第95話「Teen Age Riot」
「自由」とは何か?
「自由になっておく事」とは何か?
「自由」とは、
他のものからの拘束や支配を受けないで、
自分自身の本性に従う事と定義される。
あたしは、ある程度の「自由」を持ち、
または与えられている。
ですが、他者がいる限り、
その「自由」には、「制限」と「責任」が付いてくる。
本当に「自由」なってしまえば、
「あたしは神だ」
それすら「自由」。
だから、今はお父さんの言葉の意味も、
解けてゆく。
完璧な「自由」とは完璧な「孤独」にもあたるのですね。
ですから思ってしまいます。
そんな「自由」は要らない、です。
それならば全知全能とは、
存在をどう維持していらっしゃるのでしょうか?
あたしは、
勘違いだとしても、
全知全能という言の葉を、
世界から消してしまいたい程の悲哀を感じてしまいました。
視線を落とした先の「きるく」を見ると、
時刻は正午を回っていて…………、
………………
…………
……
「どうしたみんな? ちょっと辛気臭いわよ?
これ食って元気出せ。美味しいわよぉ♡」
そう言う一途尾氏がランチを運んで来てくれました。
ご飯と聞くと元気が出るのも、
人間の本性ですよね。
しかし……、
あら?
ランチのおかずを見て、
あたしは少し面食らいました。
なぜなら……、
………………
…………
……
「このメバルの煮付けメチャクチャ美味ぇ!」
そんな三尾氏の活気づけに、
あたしも笑顔をこぼしながら賛同する。
菜楽荘では食べた事のないお魚です……。
「メバル」ですか、
よし! 憶えました。
「「春告げ魚」ですか……雅ですね……」
清夜花さんのお言葉にも、
ほんのわずかに驚きが含まれています。
「今は旬とはいえ、
仕入れルートすら知りたくなる味だな。
わいさもここで働かせてもらおうかな……。
永遠払いじゃなきゃ、
こんな美味いお店で絶対食えないだろうし……。
音楽環境としてもすげぇ良いし、
本気で悩むな……」
えっ!? そんなにお高いのですか……?
それに三尾氏は永遠払いをご存知なのですね……。
どうしよう……ここは恥を掻いておくべきところかしら……?
知らなきゃいけない事もあるし……、
………………
…………
……うん、笑われてもいいじゃない!
「……あの三尾氏? ……皆様にもですけれど、
永遠払いの意味をご存知なのでしょうか?
それに、失礼ながら、
今日のこの場への経費って、
そ……、その、おいくらくらい……」
「早水さん? 早水さんは五ヶ月払いと聞いたらどう思う?」
意外なところから流天氏です。
「……そ、それは、あたしは五ヶ月でお金を完済しようとします」
「うむ。そうだな、それだけだ」
流天氏の確固としたお答え。
え? では、永遠払いとは、
永遠をかけて支払いなさいという事……?
……ですがそれでは、
「期間が永遠なら、
例えば一万円お借りしたら、
一年に一円、一万年間支払うのもよい、
という事になってしまいませんか?」
「予定通りの「運命」。
しかし、支払い不履行は、決してできませんよ?
永遠払いというものは、
神様が取り立て役なのですから、
貴女の一挙手一投足を極めてつぶさに試されているのです」
「だが思い悩む事はない。
覚悟だけが必要なのだ。
われらはどの様な事に対峙しようとも、
必ず生きる意志を失わず、永遠に進む、とな」
流天氏ではなく七ト聖氏と神守森氏から、
お言葉が届きました。
「わいさは素人だけれど、
この場所の貸し切りと料理とケーキ。
適当に見積もっても、
二十万前後は掛かっててもおかしくはないな……」
二十万っ!?
あたしのたった一日に、
お父さんとお母さんは、
それだけの金額を支払わなくてはいけないというの!?
あたしの自由に……。
懊悩を始めるあたしの心を、
祷が察してくれる。
「捧華? わちも普通学園への入学を決意するまで、
永遠払いに身を委ねる覚悟が要った。
じゃが、わちは思った。
わち自身も永遠払いで仕事をして行く事。
わちが万が一子供を授かった時は、
わちがその子の人生を支える為に、
永遠払いに身を委ねる事を」
祷に一拍があり、
「こひなた先生やお母上が、
そんな事に、あくせく働いておるか?
