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星の灯台守  作者: 潜水艦7号
6/10

続ける修理と過ぎゆく時間と

電源基板の修理は、やはり簡単では無かった。


まず、焼損した範囲が広くて交換を必要とする部品点数が多いこと。それと、部品そのものの型番が焦げていて読み取りが利かないものがあること。

そして、基板自身が焦げていてプリントされた回路の一部が焼け落ちていることだ。


『部品の供給元』としては、灯台の天体観測装置や惑星電波探知機、外部作業用のロボットアーム制御装置など、直接の生命維持に関係ないところから流用することにした。


後は『それ』で、全てが揃うのを祈るのみだが‥‥


この作業は思っていたよりも遥かに地味で、遥かに忍耐力を要した。

何しろ1つ々、電気ボックスを開けて中の基板を確認し『必要な部品』が無いか、細かくチェックするのだ。さながらそれは『神経衰弱』のようである。


部品の大まかな形状や型番だけでなく、色などもチェックしなくてはならない。特に『細かい部品』はユーナの担当だ。タローが『細かい字は苦手だ』と言ったからだ。


何しろ、電子部品はそれ自体がとても細かい。小さなものは米粒ほどの大きさしかなかったし、そこに書いてある字を判読する必要があるのだ。


また、同様にタローが『てーこー』と呼んでいた部品も厄介だった。これも大きさが小さい上にヘンな色の帯がしてある。この色の種類と配置が大事らしく、一致するかどうかをイチイチ確認しないといけない。


また、この部品の面倒なのは『完全に一致しなくても、組み合わせ次第で使えるようになる』という点である。そのため、その『帯の色の意味』を記憶しなくてはならないのだ。


一応はメモを書いて貰い、最初はそれとイチイチ見比べていたが、そのうち自然に覚わった。何しろ『自分の生命』が掛かっているのだ。真剣味が違うというものだろう。


最初のうちは、比較的に『部品』も見つかりやすかった。というか、それだけ汎用性の高い部品は眼に付きやすいという事だ。


しかし、1週間も過ぎてくると段々それも難しくなってきた。時には3日間掛かって1つも見つからないという時もあった。そういう時は本当に息苦しい。『このまま何も見つからず、そのまま此処で朽ちるのか』という恐怖が、どうしても頭をよぎる。


そうした時、ふと『これ・・・そうじゃないかしら?』という部品が見つかると、ユーナは大急ぎでタローに見せた。それで『これだ!』となると、二人して大喜びになった。時にはハシャぎすぎてタローに抱きついてしまったこともあった。


ふと思い返すと。


ユーナは最初、タローとは『出来るだけ距離を取ろう』と考えていた。だが、今となっては『距離をおく』どころか、ほぼ1日中を一緒に過ごしている。

その方が遥かに楽しいし、気が楽になるのだ。


タローの提案で『作業効率と集中力を維持するために』という理由から、1日7時間の睡眠時間を確保するようにしているが、その間もユーナは『自室』として提供された観測室に戻ることは無かった。


もっとも、その『自室』たる観測室はバラされたパーツで文字とおり『足の踏み場もない』状態ではあったのだが‥‥


その日、また新たなパーツが1つ見つかって一休みをしている時だった。


「なぁ‥‥ユーナちゃんは、どうして宇宙に出てみようと思ったんだ?」


タローの何気ない質問に、『珍しいな』とユーナは思った。


タローは基本的に他人のプライベートについて聞こうとしない人間だとユーナは理解している。

これまで何度か此処の宇宙灯台にも来ているが、タローは雑談でもユーナや他のメンバーにそうした個人的な質問をしている処を見た事がない。


「宇宙を目指した理由ですか?‥‥そうですね。単純に星空が好きって言うか‥‥宇宙に出ると『無限の広がり』っていうものを実感するじゃないですか?地球は色々と『狭く』なっちゃってますし。何か‥‥宇宙はそれとは反対の『自由』を感じられるのが良いかな‥‥て。そんな大した理由じゃ無いんで、すいません」


