外に出たのはほんのきまぐれ。
外に出たのはほんのきまぐれ。
その日は初雪だった。白い雪がひらひらと舞う。かじかんだ手にほぅっと息を吐くと凍った息がたちまち黒い闇へと溶け込んだ。少女の小さな小さな足跡がまっさらな雪の上につけられてゆく。まるで少女をずっと待っていたかのように、今宵は雪の妖精は楽しく踊る。
ふと、今日の夕食はなんだろうと思った。
だけど、そんな考えも新しい玩具を見つけてしまってはもうおしまい。少女は見事に目の前の宝物に心を奪われてしまった。
まだ生まれたばかりの雪が、赤い液体で溶けていた。もう機能しない人形は行儀よく正座している。
顔はかわいいけど赤い血がベットリついていて、このお人形は好きじゃないな。そんなことを考えながら、少女は屈みこんで死体ににっこりと実に愛らしく微笑みかけた。
当たり前だが、死体は微笑み返してこない。少女はやつあたりとしてトンっと死体を足で蹴る。するとコロンと意図も簡単に頭がとれてしまった。
もともと壊れていたのだろう。大人でさえ普通は不可能なのだ。こんな幼い少女に大人の頭などもぎ取ることは出来るはずがない。
「あぁーもうっ。」
玩具が手に入らなかった子供のように少女は駄々をこねた。
好きじゃなくても可愛かったから、コレクションにでもしようと思ったのに。
「もう、かえっちゃおっかなー。」
誰に言うでもなく少女は頬を膨らます。
そしてもう一度、トンっと死体を蹴ると、高級な毛皮のコートから覗くたっぷりとしたフリルスカートを翻しながら、もと来た道を帰って行った。
少女に倒された頭は空をみていた。
雪だけが死者を静かに埋葬しているようだ。
外に出たのはほんのきまぐれ。
明日は本格的に積もりそうな雪空だった。