捧華の心にお二方は、どう映っているち?」
あたしから体へ、
そのずっと先、
心まで辿り着くと、
お父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも、
なんでもない事の様に、
笑ってくれていました。
………………
…………
……
「一人称は申します。
程良い食事を終え、
これよりは、
八百万倶楽部活動のそれぞれの責任者の方々に、
その活動の名称を、
旗揚げして頂きます、と」
杏莉子は場に臨む全ての方々に、
朗々と告げました。
「一人称は計画Aを、
宣言させて頂きました。
各々方に準備された活動名が御座居ましたら、
この場にて宣言をお願い致します」
あたしはいつも出遅れてしまう為、
今日はそこに気を付けて、
早めに発言しようと思います。
「失礼致します。
あたし、早水 捧華が責任者の、
音楽活動の名称を宣言させて下さい」
「捧華、どうぞ」と、
杏莉子があたしの続く言葉を、
滑らかにしてくれる。
「うん。あたしの……、
あたし達の活動名は、
『凡』。
「平凡」「非凡」の『凡』です。
意味は「凡て」、
「あらゆる」「みんな」「ことごとく」。
音楽を一所懸命にやって行きましょう。
そんな想いで命名しました」
皆さんのご静聴を肯定的に受け止められて、
あたしの胸は高揚を覚えます。
「凡かぁ、考えたな早水。
普通学園らしい活動名だな。
それに……、
オオトリ回避できて良かったな?」
そんな風に、
あたしを見透かす様につつきながら、
三尾氏は笑ってくれました。
その流れがバトンとなり、
「わいさの考えたチーム名は、
『Blunauts』です。
わいさにとっては、振るのも揺れるのも、
Blue noteからって意味です。
よろしくお願いします!」
「ブルー・ノート・スケール」や、
有名なジャズ・クラブが基本のお名前なのでしょう。
こちらの素敵なチーム名もみなさんに容認された雰囲気です。
三尾氏のお陰か、恵喜烏帽子氏が流れにまかされ、
「俺が責任を持つチームの名は、
イタリア語の『Legare』です。
「打ち解け」「繋いで」「結果」を出そう。
そういう想いで名付けました。どうぞよろしく」
誠悟氏の「友だちづくり」や、
祷の「アルバム作り」、
天休氏と神咲氏の「ケーキバイキング」には、
名称は必要無さそうに思えますし、
後残されたのは、
清夜花さんの「野鳥観察」と、
流天氏の「コンピュータゲーム」だけに思われました、
が、
「それがしは「コンピュータゲーム」の魅力について、
皆から教わる立場だからな、活動名は考えておりません。
先に申し上げた通り、休息日のレクリエーション程度で構いませぬ」
告げ終えた流天氏は、お隣の席、
清夜花さんへと後をお任せするていに。
「失礼します。
「野鳥観察」の活動名は、
あたくしの夢や想いから、
『青の欠片』とさせて頂きます」
清夜花さんの夢と想い?
興味があっても、
今のあたしは、
なんとなく清夜花さんから
意図的に避けられているぐらいは
分かっているつもりです。
それを解消しようと、
無理に急いだって仕方がないです。
そう自分に言い聞かせていたちょうど頃合に、
Merci bienから、
ケーキのお届けが御座居ました。
その時の天休氏の喜びの歓声と笑顔は、
筆舌に尽くし難い程でした。
まるで無垢な幼子を連想させる程に……。
ですからこそ、
天休氏……?
貴女はどれほどの、想い、生き方を、
背負っていらっしゃるのでしょうか……、
そうあたしの胸は、
何故かきつく締め付けられました。
その想いの流れを、
押し流してくれるかの様な声音で、
「よっしゃ! ケーキで景気良く旗揚げしようぜ!
しょぼくれんのも、浮かれんのも程ほどによ?
俺達みてぇのが、ようやく人様らしい事できんだからよ」
恵喜烏帽子氏の飛ばす檄に、
あたしは、頷きながら思います。
ちょっとサムくてあったかい。
まだまだこれから、
それでも、
ここまで辿り着いた自分自身を褒めて愛さなきゃ!
自分を大切にしない人に、
他者への心からの感謝ができるでしょうか?
………………
…………
……
さぁ、
ここから始まるんです。
あたし達のお祭りが。
こどもたちはわかるでしょうか
おとなたちはわかっています
じゅうだいのしょうどうを
Song Sonic Youth
Lyrics/Music Kim Gordon Thurston Moore Lee Ranaldo Steve Shelley




