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生か死か

4.


 小宮山さんは眠り続けた。交換から四日めが過ぎ、五日めになっても。


 学園祭の『ハムレット』は、台詞を完全に覚えた僕が演出の指示も出し、彼女に代わって全体を統括するはめになった。普段の僕なら、そんな雑用をやる気にはならない。サイコパス適性値の低下による心境の変化。それ以外に思いあたる要因はない。


 そして交換して六日め、学園祭当日を控えた僕たちは予行演習を行った。ハムレットを襲った憂鬱と苦悩。父を殺した叔父への復讐劇。理由は分からないけど、たった数日の間にそれらの要素は僕の体に馴染んでいた。おかげで最後の殺害場面をやり遂げたとき、芝居だというのに途轍もない達成感を覚えた。


 後片付けを終え、続々と寮へ戻るクラスメイトたち。彼らと一緒に動きだしたとき、紅谷に声をかけられた。


「白哉、ちょっと付き合えよ」


 僕たちが暮らす実験施設は島の南側にあり、そのすぐ北には島でも三番めくらいに高い山がある。小宮山さんとの実験が順調に進んでいれば、この日僕たちは二人でその山に登り、対岸にある旧人類の領土、つまり北海道を眺めてエモい気分を存分に体験するはずだった。


 紅谷は僕に登山用の装備を渡し、その山へ僕を引き連れた。予行演習を終えたのが四時過ぎだったから、山の中腹に差しかかった時点で日没が近づく。


 はたして彼は何を目的に登山を思いついたのだろう。合理的な理由でもあるのだろうか。僕の中にある〈超人〉らしい思考は強い拒否反応を示したが、それ以外の部分が反論を封じた。


【19・381pt】


 僕は端末に映じられた数値を見る。それは今や20ptを割り、人間と僕たちを隔てるグレーゾーンに突入していた。この数値が10ptを割ると、僕はもう〈超人〉ではなくなる。


「小宮山も災難だったよな、不適応が起きちまって」


 急斜面を登りながら他人事のように言う紅谷だが、僕はそんなふうに達観はできない。理由は二つあった。


 小宮山さんと同じように、一度低下した適性値が上昇に転じ、不適応が起きる可能性があること。もう一つは適性値が10ptを割った場合、僕に何が起きるか不明であること。医師も紅谷もその説明を行っておらず、人間レベルにまで下がることを僕自身想定していなかった。


 だがもしかすると、彼らにとっては僕が旧人類、すなわち人間になることこそが実験の目的だった。そんな見立てを思いつく自分がいる。


 共感という感情がどんなものであるか、僕は知らずに育ったけど、数値が低下していくにつれ今まで体験したことのない感情が湧きあがる。そのもどかしさは言葉にするのが難しい。


 体力には自信があったから、紅谷と登山すること自体は特に問題ない。けれど心は疑心暗鬼にとらわれていく。不適応を起こした小宮山さんが眠っている今、彼とエモい体験をすることにどんな意味があるだろう。


「もうすぐで山頂だな」


 低木をくぐり、砂利を踏みしめ、僕たちは見晴らしのよい場所を黙々と歩んだ。やがて平たい石が積みあがっている場所に出た。


「どうだ、白哉。壮観だろ」


 僕は紅谷の言葉に引き寄せられるように彼の視線を追った。その先に対岸の街灯りが一群の星となって輝く光景が見えた。それはまるで小さな銀河だ。


 紅谷は腰に手をあて、しばらく視線を動かさない。僕も地上の星たちを眺め、声を失っていた。このとき僕たちの感情は共鳴していたような気がする。ひょっとするとそれが共感ではないか。


