第83話「ホントのじぶん」
2016年四月十二日火曜日友引。
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「皆様、お早う御座居ます」
早水 捧華で御座居ます。
大切な事は、御天道様をしっかり浴びて、
適度に身体を動かし、
「いただきます」と「ごちそうさまでした」
そして、お家に、
「いってきます」
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eの皆様へ、
「お早う御座居ます」を終えまして、
あたしたちは、
以前、
親睦会で使わせていただいたお部屋へと、移動いたしました。
八百万倶楽部の始まりで御座居ます。
お部屋には、eとEの皆様全てが集まっていらっしゃいます。
雁野先生も川瀬先生も、当然いらっしゃいます。
進行役には、やはり七ト聖氏の抜擢、
流石で御座居ます。
七ト聖氏、朗々と、
「何事も始めが肝心です。それでは、八百万倶楽部、略して! みんなのやりたい事ひとつひとつやっていこうクラブ、はじめの一歩です!!」
…………恵喜烏帽子氏さえツッコまず、
本当に出鼻をくじかれた想いだけが残りました…………。
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……
いつも明るい三尾氏、
「恵喜烏帽子よ? おまえ達も一学期修了してたんだな。よかったよ♪ これで野球がやれる」
三尾氏、大好きなんでしょうね野球が。
それってとっても格好いい事ですよね♪
「学園に来て以来、普通の会話が成立してるの三尾だけだな……。俺も嬉しいぜ。サッカーできるからな」
「なんのなんの。みなさん普通だぜ? わいさも、もちろん恵喜烏帽子もな?」
「三尾? おまえ、なんか変わったな?」
あたしは、多少耳をそばだてていましたので、
七ト聖氏の御声が、なおさら耳に通りました。
「お二人共? 今日は決めていく方針が多い為、ひとまず私語は慎んでください」
………………
…………
……
七ト聖氏は、黒板ではなく、
大きな白い板に、黒いペンをお使いになり、
皆様のやりたい事の一覧を、
書き出して下さいました。
「友だちづくり」「野球」「音楽」
「サッカー」「ケーキバイキング」
「読書会」「写真での思い出作り」
「野鳥観察」「コンピュータゲーム」
全て御記憶していらっしゃったんだわ。
七ト聖氏は、そっと白い板に手をあてられ、
「優先順位を、決めてまいりましょう。ご発言のある方どうぞ?」
先ず誠悟氏が御発言を、
「七ト聖さん、
八百万倶楽部の活動事項を憶えて下さっていた事、感謝いたします。吾の友だちづくりは八百万倶楽部へと参加させて頂く事で大丈夫で御座居ます」
誠悟氏は御発言を終えると、ゆっくり一途尾氏と視線を交わして、
おふたりは、
ニッカリこん☆
誠悟氏の御発言の終着を見計らいになり三尾氏、
「すみません、みなさん……。わいさは……野球……やりたい、……です」
声を絞り出していらっしゃる感じ。
少しの逼迫感すら御座居ます。
何故……そこまで?
「仕方がねぇよな? 野球は夏なんだからよ? 俺も頭下げるよ。サッカー気持ちよくやりてぇからな。 ……みなさん、どうか、俺からも、頼みます」
「恵喜……烏帽子…………。……ありがとぅ……」
三尾氏の声音はわずかに震えていて、
あたしは胸に込み上げるものを感じていました。
「サッカーやりてぇからだよ。気にすんな」
会話の流れを即座に切り裂く様に杏莉子、
「一人称は申します。読書会はすぐさまに行われるべき事項です、と」
きっと、空気を変えてくれたんだよね。
と、そこに意外な御方が続きます。
「それがしも歌坂さんに賛同いたします。森に入るにせよ入らぬにせよ。実りの多い事は間違いないでしょう」
流天氏の御発言で、お部屋に、緊張した静けさが……、
しかし、
「かか♪」「そーだな」
と、
川瀬先生と雁野先生が、
抑揚をつけて下さると、
場は柔らかくなっていきました。
先生方は仰っているんだ。
あたしたちに、「進め」と。
さらにそれを引き継ぐような声音で祷、
「わちは親睦会で述べた通り、みんなの写真が撮りたいだけじゃち。今のところは、いわゆるアルバム委員みたいな事がしたいと想ってるだけだち。よろしく♪」
うん♪ 頼むね祷。
「野鳥観察については、皆様に、主にマナーを深めて頂いてから、適度なハイキングを行い、積雪のない冬に、本格的に行えたらと思っております」
清夜花さんの御発言。
お言葉の起結が無駄なく流れている感じがいたします。
「それがしのコンピュータゲームは、これだけの活動があがるとまとめる事が難しいのは容易に想像がつく。皆様の休養にあたる時間でのんびりそれがしに教えて頂けたら有難いです」
流天氏はいつも清夜花さんに付き添っていらっしゃる。
……も……ももしかして……、
……つ、つつっつきあっていらっしゃるのかしら……?
