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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第82話「テルーの唄」

 2016年四月十一日月曜日先勝、早朝。


………………

…………

……


 あたしが、ジョギングへの準備をして、

お家を出る時に、

祷から声を掛けられました。


「わちも行くち。全然足りない事は解ったからな」


「……授業の事? 祷、二位だったんだよ?」


祷は捉えどころのない笑みを、少し浮かべて、


「捧華、ほら、おいていくち?」

「そういう訳にはいかないよ?」


「ちち♪」


………………

…………

……


 お家に帰り、登校までの支度を進めながら、

ぼんやり……、マニと早く会いたいなぁ……。


 それから、服装に悩みます。

まさかかくれんぼするとは、

思っていませんでしたから……、そうだなぁ……。


 あたしには、まだ難しいですが、

アスレジャーな感じを目指してみましょう。

「余暇」ではなく「学び舎」ですけれど、

……そうです、

自由に時間を活かすので御座居ます。

そんな理由を後のせさくさく、サクサク感☆


給食を届けていただいて、

祷、杏莉子、七ト聖氏、あたしで、


「いただきます」と「ごちそうさまでした」


 そして、


学園へと向かうので御座居ます。


………………

…………

……


 朝の御挨拶を終えて、雁野先生です。


「これ、オイラちゃんが夜なべして作ってみたんだ。邪魔にはならねーと思うから持っといて」


それは、ひとりひとりに配られました。


 あたしはこの様な物を見たことがなくて、

雁野先生に、お尋ねしてしまいました。


「……これは……、時計で……しょうか雁野先生?」


「そう。オイラちゃん特製の、わりと万能、腕輪時計バングルウォッチ『きるく』です」

「『わりと』は要らねぇっ!」


 先生と恵喜烏帽子氏は今日も仲良しで御座居ます。


「いやいや恵喜烏帽子? オイラも本当の万能知らねーから、訴えられた時に困るだろ?」

「あんたは何とたたかっているんだ?」

「まーなるべく想定はしとかねーとな?」


「雁野先生、お話を進めて下さいち?」


「有難う常世。大切なのは、

とりあえずふたつ…………、」


………………

…………

……


 雁野先生の御説明の後、


一時間目が終了し、


放課、


それから、


二時間目に、




あたし達は、「きるく」を起動させました。




………………

…………

……




「ひとつめは、複数同時通話アプリ、『luv(ラヴ-lab(ラブ-Phoneフォン』だ。ひとりが『通常』を稼働させると全員に繋がる様にしてあります。では始める。……テステス、……聴こえてるか?」




 『luv-lab-Phone』が稼働すると、

皆様の……、

当然あたしにも、

その頭上に、丸い光の輪がふよふよと浮き上がりました。

なんだか皆様、天使様みたいで御座居ます。


 また、聴こえる音声は、


明らかに『luv-lab-Phone』の方が肉声より音が拾えています。

雁野先生の、微細な呼吸の音すらフルドライヴ無しで、

感じられる程で御座居ました。


「大丈夫そーだな。では次に行く。luv-lab-Phoneを稼働後の、きるくからヴィジュアライズされている、三角形の内、『通常』『停止』『専用』、……そーだな……早水と常世。専用を押してみてください」


 祷と視線を交わしたのち、「専用」を押します。

そうすると、

eクラスの皆様の御名前が出て参りました。

今更ですが、こちらの様々な映像には、

質量を持たせてあるのかしら?

触れると確かに絶妙な固さが有るので御座居ます。



 しかし……今は……、



「一覧が出たら、お互いの名前を押してください」


押してから、祷に声を通してみましたが、


「……?……聴こえないち……雁野先生?」


「うん。専用回線だからな。セキュリティの為に、語尾に『フォン』をつけないと、通らねーようにしてあるんです。やってみてくれるかな?」


その御言葉から、

ほんの少しして気付きます。

専用の一覧の「常世 祷」を押した後、

祷とあたしの天使様の輪が、

薄紅色へと変化していました。

おそらくは、

専用回線が接続されていますよ。

そういう合図サインなのでしょう。



 は……、早水 捧華、やってみます!



善し。



「……祷、おはようフォン?」

「あ? 聴こえたちフォン」

「よかったフォン♪」

「すごいちフォン♪」

「やったねニコぱフォン☆」

「やったちペロっぱフォン★」


 そして、


映像から「停止」を押しての仕舞いで御座居ます。


「善し。ふたつめに行くよ」


………………

…………

……


「では、次は恵喜烏帽子。きるくの『障壁』を押してみてください」


 操作をする恵喜烏帽子氏、

……心なしか……不機嫌そうに見えます。


「…………、……? ……なんにも起きねぇぞ?」


その間に、雁野先生は恵喜烏帽子氏の目の前へと、


「立ってくれるか? 恵喜烏帽子?」

「……?…………うす」

一瞬!

