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星の灯台守  作者: 潜水艦7号
7/10

そして『3ヶ月後』は来た

正直な事を言えば、だ。


ユーナは、もう『腹を括った』と言ってよかった。


薄々は分かっていた事だ。『これは間に合わない』だろうと。

無論、それはタローにも分かっていた事だと思う。

だがそれでも自分はベストを尽くしたと思うし、タローもベスト以上を尽くしてくれたと思う。


『泣きっ面に蜂』というが、人間は負のスパイラルに陥るとトコトン不運なものだと思う。今回は、自分が『その番』なのだ‥‥と理解出来た。


思えば宇宙好きが講じて、こうして宇宙船のパイロットにまでなったのだ。

周囲からは『女だてらに宇宙船パイロットなんて』と散々止められたものだが、それでも自分の『好き』を我慢することは出来なかった。どうしても、宇宙が自分を呼んでいるような気がしたのだ。


そして。自分が受け入れた『リスク』そのままに、こうして『宇宙の塵と消える』というのも、また自分の人生なのかも知れない。


3ヶ月前の自分は『きっと、3ヶ月後には耐えられなくて正気を失うだろう』と恐れていた。

だが、いざそうして『3ヶ月後』が来ると、意外と『諦めがつく』ものだと、ユーナは自分自身で妙に感心していた。


何だか、タローの顔も気のせいか今日は『スッキリ』しているようにも見える。特段、焦りの色が浮かんでいる様子はない。

いつもと同じように、ただ黙々と有り合わせの部品をハンダ付けしている。・・・かなり部品は足りないが。おそらく、彼もまた『覚悟』しているのだろう。


ユーナは心に決めていた。


『明日』になったら。


つまり『もう何をしても間に合わない』となったら、『それを、そのままタローと二人で笑って受け入れよう』と。


残された『6ヶ月間』をどうやって過ごそうか。


何だったら、生き別れたというタローの娘に成り代わって自分が『娘』として振る舞っても良いだろう。一緒に居られる時間は短いが、きっと『いい娘』を演じる事が出来ると思う。いや、演じてみたい。それが、ここまで全力を尽くしてくれたタローへの、自分が出来る唯一の恩返しだろうから‥‥。


時間は刻々と『タイムリミット』に近づいている。


それは、二人で夕食を食べている時だった。


「ユーナちゃんよ。それ食ったら、もう今日は寝な。疲れただろ」


そう語るタローの言葉に気負いは感じられなかった。


「うん‥‥。タローさんは?」


何だか、自然と涙が込み上げてくる。


「まぁ‥‥なんだ‥‥一応『タイムリミット』だからな・・・今日だけは徹夜ってのを・・・してみるよ。何つーかよ、もしかしたら『奇跡』が起きっかも知れんしさ」


『作り笑い』にもホドがある、とユーナは思う。どう考えても此処まで不幸続きで、いきなり『奇跡』なんて、全く有り得ないのだろうから。


「あ‥‥私もそうしようか?手伝いたいし」


ユーナの申し出に、タローが笑いながら首を横に振る。


「やめとけ。万が一『奇跡』が起きた時に、寝不足で惑星間連絡船を操縦するワケにゃぁいかんだろ?」


最後まで。最後までタローは自分を気遣ってくれている。それが心に滲みる。


「うん‥‥分かった。期待してるよ」


無理にでも笑おうとするが、頬を伝う涙が止まらなかった。



ところがだ。

翌朝、状況は急転した。


ユーナが寝袋(シュラフ)から身体を起こし、デッキに向かうとタローの姿が無い。


気のせいか、少し室温が低いような気もしないでもない。


どうしたのか?と思い、タローの姿を探しに行くと‥‥何と、『保存』してあったハズの連絡船とのドッキング・ベイが開いていて、中に明かりが灯っているのだ。


「‥‥?タローさん、そっちに居るんですか?」


ユーナが連絡船の中に入る。たった3ヶ月の間来なかっただけだが、何だか懐かしい気がする。


ふと、胸騒ぎがしてユーナは操縦室の方に向かった。


すると、操縦席のドアが開いていて、中にタローの姿があったではないか。


徹夜のせいなのか、タローは操縦席でじっとしていた。


「‥‥タローさん?」

ユーナがそっと声を掛ける。


徹夜明けなのは間違いないだろうし、あまり無理に起こすのも‥‥と考えたのだ。


「う‥‥ん?ユ‥‥ナちゃんか‥‥?」


目をこすりながら、タローが目を覚ます。


「うん‥‥。何なら、向こうで一休みしてきたら?」


気遣うユーナに、タローが『ニヤリ』と笑って見せた。


「へへ‥‥起きたぜ‥‥『奇跡』ってヤツがよ‥‥やってみるもンだな・・・」


一瞬、ユーナはタローが何を言っているのか理解出来なかった。


もしかすると間に合わなかったのが災いして『気が狂った』のか?との疑いが頭をもたげる。


怪訝そうなユーナを見て『信じられないようだな?』という顔をすると、タローがおもむろに『電源スイッチ』を入れて見せた。


ヴィィィ‥‥ン‥‥イィィィン


冷却ファンの唸り音と共に、操縦席の全体にランプが灯る。


「うそ‥‥動いた‥‥動いたわっ!」

大声でユーナが叫ぶ。


「まさか‥‥そんな‥‥信じられない‥‥」


ユーナは辺りを見渡す。何処を見ても、状態は完璧に作動している。


「ホントなの‥‥夢じゃなくって‥‥?」


もし『これ』が夢だとしたら、こんな残酷な話は無いだろう。


だが、タローは確信をもってユーナに告げた。


「ああ、ホントだ。ウソだと思うんなら、自分の頬でもツネってみンだな」


何が‥‥何が起きたんだろうか‥‥


ユーナは呆然と『夢のような光景』を見ていた。


「最後の最後に『思い出した』ぜ‥‥。宇宙灯台の長距離無線機に『同じような部品』が使われてるハズだ・・・てな」


そう語るタローは少し自慢げだ。


「さて‥‥おい、ボヤボヤしてんじゃねーよ。言ったろ?『明日に備えて早く寝ろ』って。すぐに出航の準備(シークエンス)を始めな!」


ボン、とタローがユーナの背中を強く叩いた。



『起こりえないハズの奇跡が突如として起こる』


冷静に考えれば、こんな不自然な事はないだろう。


だが、この時はとにかく『これで地球に帰れる』という喜びが優先しすぎて、その他の事に頭が回らなかったのだ。


ユーナは後になって『この時の思慮の浅さ』に苦しむことになろうなどと、夢にも思っていなかった。

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