ユーナが恥ずかしそうに視線を下げる。


「‥‥いや‥‥良いと思うよ。だいたい‥‥人間の『好き嫌い』なんて、得てして単純なモノだからさ‥‥」


ウンウンとタローは小さく頷いて見せた。


ユーナは、タローが他人のプライベートに立ち入ろうとしない理由を『自分の事を聞かれたくないからでは無いのか?』と予想していた。自分の事を話したくないから、他人の事も聞かないのでは‥‥という推理だ。


だとすると。

自分(ユーナ)の事を聞いて来た』という事は逆に言えば、『自分(タロー)の事を聞いてもいいよ』というサインかも知れない、とユーナは思った。


「あの‥‥」

ユーナが切り出す。どうしても、昔から疑問に思って居ることがあるのだ。


「うん?何だよ」

タローの口調は比較的柔らかい、と感じた。


「あの・・・答えられれば、で良いんですが‥‥どうしてタローさんは宇宙灯台(ここ)で生活しようと思ったんですか?」


「ん‥‥?ああ、此処でアホみたいに一人暮らししてる理由か・・・」

フフ‥‥とタローが笑う。


「そりゃまぁ‥‥世間様がオレみたいな灯台守の事を『世捨て人』だの『変人』だのと揶揄してるのは知っているけどな‥‥」

タローは、遠い眼をしている。


「地球で暮らすのが辛い人間、ってのも居るモンだよ。色々な事情でね」


「・・・・そうですか」


誰かが言ってたと思う。『幸せの形ってのは概ね似ているものだ。だが、不幸の形は無限にある』と。だとすれば、このタローにも『何かしらの不幸』があるのだろう。


「オレは違うけどよ、ツマラん犯罪を起こして居場所を失ったヤツとかさ。或いは周囲に人間が居ると『どうしても傷つけてしまうから』なんてぇ理由で『引きこもってる』ヤツも知ってる」


有人の宇宙灯台が太陽系にいくつあるのか。その総数をユーナは知らない。だが、その数だけ『辛い思い』があるのだろう。


「‥‥オレさ、娘が居ンだよ」


突然、タローが話を変えた。


「もう‥‥女房と離婚してから何年も会ってねーから、今どうしてるのか‥‥サッパリ分からんけどよ。生きててくれりゃぁ、丁度アンタくらいの年頃だと思う。まぁ‥‥オレの記憶ン中では、ずっと『10歳』のままだけどさ‥‥」


そう言って、すっ・・・とタローが後ろを向く。


涙を見られたくないのだ、とユーナは理解した。


『自分が死にたくない』のは当然としても、ここまで真剣にタローが連絡船の修理に付き合ってくれるのも、もしかしたら『その娘』にユーナを重ねているせいなのだろうか。ユーナはそう感じた。


何しろ『絶対に自分だけが生き残る』と判断するのなら、こんな面倒な『賭け』に出ることなく、極端な事を言えばユーナを『殺して』しまえば良かった。

その場合は1.5年分の食料を確保する事が出来るから、生き残る可能性は遥かに高くなる。


それに、もし『そう』なったとしても、法律上の『緊急避難』が適用される可能性は高い。何しろ政府の指示によって『見放された』のだから。


だが、タローは『それ』をヨシとせず、全力で船の復旧に尽くしてくれている。


その懸命な姿が、ユーナにとって涙が出るほど嬉しかった。


だが、時間だけは無情に過ぎて行く。


気づけば『タイムリミット』の3ヶ月‥‥つまり『90日』は、明日になっていた。

しかし、電源の修理はまだ目処も立っていなかった。

タローは、作業を終えてユーナが寝付いたのを確認してから、エウロパに無線を入れた。

「‥‥ハロー、エウロパ。タローだ‥‥これが『最後の通信』になる‥‥」


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