雁野先生の手が、恵喜烏帽子氏の頭にきまっていました。


全く、軌道が……見えません……でした。手刀……打ち。


「手加減はしてるが、どーだい? 恵喜烏帽子? 痛いか?」


「い……、痛くねぇ。なんだよ……これ?」


「うん。正常に動作しているな。障壁が身の回りを薄く覆っているんだ。物理ならかなり役立ってくれるはずさ。怪我すんなよ?」


「それもあるがそうじゃねぇっ!」


わなわなと震える恵喜烏帽子氏は続けて、


「こんな障壁もの、明らかに現代の科学水準超えてるだろぅがっ! あんた!? 本当に何者なんだよっ!?」


 雁野先生は、落ち着いた声音で、


「おまえ達の能力ちからだって、科学的に解明されたら、えらい時代が来るぞ? 恵喜烏帽子? 咆えるべき時を見誤るな。とりあえず、どうしようもなく、受け入れなければならない現実も、時にはある。おまえ達になら、わかってもらえるだろう?」



 ……なら、質問を変える、と恵喜烏帽子氏、



「何故、こんなものが必要になるんでしょうか?」


冷えた声音で御座居ます。


「おまえ達は時期が来たら、おそらくは森に入る事になるからだ。オイラの生徒に、しょーもねー怪我一つ負わせたくねーからだよ」


「その森の事。Eの奴らも口にしてましたよね? 可能な範囲で、説明頼んます。先生ちゃん」


 有難う恵喜烏帽子、と雁野先生。


場が穏やかになってゆくのを感じます。


「この町には【夢降る森】と呼ばれる、広大を超える程の土地がある。ここには古今東西が伝えし存在が顕れる。神々しいものも凶々しいものもな。村や町や街が人間に与えられた動物園だと誤解を恐れず例えるなら、夢降る森はそういった御方様の動物園だ。おまえ達は、遊んで学んで、納得した上で、門番をしてもらう事になるだろう。オイラは森に入って、連携と防御だけは急務と判断したので、きるくを作ったんです」


 クラスメイトの皆様は、静粛に傾聴。

あたしは不安を口にいたしました。


「……先生。夢降る森は、どのぐらい危険なところなのでしょう?」


「早水。とても重要な質問だな。危険度は、門番のみで、きるくを使いこなし、なおかつおまえ達自身の能力を底上げしたら、極めて低くできる。森の奥に入らなければな。門番は、門を護るのが御役目。オイラたちは徹底したディフェンスだ。数多の存在に、森という檻から出ないで下さいと、ひたすらお願いを申し奉るんです」


 ひとまず……よかったの……でしょうか?


「有難う御座居ます。雁野先生」


しかし油断は禁物です。




 ここで、二時間目終了。




放課を経て、次の授業へ。




………………

…………

……




 三時間目と四時間目は、

丸々ときるくの授業。




 あたし、携帯電話なんて持たせてもらえなかったから、

凄く嬉しくもありました。


 しかし雁野先生は、


「恵喜烏帽子の言ったとおり、きるくはまだ世に出回るには時期尚早なものだ。基本は森のみ。学園や町で使ってもいいが、オイラは録音してるからな。発言には注意してくれ。休みで帰省し、門を通過する時には、一時返してもらう。不快な思いさせてわりーな。勘弁してくれ?」



 ちょっぴりの、



ガッカリこん↓↓



お昼になり、




給食を、




「いただきます」に「ごちそうさまでした」




………………

…………

……




 五時間目。




「じゃあ、きるくの基本はわかってもらえたみてーだから、

次の授業、道徳に行く事にする」


 どうとく? ……と……それに…、


「雁野先生? どうとくとはなんでしょうか?

