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星の灯台守  作者: 潜水艦7号
2/10

連絡船は遭難信号を出す

「あれ‥‥何これ?」


最初は、ただの「?」だった。


きっと、何か『手順とかを間違えた』とか『インターロックが働いた』とかそういう類のものだろうと。


幸い船内照明は生きている。制御回路を介さずにバッテリーから直接に電源を取っているからだ。


もしや‥‥


思い直してユーナはドッキング・ベイに戻った。ハッチが『半開き』になっているとか、そういうミスが無かったか確認するためだ。

だが、何も問題は無いようだ。


「違ったか‥‥じゃぁ、貨物室かな‥‥?」


宇宙船の場合、大量の荷物を『降ろして』しまうと、そこに生まれる空間に空気を取られてしまう事で『船内全体の空気濃度が低下してしまう』という地球では考えられない問題が生じる。

そのため、隙間が多い貨物室を開ける場合は他の居住区から空気を送り込み、逆に貨物室を閉めた場合には、そこから空気を抜いて居住区に戻す必要があるのだ。


なので、貨物室の扉が完全に閉まっていないと空気が送り込めないのだが‥‥。


「うー‥‥ん。チャンと閉まってるなぁ‥‥」


首を捻りながら、ユーナが操縦席に戻る。そして再び操作電源スイッチを入れ直すが‥‥やはり、電源は入らなかった。


「え‥‥まさか‥‥『壊れた』とか‥‥?」


ユーナは全身に鳥肌が立つ感覚に襲われた。


微かに手が震える。


背中に血が集まり、体温が肩甲骨の辺りだけ高くなっているのが分かる。


此処は地球から遥か7.8億kmの彼方だ。『もしも』となれば救助を要請したとしても、やって来るのは半年以上も先になってしまう。


「ヤバイな‥‥」


焦りを感じながら、ユーナは機器のスイッチ類を確認して廻る。だが、やはりおかしな処は見つからない。


「参ったぞ‥‥」

ダッシュボードを開けて緊急対処マニュアルを取り出す。


「電源が入らない場合‥‥と」


パラパラとページをめくるが、電源のインターロックに関する記述は見当たらなかった。後は、極めて専門的な回路の確認だけだ。


「しまったな‥‥先輩はエウロパに置いて来たし‥‥」


地球から一緒に来たコージ先輩なら多少なりと技術的に詳しかったと思うが、エウロパでは助けを求める事も出来ないのだ。


こうなったら仕方ない。

あまり気は進まないが、タローに助けを求めるのがベターな方法であろう。


ユーナは踵を返してドッキング・ベイに向かった。


いくら知り合いとは言え、お客に助けを求めるのは申し訳ないというか筋違いな気もするし、それに『妙な借り』を作るのも正直、いい気はしなかった。

だが、状況はそんな事を言ってられるほど安閑ともしてられないようだ。


ガン、ガン!


ユーナがドッキング・ベイの閉じられた扉を叩く。


「おうっ!どうした?今、開けるからな」


意外にも、タローからの反応は早かった。


プシュー‥‥と音がして、ドッキング・ベイが再び開く。


「‥‥何かあったのか?」

怪訝そうな顔でタローが尋ねる。


「動き出す気配が無かったから『ヘンだな』とは思ってたんだが‥‥」


「すいません、実は電源が入らなくて‥‥申し訳ないんですが、少し見てもらえたらと思って」

ユーナが頭を下げる。


「電源?そうか、分かった。工具をとってくるから、チョット待っててな」

タローは引き返すと、倉庫から工具箱を持ってきた。


「さ、いくぞ。操縦席に案内してくれ」


「では、こちらへ」


ユーナがタローを案内して操縦席に入る。


「これか‥‥どれ?‥‥なるほど、電源が入らないな‥‥」

タローが電源スイッチをパチパチと入れ直してみる。


「ああ、電圧が来て無いな‥‥ほら、見てご覧。そもそも電源スイッチに電圧がノってないだろ?」


タローがユーナに指し示した計器の指針は『ゼロ』を表示していた。


「照明は着いてるから、バッテリーは生きてると思うんだが‥‥おや?」

タローの手が止まる。


「ど‥‥どうしました?」


おずおずと、ユーナが身を乗り出す。


「おい‥‥何か、コゲ臭くないか?」


操縦席下のパネルを開け、タローが中を覗き込む。


「‥‥そう言えば‥‥何か樹脂が焦げたような匂いがしますね」

クンクンとユーナが匂いを嗅ぐ。


「ああ‥‥分かったよ、コレだ」


タローが顔を戻し、ライトで中を照らしながら指を差した。


「‥‥分かるかい?電源基板がハデに『焦げて』やがる。何かの拍子に回路がショートしたんだな‥‥」


困ったな‥‥という表情で、タローが腕を組む。

「持って無いよなぁ‥‥予備品なんてよ」


無論、『替えの電源基板』なぞ、あろうハズもなかった。


「ええ‥‥無い、と思います‥‥」

ユーナはその場にヘタり込んだ。


『遭難』という言葉が脳裏に浮かぶ。


何てこった‥‥これじゃぁ、何時になったら帰れるんだろう。というか、果たして自分は無事に地球へ生きて帰れるんだろうか?

途方に暮れるユーナの肩をポンと叩くと、タローは宇宙灯台の方に向きを変えた。


「仕方ねぇ、救助信号を出そう。‥‥灯台の方に来な。メッセージを送るぞ」


ユーナは無言のままヨロヨロと立ち上がり、少し遅れてタローの後について灯台側に入った。


「‥‥ああ‥‥そうだ、コズミック運輸の24号船だ。こちらで電源基板が焼損してな‥‥」


タローが無線でエウロパの採掘基地と交信している。


「うん‥‥うん‥‥よろしく頼む」

タローがヘッドホンを外す。


「どう‥‥ですか‥‥?」

心細そうに、ユーナが顔を出す。


「‥‥うん。やはりエウロパには『救援に出せる船』が居ないとよ。単純に軌道間距離の話なら火星のフォボス基地の方が近いんだが‥‥惑星の位置関係から言って、今は月基地の方がむしろ近いらしい。なので、月基地からの救援になるだろうとさ。ま‥‥暫くは月基地からの回答待ちだな」


ふっー‥‥とタローが溜息をついた。


何しろ、月まで『信号』を飛ばすには最低でも『30分強』という時間が掛かる。即答でも往復1時間は掛かるのだ。


やれやれ‥‥なんてツイてないんだ‥‥

ユーナは落ち込んだ。


いつも見てるテレビの『今日の運勢』も、そんなに悪くは無かったというのに。

ふと、灯台の窓から真っ暗な星空を見る。


地球は遥か遠く、ここからでは唯の『光る点』にしか見えなかった。


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