第6話「Thirty-Three」
僕の抱え方の所為か、
生命の根源の震えか、
彼女はすぐに泣きはじめました。
音声は、
わずかな身体から発声されているとおり、
耳を傾けなければいけない程度ですが、
時刻と団地の立場を考えると、
早急に処す必要にはかられ、僕も一寸焦る。
……困った時の君頼み。
情けなさ、不甲斐なさを覚えても、
君が、僕には必要。
泣く赤ん坊を、
仕方なし羽毛布団の上にそぉっと寝かせ。
君のもとへ。
倖子君は基本眠りが浅い、主には家を作っている、
僕への愛情を傍らに残しておいてくれている為。
いつも有難うね、倖子君。
君は襖を開く気配ですでに起きてくれていました。
一見にて、
君はさっと己のすべき事を理解し、
泣き続ける子をあやし、収めてくれた。
よかった……。
団地の隔てた壁へ、
隣人への謝意を、心ながらに示しました。
………………
…………
……
「昔々、お爺さんは山へ芝刈りに、
――って桃太郎さんかよっ」
彼女の両腕は、
生まれたばかりの娘に注がれて、
頭も満足に抱えられそうになかった。
僕はあぐらをかけない体質なので、
君の傍で、割座になりまして、
「いや、女の子だから『竹取物語』じゃないですか?」
「……どちらにせよ、私まだそんなに老けてないよっ」
語勢はあるが、大切な子は揺れない。
眠り続けている……大したものだ。
「然り、倖子君の美しさは三国一ですぞ」
瞬きまごつく君。
「……う、うん、ならいい」
会話の収束を見切り、言葉を差す双子達、
「お父さんお母さん、稚児に名をあげて」
ん、……んん?
ふたりは、
デスクトップPCさんの上のふちにのれる程、
ミクロ化していました。
僕も倖子君も程度の差こそあれ驚きましたが、
この子らは、
息子、娘といえど、
僕らより遥かに高次の存在でも在るのです。
ミクロ化は、そんな想いを抱かせる為、
わかってもらいたい、そんな願いなのかも知れません……。
ですが……名をつけて、ですか。
命とは、そのものが、
誰かの……何かの、願いであり、祈りであり、希望です。
僕は、僕らは、この子に、
どんな名を授け、
捧げられるでしょう?
その名は、命の華……、
すると――突如、
僕の身に降りるもの在り。
君に双子に、霊妙告げる。
「捧華ってどうだろう?」
てへっ♪ ふふっ♪
そのはにかむ音はまるで、承知の上だったかのようです。
大切は、君。
「……ぅん。……不思議な響きね。『早水 ささげ』……って、どんな願いを込めたの?」
少しばかりの思惟で、
言葉を整理します。
「……僕と、大切な君が出逢えた縁。三人の子供達に僕らが拙く渡したいもの。存在するものへの全ての感謝。出会って下さり、有難う御座居ます。僕の全てを、どうか、『捧げ』させて下さい……かしら」
早水家五人の、
星光の如きささやかな、
それが……、
仕合わせで、
御座居ました。
かのじょはぜんそくりょく
おたんじょうびはさんのさん
わたしたちはきみをあいしてる
Lyrics/Music Billy Corgan