「先生は僕に共感を実感させるためにここへ連れてきたんですか?」


「それもあるな」


 勿体ぶるように言って彼はまたしても黙り込む。僕は心が急くのを押し殺し、続く言葉を待った。


「俺の気持ちを感じとれるか?」


「何となく」


「うわはは、それでいいんだ。おいちゃんにはお前の気持ちは分からない。だがお前には分かる。それが共感だ。恐らく感動が倍以上に膨らんだ気分だろう」


 後ろを振り返る紅谷と目が合った。僕は小さく頷き返した。


 共感。僕はついに実験の目的地に到達した。あまりに拍子抜けするような展開で、今ひとつ実感が湧かないけど。ひとつはっきりしているのは僕の罪はこれで減刑される。


「泣いてるのか?」


「はい、ちょっとだけ」


「歴史に名を刻むような殺人鬼がいいザマじゃねぇか」


 さすがに反応が露骨過ぎたのか、紅谷は僕の気持ちを察したかのように混ぜっ返した。


「実験は殆ど終了だ。あとは店じまいだな」


 涙を拭う僕を横目で見て、紅谷は唐突に話題を変えた。


「お前、実験のリスクは知ってるよな」


「はい。一応は」


「不適応が起きた結果、魂が消滅するかもしれない。医師からそんなふうに言われたと思うが、お前は小宮山に起きた不適応がどんなものだか分かるか?」


 急に込み入った話になった。予測がつかないため、僕は首を横に振る。


「交換ってのは本人とは違うベクトルに向かうようできている。小宮山は上昇。白哉は下降。不適応はその変化に体が耐えられなくなったときに起きる。小宮山の不適応はお前の体への順応に失敗した証なのさ」


 ひと息に話されるが、部分的に理解できなかった。


「小宮山さんが上昇?」


「そうさ。あいつはお前には嘘を教えた。小宮山の適性値は本当は人間並みだったんだよ。その特異体質ゆえに、交換の対象に選ばれ、もっともサイコパシーの高いお前と組ませた。おかげでお前は、小宮山の体に順応して適性値を下げられ、共感を得た。逆に小宮山は、お前の体にともない適性値を上昇させたが、すぐに元どおり下落した。まあどっちみち、お前の魂は後でコピーさせて貰う。刑も減じて無期懲役だ。おめでとさん」


 僕は待望の成果を手に入れたことをこの瞬間悟った。しかし胸に迫りあがってくる感情は、喜びとは無縁な、どこか殺伐とした色をまとっている。


「小宮山さんが人間?」


「そうさ。あいつはいわば、お前という〈超人〉に共感を呼び起こすための実験材料だったわけだ。望んだ結果が得られておいちゃん嬉しいぜ。上層部の突きあげがツラいの何の」


 紅谷の戯けた答えは僕が期待したものではなかった。


「待ってください。それじゃ不適応を起こした小宮山さんはどうなってしまうんですか?」


「安心しろ。魂が消滅すれば、体は戻ってくるさ」


「問題をすり替えないでください」


 僕の吐く息が白く曇った。


「不適応から救い出さないんですか。このままだと小宮山さんは……」


「適応し損ねた体は、魂がある限り元には戻せないのさ。お前が元の体に戻りたければ、小宮山には死んで貰うほかあるまい」


「なんでそのことを教えてくれなかったんですか」


「訊かないやつが悪い。おいちゃんたちはそういう種族だろ?」


「それなら交換したままでいい」


 僕は意固地になって激しい口調で吐き捨てた。


「本当にいいのかい? その体は問題含みなんだぜ。真実を知ればお前は絶対元に戻りたくなる」


 問題含みとは何だろう。僕は咄嗟に聞き直せなかった。


「小宮山の体はな、摘出不能な腫瘍に冒されているのさ。元々余命幾ばくも無い体だったわけ」


 紅谷の発言は文字どおり僕を震撼させた。


「可能性としては小宮山も、交換であわよくば健康な体を手に入れられた。だが今回の実験はどこをとっても白哉に都合の良い結果になったわけさ」


 つまりどういうことだろう。小宮山さんはべつな可能性、例えば僕に不適応が起こることに賭けていたということか。


 僕が問いかけると、紅谷は肩をすくめて笑った。


「まあそうなるわな。お互い〈超人〉なんだ。自分の利益のために交換し合ったという点では、お前も小宮山も同類だったってことさ。そう考えれば、あいつへの憐れみなんて湧いてこないだろ?」


