第105話 「ユイの捜索」
これは、一星唯が魔石の一族の少女を助けるために、金策に講じている時の話。
学園国家では今、普段とは違う様相を見せていた。
「クソジジイ、次は東の大陸に捜索に行きますわ。なにかあればすぐ知らせなさい」
ユイの瞬間移動に立ち会ったライムは当然、率先してユイの捜索に出向いている。
「ライムちゃん、私も一緒に行くよ。一人じゃ危ないし」
ユイの友人の一人、アルもまた、ユイの捜索に参加している。
さらにこの場にはいないが、ユイの主人であり序列3位のセウル、序列1位のアラム、序列7位のクラン、そして現在序列30位に浮上したライに、序列87位のアイラと、学園国家のそうそうたる面子がユイの捜索に身を乗り出している。
1人欠けただけでも大騒ぎになるほどの学生たちが一気に5人も学園からいなくなるという事態は中々に異様であり、学園内はどよめきたっている。
それほど、この人間たちにとってユイという存在が大きかったのだ。
「ライム君、アル君、東の大陸は凶悪な魔獣がいるという噂がある。いくつかここの装備でも……」
「いりませんわ。そうやって持たされた武器が、この前暴発したんですのよ?」
「だからこそ、新しい実験を……!」
「死に去らせクソジジイ!」
この期に及んで実験がどうのと宣うロイドに、ライムは渾身のかかと落としを叩き込んだ。脳天に大ダメージを負ったロイドは研究室内で倒れ混み、気を失う。
「行きますわよアルさん、こうしてる間にも、ユイ様がどんな目に遭っているか……ああ! 想像するだけで胸が張り裂けますわ! 今すぐお助けに行きますわ!」
「あ、ライムちゃん! ロイド先生ごめんね、でもさすがに懲りた方がいいと思うよ?」
研究室で倒れ伏すロイドを置いて、ライムとアルはユイの捜索へと東の大陸へと向かった。
そして、2時間ほど経ってからようやくロイドは目を覚ます。
「くぅ……ライム君め、お茶目なジョークとして聞き流せばよいものを。ジョークではなかったが」
完全な自業自得であるのだが、恨み言をこぼして起き上がるロイド。
だがこの男もただ実験に耽っているわけではない。特定の魔力に反応する魔道具を作り出そうと、ロイドなりにユイの捜索に力は入れているのだ。
自身の過失により教え子が行方不明、これでなにも思わないほどの外道ではなかった。
頭をさすりながら椅子に腰掛け、製作中の魔道具に着手しようとすると、ドアをノックする音が聞こえた。
「なんだ?」
「郵便です」
「郵便? 悪いが今は仕事は受け付けていない。手紙は持って帰ってくれ」
郵便と聞き、また魔道具製作の依頼かと思い追い返そうとする。革新的な道具の製作を頼まれれば断る自信がないロイドは、金が必要なとき以外は依頼に目を通すことすらしないようにしていた。
せめてもの責任と再び魔道具をつくろうとするが、
「えー……はぁ、わかりました。でも一応差出人の名前は教えておきますね。ユイ・イチホシという方からです。では失礼します」
「ちょっと待ったぁぁぁぁ!」
目的の人物の名前を聞き、俊敏な動きで扉を開けるロイド。
その動きに驚きはしたものの、手紙を持ってきた男はロイドに手紙を渡し、この場を去っていった。
「ユイ君からの手紙……名前の字は、ユイ君のもので間違いなさそうだな」
それがユイのものであると確信してから、手紙をじっくりと読み込む。
1分ほどかけてじっくりと読み込んだ手紙の内容は、今は奴隷として拾われており、そこで働かせてもらっているということ。そしてそこでの生活には支障はきたしていないが、出来るのであれば迎えに来てほしいこと。
大まかな内容はそんなところだった。
内容を把握したロイドは、手紙を机に置いて呟く。
「なるほど、ユイ君はあの島にいるのか。なら…………放置しても問題ないな」
手紙を読み、支障がないとはいえ奴隷に身を落としているというのに、ロイドは放置する選択を取った。
「ユイ君は当面無事ということがわかった。なら、シュテル達にこの手紙を見せるわけには行かないな」
ロイドは手紙に火をつけ、完全に抹消した。
これで真実を知るものは今のところ、ロイド1人しかいない。
「とりあえずアイラ君は呼び戻すか。ユイ君のためにならと計画は中断していたが、あの子が無事なら遠慮することはない」
ロイドは作りかけの道具を分解し、新たに作っていた道具の作成に入る。
それはユイを探すためのものでもなく、依頼のために作っていたものでもない。
己の悲願を達成するための、自己満足のための道具。
「シュテル、ユイ君の捜索がお前の最後の時間だ。精々楽しんでおくんだな」




