第7話「七夕の人」
捧華の誕生から、およそ四ヶ月程が経ちました。
彼女は現在……、
………………
…………
……
「おとぅさん。あてぃしおさんぽにいきたいので」
すでに身長百三十センチに届こうとし、
少し舌足らずではありますが、
言葉もそれなりに操れる様になるまででした。
竹取物語が戯言ではすまなくなってしまいました……。
捧華生まれし三月三日午前四時頃、
魂の双子は、言の葉を重ねて、
「お父さんお母さん、これから捧華はどんどんと成長していき、大体、ひとつの目安として、日本国現民法の結婚適齢まで育まれて、ようやくお父さんお母さんと同じ時間軸を過ごせる様、因果律に固定できます。この件はボク達の事象との深い因果関係の為です。だからして、ボクとワタシは、『家族』であるのですわ」
そう知らせてくれました。
僕は、焦り訊ねる、
「戸籍登録様々に、捧華の居場所作りはどうなる?」
どうか教えてくれ。
倖子君の頷きも覚える。
すると、
あたたかな、
誠の優しさに満ちた掌の上に、
在る感覚。
てへっ♪ ふふっ♪
「お父さんお母さん達への、捧華の、いわば義務教育期間が終わるまでの、望みを叶えうる様々な記憶は、ボクとワタシにもなす術が無く、与えて差し上げる事が、残念ながらできません。ですが、各種の捧華の居場所確保は、現時点でほぼ万全に行われております。この『ほぼ』の、大部分は、未来のお父さんお母さんの、狼狽えのゆらぎに因るものです。お父さん? お母さん? どうか捧華に関して困った時は、ボク達を信じて、全て『イエス』で通して下さい」
場の空気が僕の知る自然に戻って、
魂の双子は消失。
僕は、君をみて言外。
伝わり、
だからふたり、……もう、
笑うしかないよね?
この笑顔から四ヶ月。
一、二ヶ月目は育児戦争。
三ヶ月目でやっと小康状態に持ち込み、
そして……、
………………
…………
……
現在、彼女の声音が、鼓膜を震わせたのです。
子供を持つせかい中の親御様。
本日も、お疲れ様で御座居ます。
「うん。良いよ捧華。お散歩行こうか」
「あいっ!」
彼女は力強く頷く。
十五分程捧華の足取りに合わせゆっくりと歩き、
菜楽荘の敷地を出ると、目につくものがちらほら。
葉竹に短冊です。
「……そうか、今日は七夕か」
季節を愛でる余裕の無い自分を恥じました。
捧華が僕の言葉に反応し、
「た……たにゃばた? おとぅさん、たにゃばたってなぁに?」
僕は、どう端的に話そうか思惟、
「……七夕はね? 日本という僕と捧華が居る国の、季節の節目となっている日のひとつ、なんだよ?」
「いみがわかりましぇん?」
はっきり愛娘、
真っ直ぐも善し遠回りも善し。
……そうかぁじゃあこうだ、
「大切な人同士が、お互いの大切さを確かめ合う日の事だよ」
ひたいしわよる娘。
ふふ、カメラ欲しいな。
「たいしぇつ、たいしぇつ。ささぇはかじょくがたいしぇつなので」
おっと、いえいえ父親で御座居ます。
「すごいなぁ捧華。そうだよ? 捧華は家族が大切。僕も家族が大切。相思相愛ですね?」
「うんっ♪」
なにかつかめたのか嬉しそうだ。
そう、捧華は僕を照らす陽の光だ。
それから、
もしやと思い、
この地点からわりと近くに在る。
百円ショップ『グリーン』さんに、
捧華を連れて寄ってみる事にしました。
それは……、
「あった♪」
捧華はハテナと佇む。
「じゃあ捧華? 手をつないで、ゆっくり帰ろう」
自分に穏やかさを染ませる様に、
捧華へと声を掛けました。
帰宅し、君とただいまおかえり。
僕達は、お星様と、ささやかな短冊に、
願いを込めたので、
御座居ました。
"ずっとふたりであるきつづけられますように" しんやとゆきこ
"はやくみんなの庭園へ行きたい" コンとポップ
"みんなにありがとう" ささげ
歌・作詞・作曲 七尾旅人