 紅谷の発言はどこまでも正しく、それゆえに僕は強い嫌悪感に襲われた。


【17・674pt】

【13・890pt】

【11・583pt】


 嫌悪感が募るほどに、適性値が下がっていく。それも急な暴落だ。


 確かに、ある面ではまぎれもなく、小宮山さんは僕の破滅を願っていた。不適応を起こして不治の病に冒された自分の体を捨てられる。そんな僥倖に自分の全てを投じたのは間違いない。


 だとすれば、この後ろめたい感情は何だろう。僕はなぜ、自分がババを掴まされた相手を見逃して心を痛めているのか。


 胸のわだかまりに名前をつけられない。その切実な苛立ちが、共感の証なのだろうか。僕は小宮山さんが交換実験に賭けた願いを想像し、自分の苦しみのように胸を締めつけられていた。


【10・295pt】


 考えてもみて欲しい。サイコパス適性値が人間並みということは、通常僕たちが鈍感でいられる繊細さを丸ごと受けとめてきたことと同義だ。旧人類が嫌悪した僕たち〈超人〉の誇り高き傲慢さや、利益を得るためなら他人を蹴落としてもいいとする思考に生まれた頃からずっと付き合ってきた。その苦労は筆舌に尽くしがたいものがあったはずだ。


 かつて一度として感じたことのない胸の痛みに、僕は悪寒と歯軋りをくり返す。


「どうした、白哉。しかめっ面しやがって」


「べつに。平気ですよ」


 空元気を飛ばすが、もはや見え透いた嘘である。


「まあいいさ。小宮山を救うか、自分が生き残るか。答えはお前に決めさせてやんよ」


 生き延びたければ装置の出力を最大にしろ。そう言って紅谷は、彼女が収容されている病室の鍵を有無を言わさず手渡してきた。


  ***


 最後に僕は、紅谷の口から小宮山さんの犯した罪について聞いた。知らずにいたほうが心は楽だったはずだ。


 彼女の罪は自殺未遂。〈超人〉は精神的な強さを誇る代償に、弱さの象徴である物事を法律で禁じることにした。現実逃避を意味する自殺はその最たるもの。


 動機は何だろう。紅谷の口からは聞けなかったけど、十中八九病気のことが絡んでいると見て間違いはない。腫瘍はやがて体を引き裂くような痛みをもたらし、地獄の苦しみをあじわわせるだろう。それから逃げることを罪として裁く。そんな制度は狂っている。以前の僕なら平然と受け入れたであろうことが度し難く感じられ、怒りは荒い息となった。


 それでも空調管理された室内は適温が保たれており、僕の息が曇ることはなかった。


 夜間照明の灯りにほんのりと白い肌が浮かびあがる。小宮山さんは眠っている。視線を落とせば、得体の知れないコードやチューブが何本も取りつき、彼女の体を拘束していた。


 それらの末端をたどると、最終的に一台の装置と繋がっている。いくつもの数字が電子色で映じられ、そのなかにはサイコパス適性値も含まれていた。


【9・894pt】


 目にした数値を僕は正確に読みとることができる。僕の体と一体化することで上昇した数値は、途中で不適応を起こし、元の値へと戻っていったのだ。つまり人間並みである10pt以下の数値へと。


 ハムレットは言った。

『生か、死か、それが問題だ』

 彼が感じたであろう苦悩が、この瞬間僕のものとなっている。〈超人〉として群を抜く精神力を有していたかつての僕なら、答えは簡単に出る。小宮山さんを殺害し、自分が生き延びるべきだ。


 そんなシンプルな結論が僕を激しく苛む。たくさんの罪も無い人から命を奪ってきた。同じことが、どうしてできないのか。装置を制御するスイッチを眺め、深い溜め息を吐いた。


【8・543pt】


 自分の適性値を端末で見る。僕の魂はもはや小宮山さんの体の影響で本来のあり方を失っている。人間とは共感の動物。そんな教科書で目にした情報が僕を束縛する現実だ。


 無慈悲に命を断たれ、彼女が何を感じるか。眠っている間に装置を切れば、ひょっとすると苦痛を感じる間もなく息絶えるかもしれない。だが僕は、そこにありもしない心の働きを読み込む。