控えめな挙手から神咲氏、
御丁寧に起立までされて、
「失礼いたします。命と此方人等の為にケーキバイキングを、どうかよろしくお願いいたします」
え……? いえ……神咲氏?
あたしは思わず、
「神咲氏? あたしはっ……」
「サッカーの為だぞ」「野球の為だぞ」
「そういう事だち♪ わちらはな? ちち♪」
「あ……、あ、有難う……御座居ます」
流天氏がいたわる様な声音で、
「善いな学園は、座ろう? 神咲?」
神咲氏が御着席すると、
川瀬先生は愉しげに笑われて、
「かか♪ 善哉。悪いがeの生徒達も森で存在を懸けてたたかっておる。天休と神咲を、どうか労ってやってほしい。天休の食べたいケーキをゆぅておくと、みんなで食べるホールのショートケーキと、もうひとつは、わしも食べた事はないが、『ジュテーム モワ ノン プリュ』と呼ばれるものじゃ。深い男女の難解な機微。果たしておまえ達にわかるかのぅ? かかか♪ よろしく頼む」
……ジュテーム モワ ノン プリュ?
それって……お父さんが言ってた……、
「捧華? こちらの歌曲は、僕にはずっと忘れる事のない一曲なんですよ」って。
あたし、絶対に食べなきゃ!
そんな決意の最中に、
天休氏、御起立。
「皆様、有難う御座居ます」
それから、川瀬先生へと特にお辞儀をされて、
神咲氏に微笑むと、神咲氏もお倖せそうに微笑まれました。
好いなぁああいうの……。
「おい? 早水? また早水がオオトリになってるぞ?
早水はどんな音楽がやりたいんだ?」
あ……、あたしって、鈍臭いのかしら?
三尾氏に感謝いたします。
それでは、失礼いたしまして、
「あたしは音楽が大好きです。有名な洋楽や邦楽は、ほんの少し拝聴しておりますので、そうですね……、世界各国の色々な音楽に触れさせて頂けて、それが奏でられたら、とっても倖いです。どうか皆様、よろしくお願いいたします」
お伝えしてから、ふと、きるくを見ると、
もうすぐ放課と、
思いきや、
「麻は逢真さまが居て下されば他にはなにもいりません」キリッ
…………、不思議で御座居ます…………、
…………お部屋に何処からか、厳寒な風が吹いています。
三尾氏が、「悪ぃな早水。すげぇオオトリ様がいらっしゃったな?」
あたしは、「えぇ三尾氏。ここまで清々しいと全く悔しくありません」
まだ一時間目終了のチャイムが鳴る前だと言うのに、
もうすでにお部屋には、いつの間にか三人……、いえ、四人……、
後方の座席から、
神守森氏が七ト聖氏を、見つめていらっしゃいます。
「頑張ろー! おーっ!!」
そんな、
がらんどうな凱歌と
見守りというかすかな拍手が、
あたしの心身へと、
虚ろに鳴り響いたので御座居ました。
………………
…………
……
お次は、
二時間目に、
お会いいたしましょう。
おちこんでいるんだ
しかしほこりはうしないたくない
それがいまのわたしです
歌 Buono! 作詞 岩里祐穂 作曲 木之下慶行