プロローグ
久しぶりに投稿します!
少しでも面白いと感じてくれたらうれしいです!
僕は不幸な人間だと思います。
生まれてから一度も良いことがあったことなんかないし、なのに悪いことならたくさん経験がある。
とある事情から、幼いころからひどいいじめを受けてきた。
親から虐待もされた。
365日毎日、僕は大なり小なり暴力と暴言に晒され続けていたんだ。
今から話すのは、そんな僕の不幸な一日です。
*
「喰らえっ!」
大きな声とともに、一人の男が足を思いっきり振るった。
その足は僕のお腹に直撃して、苦しみから嗚咽を漏らす。
「おいどうした? まだ始まったばかりだぞ、サンドバック君」
僕をサンドバックと呼ぶ彼は、同じ高校に通うクラスメイトだ。
彼だけじゃなく、他にも4人ほどがうずくまる僕を見て嘲笑っている。傷つけたことに何の負い目も感じず、むしろ暴力を振るうことが当然と言わんばかりの目だ。
いつまでも立ち上がらない僕を見て、彼らは笑みを浮かべて次の行動に移る。
「座って待っているってことは、次は顔面キックだー!」
おもちゃを弄ぶように、僕の顔面を好き勝手に蹴り続ける。
一度二度、幾度となく繰り返される蹴りはやがて僕から意識を奪い始める。
目もかすみ、体の力が抜けていくとき僕は、遠くの方で1人の女性と目が合った。
「……あ……」
女性はこの学校の教師だ。
いじめの光景を目の当たりにし、それを完全に認識しているはずの教師は、そそくさとその場から離れていった。
いつものことだ。誰も僕の味方なんていない。誰一人として僕を助けてくれる人なんていない。
……それも、しょうがないことなのかな。
だって僕のお父さんが…………人殺しだから。
「そろそろやめといてやるよ。ほら、気絶する前に蹴るのをやめてやった俺らに、感謝の言葉は?」
足を止めた彼らは、僕の頭に足を載せて感謝するように言った。
感謝の念などあるはずもない。苦しませ続けた彼らに、何故そんなことを言わなければいけない。
そんな気持ちでいっぱいだったけど、僕はこれ以上の暴力を避けるために、地面に顔をこすりつけながら彼らに精一杯の言葉をかける。
「やめて……くれて、ありがとう……ございます」
「どういたしまして!」
さらに強い力で僕の頭を踏みつぶした彼らは、高笑いをしながら教室へと戻って行った。
僕は数分してから立ちあがり、ボロボロの体で教室に戻って行った。
教室に戻った僕を見ても、誰も何も言わない。大丈夫?の一言すらない。
これが日常の風景だと、何の問題もないと、彼らの行動が語っている。
僕はこのクラスでは……いや、この世界では常に、虐げられる存在でしかない。
制服はズタボロ、顔も含めて体中傷だらけのまま帰り道を歩き、家に戻る。
ここで普通の親なら、何があったのかと問いただすところだろう。
けど僕の親は違う。
傷だらけの我が子を見ての第一声は、
「遅いよ。さっさと飯の仕度をしてバイトに行きな」
これである。自分は一切働かず、自宅で食っちゃ寝の怠惰極まりない生活を送っている。
実の息子がどうなろうと、自分のためにお金を稼いで養うのが当然と思い、心配など一切することはない。
僕は生まれてからお母さんの笑顔を、一度も見た事が無い。
夕食の準備を済ませ、僕はバイトに向かう。
バイトの時間は、高校生では違法とされる深夜まで行っている。
生活のため、学費を稼ぐために、僕は年齢を偽って働いている。
そして夜の1時まで働き、自宅へと戻る。
家の電気は当然消えていて、お母さんはすでに寝ている。最後におかえりと言ってくれたのは、いつだっただろうか?