 どんな生物でも生きたいと願っている。自殺を試みた小宮山さんも、だれよりも強く生きたいと願ったからこそ、避けられぬ運命を重く受けとめたはずだ。


 僕はスイッチに向けていた手を止めて、小宮山さんの頬に置いた。そして控え目に何度か叩く。


「小宮山さん、起きて」


 その程度で彼女は目覚めない。今度は頬をつねってみた。


「………」


 音もなくゆっくりと、瞼が開かれた。まだ微睡みのなかにいたのか、視線は宙をさまよっている。


「小宮山さん」


 少し強い調子で呼びかける。覚醒の途中にあった彼女が徐々に意識を取り戻す。


「君は……白哉くん?」


「そうだよ」


 僕は心の踏ん切りがつかないまま、小宮山さんを起こしてしまった。彼女を殺すという選択肢は依然残っている。けれどそうする意志が恐ろしく希薄だ。


「君は不適応を起こしてたんだよ」


 簡単に状況説明をしてやると、小宮山さんは瞼を閉じ、神妙な様子で息を吐いた。交換によるリスクを理解していれば、自分の置かれた状況を余すところなく理解したはずだ。


「生か、死か。君はその分岐点に立ってる」


 紅谷に与えられた選択を、僕はあえて口にする。なぜそうしたのかは、おぼろげに自覚している。一人では決められないのだ。生き残りたいというエゴだけで彼女を殺せなかった。


「小宮山さん、君はどうして交換をしようと思ったの?」


 疑問を口にしながら視線を交差させる。彼女はそれを避けずに、僕をまっすぐ見返した。


「私がどういう状況に置かれて居るか理解してるのね。いいわ、教えてあげる」


 小宮山さんは静かに息を吸い、天井に目を向けた。


「私が交換に臨んだ理由は二つあるわ。自分の病んだ体をだれかに押しつけ、健康な体を手に入れること。もう一つは避けられない死を前にして最後の思い出をつくること。どちらかといえば、後者の願望が強かったわ。そんなふうに言っても君は信じないと思うけど」


 僕たち〈超人〉は息をするように嘘をつく。だがこのとき、僕は彼女の言ったことを信じた。もし自分が小宮山さんなら、人生の瀬戸際で真実をごまかすとは思えなかったのだ。客観的な根拠はない。僕の心がそう感じた以外には。


「確かに。予定表どおりに行動すれば、僕たちはまるでカップルが過ごすような一週間をともにするはずだったからね。相手が僕でよかったかは議論の余地があるけど」


「君でよかったわ。屋上で食べたお弁当は美味しかったし、バーベキューではひどい目に遭ったけどそれでも楽しかった。一緒に山登りできなかったのは心残りね」


【7・528pt】


 僕の適性値はこの期に及んでも下がっていく。そのせいか、僕は彼女の申し開きを迫真の演技とは受け取らない。本当の気持ちであり、動機であろうと判じていく。


 人生の片道切符が終点に近づこうとするとき、人は最期の瞬間を懸命に輝かせようとするのだとはっきり悟った。そんな僕に彼女を裁くことができるだろうか。


「君を騙してることに罪悪感があったわ。ごめんなさい。私を許せないと思うなら、この体を取り戻して。もうその覚悟はできてるから」


 答えを出しあぐねた僕にとって、その発言はある種の誘惑をともなった。けれど続けて発せられた彼女の言葉は、僕の心の奥へと沁み込んでいく。


「私は君の体と交換したのよ。君がどれほど冷酷で無慈悲な人なのか、だれよりも理解してるわ。私はもう自分で自分を傷つけたくないの」


 そのひと言を聞いて、ハッとなった。彼女は僕が人間並みになったことを知らないのだ。


 交換前の自分なら、最後まで生に執着する悪あがきにこそ苦悩を感じたと思う。しかし一度自殺を試みた彼女が、同じことをくり返せないと言った。その絶望的な弱さは僕の感情に火をつける。


