、さらに連戦にすることによって時短にする。
見世物として十分な質を見せつければ更なる利益だって得られる可能性がある。アストさんは不安げな表情で僕を見てたが、了承してくれた。
そして僕は、1度に10人の闘士を相手取ることになる。
「君がリックを瞬殺したユイか。中々面白い趣向を考えたようだが、俺が10人のうちの1人に選ばれるとは思わなかったろう? 悪いが本気で行かせてもらうよ」
……この人誰だろ?
自信満々の態度からリックさんのように上位闘士なんだろうけど、あいにくとここの知識がない僕には一切分からない。
分かることがあるとすれば、魔力の総量や質から鑑みて、取るに足らない力量の人ということだけだ。
それ以外の9人も乏しい実力しかないように見える。
……あとは僕が、殴れるかどうかだけだ。
僕は誰かのためですら殴れない。頭が真っ白になって、なにも考えられないくらいにならないとこの手は動いてくれない。そして、都合よく僕の逆鱗に触れることもないだろう。
なら……心を置いてくる。
心は決して消えない。どれだけ圧し殺そうと感情はなくならず、なくそうとすればするほど、己の心を強く認識する。
唯一の方法は、僕が何かを感じるよりも早く、目的を達成するしかない。
「よっしゃ行くぞお前ら!」
闘士10人が僕を取り囲み、一斉に襲いかかってくる。
四方からの隙間ない攻撃、目前に迫る拳を冷静に見つめる。
そして僕との距離が一メートルにも満たなくなった時に、
「ぐえっ」
1人の男を殴打する。
隙間ない囲みに出来た間をすり抜け、今度は闘士の後頭部を蹴り抜く。
これで2人の闘士は戦闘不能……その中には、自信満々だった人もいる。
そこからさきは、1分にも満たない勝負だった。
10人全てを一撃で倒した僕は、この連戦の一戦目を無傷で勝利する。
「…………」
連戦の前に、5分の休憩がある。控え室に向かう途中の道を歩いているときに、拳にこびりついた血の臭いが鼻に入ってくるのと同時に。
置いてきた心が戻ってくる。
「あ、あぁぁぁ……!」
自分の為だけに人を殴った。10人も。
血を流させ、気絶させ、傷つけた!
その事実が自身に嫌悪感を抱かせる。
この嫌悪感を持ったまま僕は、この先も何十、100を越える人を殴り続けた。
ようやく金貨が10000貯まったのが、金策を始めて3ヶ月が経った頃だった。