そんなことを考えながら、僕は用意してあった夕食を温めて食し、部屋で勉強を始めた。
クラスメイトに落書きされ、普通に読むことさえも困難な教科書を広げ、再来年に控えた大学受験の準備を淡々と進める。
こんな生活も、頑張り続ければきっと変わる。
きっと、幸せになっちゃいけない僕だけど、今よりもマシな人生を送れるかもしれない。
僕にどれだけ重い罪がのしかかっているとしても、きっと……
*
僕の日常は、こんなものです。
辛く苦しい時間が続いている。
けど、苦しみから逃れるために頑張り続ける。頑張って頑張って頑張り続ける。
苦しみを緩和させようとすることが、僕が出来る唯一のこと。
……だったのに、その唯一のことさえも、この世界は僕から奪い去る。
*
家を出発し、バイト先に向かうところだった。
いつも通りの道、いつも通りの街並み、いつも通りの顔ぶれ、何もかも代わり映えしない場所を、僕は体中に走る痛みに堪えながら歩く。
たまに頭がボーッとなってふらふらとした足取りになるけど、歯を食いしばって意識を覚醒させ、何とかまっすぐ歩こうとし続ける。
そんな時、50メートル先で全速力で走る男を見た。
大きめのバッグを持って、必死の形相で走っている。
その後ろでは、サイレンを鳴らしたパトカーが追いかけている。
誰でも分かることだった。逃げている男が罪を犯し、それを警察が追いかけているということは。
逃げてきた男は僕の方へと走ってくる。
きっとこの人は、僕のことなんか眼中には無かっただろう。けど僕は、慌てて避けようとして、けど苦痛でまともな行動が出来なくなっていたのか、思っている方向とは逆方向に避けてしまう。
それは奇しくも、犯人の逃げ道を遮ってしまう形になった。
「どけ!」
言われなくても、僕はすぐにどきたかった。道を譲り、この件に関して関わりたくなどなかった。
けど咄嗟のことで頭がうまく働かないのか、おぼつかない足取りでふらふらとしてしまって、望まないのに犯人の行く手を遮り続けてしまう。
やがて痺れを切らした犯人は、懐から光を反射させる物を取り出す。
鋭利な刃物だった。
脅して僕をどかそうとしたのだろう。僕はもちろん怯えていたし、死にたくないと思っていた。
早くこの場から離れて、安心したかった。
けど足がすくんで、動けなくなってしまう。業を煮やした犯人は少しも躊躇することなく、手に持つ刃物で僕の胸を刺してきた。
……きっと僕のことを、犯人確保に協力する勇敢な若者に……見えたんだろうなぁ。
「ガハッ!」
その場に血を吹きだして、僕は倒れた。
体に力が入らない。立ち上がることが出来ないし、手を握ることも、歯を食いしばることも出来ない。
けど不思議と……痛くない。一瞬だけ激痛が走ったような気がしたけど、横たわる今、それほどの痛みはない。
むしろ強烈な眠気が僕を襲って、たくさんの血を流しているのにそれを気にせず、眠りにつこうとしている。
分かっている。ここで眠ったら僕は永遠に目を覚まさない。
それが、死ぬということだ。
ここで死んだら、僕は不幸なまま死んでしまう。こんな世界でも必死で頑張り続けたのに、一瞬の幸せさえも感じずに死んでしまう。
そんなことはいやだと、迫りくる眠気に抗おうと重い瞼に力を入れる。
そうしたら、僕の視界にある物が映った。
僕を刺した犯人の持つバックから、零れ落ちる一つの石ころを。
キラキラと輝いて、眩くて、綺麗で……僕は無意識のうちに、その石ころに手を伸ばしていた。
力なく握り、感触を確かめる。
……ああ、宝石って、こんなにも綺麗なんだな。
僕はこれだけで、少しだけどマシな人生だったなと感じて、死んでいった。
*
「おっとぉ!? なんと今回召喚された異世界生命体は、人間だ!」
……僕、死んだんだよね?
気づくと、僕は鎖でつながれ、多くの人間の前で拘束されていた。