 〈超人〉は遺伝子操作によって弱さと無縁な存在となった。裏を返せば、弱さこそ人間性の象徴ではないか。そうした弱さを可哀想に思うこともまた、人間性の証拠ではないか。


「僕には君を殺せない。むしろ助けたいと思ってる」


 小宮山さんの体を通じて溢れ出る感情は、目先の利益とは異なる反応を示した。


【7・524pt】


 ついで、現時点の適性値を教える。僕の出した答えの意味は、それで伝わるはずだ。


「君はいま、私なの?」


 小宮山さんは瞳を見開き、震える声を出した。


「そうだと思う。僕は人間並みだ」


「だとしても君の判断は間違ってるわ。私は交換実験について、君より遥かに専門知識を有してるのよ。このまま私の不適応が進めば、魂が癒着して体から切り離せなくなる。でも私の魂が消えれば、誰も傷つかずに済む」


「小宮山さんが傷つくじゃないか。そんな結末、僕は嫌だ」


 たとえ僕たち〈超人〉でも、自分の死には絶望を感じる。けれど人間は、死ねないことにさえ絶望する生き物。少なくともそれが、僕の受け取った彼女の思いだ。


「私に起きた以上、君にも不適応が起きるかもしれない。私の体に取り込まれて、君自身はいなくなってしまうわ。交換はリスクの塊なのよ」


 小宮山さんが理屈っぽいことを言うが、僕の耳には届かない。


「君を救うと決めたんだ。同情したわけじゃない。僕が願ったんだ」


「そこまで言われて断ったらまるで自殺じゃない」


 逃げ道を塞ぐなんてズルいわとこぼし、小宮山さんは大粒の涙を落とす。


「私は弱いから、優しい言葉に甘えてしまうわよ」


「そんなふうに自己嫌悪しないで」


 絶望に浸っている彼女を見殺しにはできない。その単純な思いだけが僕を突き動かす。


「紅谷に言って、交換の解除を棚上げして貰おう。さすがに納得してくれると思う」


「違うわ。希望を掴むなら、他の手段があるの」


 ベッドに手を突き、小宮山さんは精一杯の力を振り絞って体を起こした。


「他の手段って何?」


「私はこの実験で君の体を奪って、自分の運命に一矢報いてやるつもりだった。だからもし不適応が起きなければ、この島から抜け出す予定だったの」


「予定?」


「そう。今日は……学園祭の前日でしょ」


 小宮山さんは端末をいじるしぐさをして、日付の確認をしたようだ。


「島に来賓が到着する時間帯を見計らって、車両を奪う。通行証があれば、検問を通過できるわ」


「待ってよ。君は何を言ってるんだ?」


 僕たちは島に閉じ込められている。当たり前の認識を述べると彼女は首を振った。

「だとしたら、来賓はどこからくるの? 生活に必要な物資は? この島は北海道と海底トンネルで繋がってるの」


 すでに下調べが済んでいるとばかりに、鋭い目つきで言い切られる。


 海底トンネル。その発想はなかった。生活物資の供給も、真夜中に船が往来する程度かと思っていた。


「学級委員になったのも、先生たちが隠してる秘密に近づくため」


 彼女は周到さを語るが、疑問はなくもない。


「予め用意があったのは分かったけど、小宮山さんの計画がうまくいく見通しはあるのかな? 君の魂は不適応を起こしているんだよ?」


「でもこうして目覚められた。君が共犯者になってくれたらチャンスは十分にあるわ」


 そう言って彼女は体をふらつかせる。確かに体力という点では、今の小宮山さんに修羅場をくぐり抜けることは難しそうだ。けれど僕の助力があれば、その限りではない。


「当初のプランを教えるわ。成功すると思うなら手を貸して」


 緊張で張りつめた僕の体を引き寄せ、彼女は低い声で耳打ちした。胸のなかで高なる心臓の音は、次第にゆっくり小さくなっていった。


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