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第104話 「稼ぐ方法」

 お金を稼ぐという目的ができたけど、さてどうするべきか。

 目標金額は金貨10000枚、手持ちを20倍にすることで達成することのできる金額だ。

 だが、なかなかに難しい。金貨10000枚、あくまで僕の体感だが、日本円にすれば約一億円換算だ。ただの一般市民の僕が一億など、一生働いて貯まるかどうかの大金だ。

 あまり長い時間はかけたくない。こうして考えている時間にも、一人の女の子が傷ついている。骨を折り、血を流し、ボロボロになっている。

 期間の制限はないが一刻も早くお金を集めなければいけない。

 けど、どうすれば貯まる?

 闘技場でお金を稼ぐのが、きっと一番近道だ。人を殴って殴って殴りまくれば、自然とお金が貯まっていく。

 僕がさっき戦ったリックさん、あの人が闘技場において上位の実力者なら、正直ここのレベルは低い。

 色々と要因はあったけど、あの学園国家で序列2位まで行った僕の敵ではない。

 数日のうちにトップに立つことだって容易だろう。

 問題は、人を殴ることに僕が耐えられるかということ。

 今でも気持ち悪さは残っている。たった3発殴っただけで吐き気を催した僕なんかに耐えられるとは到底思えない。

 闘技場での金策は、もっとも簡単てもっとも難しい。

 他に手がなければやるしかないと腹を括るが、逃げ道として、他にいい方法がないかを思案する。

 お金を稼ぐ手段、一般的には仕事で貯めることだ。だがそんなのでは何年必要になるかわかったものじゃない。ある程度普通ではない、一般的とは逸脱したことをしなくてはいけない。

 となると考えられるのは……


「あれしかないか」


 奴隷でなくなった僕はこの国を真っ昼間から堂々と歩いている。今までは食材を買う程度の目的でしか来なかったけど、今は別の明確な目的がある。

 かつての世界にも存在し、この世界にも存在する施設。

 うまく行けば無限にお金を稼ぐことのできる場所。

 そう、賭場だ。

 今の僕が金貨10000なんて大金を稼ぐには、賭けに出るしかない。

 手持ちを20倍にするくらいなら、難しくはあっても不可能ではないはず。

 そんな考えで、国で一番大きな賭場にやってきた。


「……ドキドキしてきた」


 実際にギャンブルなんてやったことはもちろんない。

 競馬や競艇、パチンコやスロットなど、日本でポピュラーなギャンブルは年齢制限もあるので当然できない。他にも宝くじみたいな、遊びの延長みたいなものも一切経験がない。

 カジノ経験皆無の僕が賭場に初めて足を踏み入れると、


「いらっしゃいませ」


 中には黒服を着込んだ男性スタッフが待ち構えていた。

 パッと見で魔力が体中に帯びているのが見え、常に臨戦態勢を整えている。

 仕事柄、武力を用いることがあるのだろう。


「あ、あの、初めて来たんですけど」


「それはそれは、ようこそ当店においでくださいました。見てのとおり当店はこの国最大のカジノ場、ありとあらゆるジャンルのギャンブルを取り揃えております。ですが……」


 黒服の男性は僕を観察しながら、こんなことを言ってくる。


「失礼ですが、きちんとお金をお持ちでしょうか? 当店はミニマム金貨1枚からの高レートでして、お客様には少々合わないかと……」


 僕の服装は一般庶民と変わらないから、そう思われるのも仕方ないか。お嬢様の屋敷でいつも着てた服ならよかったんだろうけど。


「金貨500枚あります。これでも足りないでしょうか?」


「おお、それは大変失礼いたしました。昨今は大した金を持たずに来る輩が増えまして、いざ精算のときにトラブルが起きましてね。つい神経質になってしまいました。ではお客様、当店でのご遊戯、存分にお楽しみくださいませ」


 スタッフの許可を得て、僕は店内をぐるっと見回す。

 様々なところでギャンブルが行われていて、サイコロやルーレット、トランプを用いたギャンブルがそこかしこで行われている。

 そして店内には、おびただしいほどの魔量が充満している。

 お嬢様に魔力の扱いを教えてもらった時を思い出すな。魔力を用いたイカサマはギャンブルにおいて、最強レベルのイカサマだ。扱うのが熟練のギャンブラーなら、見破るのはほぼ不可能とも言われている。

 けど、店内を歩いているだけで魔力を使用しているのが丸わかりのこの状況は、さすがにお粗末すぎる。

 こんなの見る人が見なくても、イカサマをしていますと公言しているようなものだ。

 にもかかわらず、店内でトラブルが起きている様子はない。イカサマOKの賭場? そんなわけがない。

 ならあり得るとすれば、客の全てがイカサマを使われたことに気づいていない。


「ここ、大丈夫なのかな」


 僕から見れば不自然にもほどがある状況に、逆に不安になってくる。

 やっぱりやめようかなと思いもしたけど、やめたらやめたで、また闘技場で戦う羽目になる。

 僕は試しにと、近くのルーレットをやってみることにした。

 大勢がルーレット台を取り囲んでいるなかに僕も入り込み、とりあえず赤のマスに金貨を1枚置いてみる。

 これだけで、10万くらいを一気に賭けてると思うと、ゾッとするな。


「ではみなさんベットはよろしいですね? 投げさせていただきます」


 ディーラーが客に確認を取ってから、小さな玉をルーレットに投げ入れる。

 その光景は、はっきり言って異様だった。

 玉自体は普通の物理運動を行っている。客も玉の行く末を見守り、不自然なことはない。が、問題はルーレット台だ。

 玉を投げ入れてから数秒後、うっすらと魔力が沸き上がってきた。ちょうど、黒のマスを全て埋め尽くすように。

 耳を澄ませてみると、微かに、シューっと音が鳴っている。これは風の音だ。

 風が黒のマスに吹き、決して入らないようになっている。

 やがて玉は動きを止めて、赤のマスに入り込む。


「結果は赤の12でございます。では黒にお賭けになられた金貨をいただきます」


 ディーラーは50枚くらいの大量の金貨を自身のもとまで手繰り寄せる。

 その金額は、明らかに赤に賭けた以上のものだ。

 それから僕はしばらくルーレットをせ観察していた。

 さきほど黒のマスに吹いた風のように赤のマスにも風が吹き、当然のように黒に入る。

 もちろん賭けた金貨は黒の方が少ない。

 たまには賭けた金貨が多い方に玉に入ることがあったが、全体的にみたら確実に片方に片寄っている。

 そして利益の方も、客個人ごとに見れば勝った人もいるようだが、ディーラー対客で見た場合、圧倒的にディーラーが勝っている。

 正直に言えば、利益管理が雑だった。

 それに見る人から見れば不正は明らかなのだが、どうも気づいている人はいないようだった。みながみな、ただ純粋にギャンブルを楽しんでいるだけに見えた。

 となれば、ここはそういう店ということだ。客への還元は最小限におさえ、それでも客は楽しむ為だけに来てるから、ある程度負けても動じない。

 見れば客のほとんどは高価な服に身を包んだ、貴族然とした人たちだ。稼ぐよりも、娯楽の面が強いんだろう。

 とすると……稼ぐのは簡単そうだ。僕個人が賭ける分には相手に利益コントロールされて勝ち目はない。だが客の一人としてギャンブルを行えば、利益の少ない方に賭ければよいのだから、注目されずに無難に賭けることができる。

 10000枚稼ぐのには時間がかかりそうだけど、確実に、安全に稼ぐ道筋が見え、僕の心は安堵していた。

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