あとは……失礼ですが、学園一般の授業は……?」


雁野先生は鷹揚に、


「道徳とは、人間が無意識の内に世の中に存在しているものと認識している、正邪や善悪の規範、だな。

オイラはたまたま生まれたところの生活水準が高かっただけで、座学は苦手だ。高校一般の勉強は、おまえ達が、本当に心惹かれるなら、おまえ達自身で学んでください。……つくづくだよな、オイラも」


「いえ……知らない事ばかりで楽しいのですが、

あたし、大学へも、できれば行きたいですから……」


「……そうか……わかった。一応、伝えてはおく。森に入るなら、無試験で内部進学は可能だ」


 しかし、と神妙な声音で雁野先生。


「とりあえず憶えておくだけにしておけ。森は危険が低くても覚悟は要る。取引材料には絶対しちゃぁいけねぇ事だからな」


 ふと覚えると、

あたしだけが知らない事ばかりで御座居ます。

皆様は、大変大人しいのに。

本当に……落ち込んでしまいます。



「それでは道徳の授業を始めます」



………………

…………

……



「これは鷹と鳩のお話です」



 もう一度改めてまわりを見渡します。


祷と杏莉子は、醸し出される空気は違えど美しい佇まい。


七ト聖氏、目を瞑り傾聴されています。

……ぁら? 今、カクってなった……?


恵喜烏帽子氏、机と椅子が小さく見えます。

相変わらず、無線ヘッドフォンは首に回して掛けてあります。

どこに売っているんでしょう? あんなデザイン。


一途尾氏、失礼ですが、

意外と大人しく授業風景に収まっていらっしゃいます。

ふと足元をみると、

貧乏ゆすりをしていらっしゃいますが……。



 そして……、



白い学生服の御方、皇様。

違和感の正体にようやく気付きました。

皇様の、瞳が開いていらっしゃるところを、

あたしまだ、一度もお見掛けしていないのです……。



………………

…………

……



「つまり、鷹は鳩より自由があり、高く翔べるが仲間が極めて少ない。鳩は仲間が多いが自由は少なく、翔べる高さも鷹には及ばない。どちらもどちらだが、オイラは、おまえ達に、できるだけ高く翔べる鳩になってもらいたいんだ」



 あたしは疑問があり、また挙手してしまいます。

雁野先生のお許しを頂いてから、


「……で……でしたら、

群れる事のできる鷹でもよいのではないでしょうか?」


「早水、それはいいな。だが無理だろう」


立て続けに質問させて頂きます。


「何故でしょうか?」


「鷹とは猛禽類もうきんるい。生態系における高次捕食者だ。単体で強過ぎる奴ってのは、良い意味でも悪い意味でも臆病にならざるをえないからだよ。鷹と鳩、一体一で争えば鳩は鷹には勝てないが、生き残っていくのは鳩だと思う。だから、おまえ達には鳩になって欲しい」


「あんたはどっちなんだよ?」


間合いよく恵喜烏帽子氏。


「オイラは鷹だな」


「俺らが群れられる訳ねぇだろう?」


「おまえ達は少なくとも、『四神なかま』のつながりがあるだろ? 互いに侵さず、翔んで欲しいんだ」


「先生は何故鷹をお選びに?」


祷が入ってまいりました。


「しゃあねぇさ。オイラが惚れてる奴が、ずっと高く翔んでっちまう鷹なんだからよ。鷹と翔べるのは鷹だけさ。それが、ほんの少しの間だけだとしてもな」


 まだ雁野先生には、

心残りがありそうでしたが、

ここで、五時間目終了の鐘が、




鳴ってしまいました。




………………

…………

……




 六時間目。




「それでは今学期最後の授業を始める。かくれんぼをおまえ達は、たった一日で修了してくれたからな。一学期の座学はこれにて終わりだ。遊べ、おまえ達は」


「それでは八百万倶楽部の出番ですね」


 音も無く立ち、声だけが響きます。

七ト聖氏の御発言。


やはり“疾走”できないあたしでは……、

その差は歴然です。

……フルドライヴ?……早く帰ってきてね……。


「七ト聖? 省きすぎだろー?

オイラの授業、そんなにつまんなかったか?」


なんとなく落ち込んでみえる雁野先生の声音で御座居ます。


「大変涼やかな空気で、麻は、よく寝てしまいまし……せんでした」


「その「し」が、完全に計算通りだとオイラは知っているぞ?」


まさか……、と七ト聖氏、


「人の身の完全など、たかが知れています。鷹のお話だっただけに、たかが」


なぜ二度言ったんです七ト聖氏?


「もーいーや七ト聖有難うな? しんみりさせて、ごめんなみんな」



 お母さんだったらお父さんにこう言うよね?



「野暮」――ってさ♪



………………

…………

……



 こうして明日からの、



あたしたちの八百万倶楽部が、


本格的な始動を迎える運びと、








相成りました。



 こどくとじゆう

じゆうとともだち

どっちがいい?

歌 手嶌葵 作詞 宮崎吾朗 作曲 谷山浩子

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