第78話~天休 命と神咲 秋桜の場合~「乙女が背負いしもの」
此方は……、
此方人等は……、
久方振りに……、
久方振りに……、
他人に怒られていました。
他人に叱られていました。
………………
…………
……
「おまえ達もう少しなんとかならないじゃろぅか?」
此方は告げる。
「かくれんぼは好きなので、精一杯頑張りましたが……」
他人は告げる。
「授業初日から、
わしはおまえ達の進級を心配しておる次第じゃ……」
此方は告げる。
「何故でしょうか? 先生は此方達がお嫌いなのでしょうか?」
他人は告げる。
「心配、じゃとゆぅておるぞ?」
やはり五月蝿いな他人は。
頑張っているのに……。
彼方が告げてくれる。
「先生のお考え下さった授業には本当にすみませんが、此方人等は、全力で頑張りました」
他人は告げる。
「おまえ達の“字伏”については聞き及んでおる。その極大を行使するおまえ達がそこまで弱く強過ぎるとゆぅ事が、わしは甚く心配なのじゃ」
強……過ぎる? 褒めて下さっているのかしら……。
「ぅふ」
「待て。もしもじゃからゆぅておくぞ。過ぎるは足らぬじゃ。平たくおまえ達は滅茶苦茶に弱い。じゃから強くに過ぎる」
やはり五月蝿いな他人は。
「此方は馬鹿にされているのでしょうか?」
「天休は森で己の存在を懸けて、切り札としてたたかっておる。みぬ事にはわからぬが、確かにわしでさえ、近距離で行使されれば、どうしようもない能力じゃ。わしはな、御嬢よ? おまえが……途方もなく不憫なのじゃ」
なんなの……? この他人のお面から漂う空気は……?
とても優しいのにひどく哀しそう。
何故か此方まで胸が痛む。
「おまえ達には立派な魂の器がある。これからは、わしがおまえ達を遊ばせる」
「此方の家は、とても厳しいから無理だと思いますが、二時間くらい遊べますでしょうか?」
「もっとじゃ」
「三時間?」
「もっともっとじゃ」
「三時間三十分」
「もっともっともっとじゃ」
「三時間四十五分?」
「御嬢はなにを競り落とすつもりじゃ……。嗚呼……だが、そうじゃな。競り落とせ――、」
他人の声音は優しげに告げる。
「自由を」
彼方が震えたから、此方も震えたのかしら?
ですから、憶えておきました。
川瀬 美代子。
それが先生の御名前。
じゆうはあっせいからうまれない
しいたげられたものがうったえなければ
じゆうになろう
作曲 佐藤直紀




