第70話~早水 捧華の場合~「Hide and Seek」
一時間目半ば、かくれんぼ開始。
もう一度御褒美を確認しようと黒板に目をや
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「帰宅する鬼っ子はここに名前とさよならの挨拶を書いてけれ」
一位 皇 承です。褒美は辞退できるそうですよ? みなさん、さようなら
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ると、っ!? ……な、……にが、
……起きて……い……るの?
どの疑問を優先で解決すべきなのか、全くわかりません……。
教室内には、白い学生服の方の姿が消失していました。
そう、消失で御座居ます。
皇 承……。
「さすが皇様じゃ。わちの能力でも捉えきれん。精進精進」
うらみつらみもかなぐりすて、
「祷、皇……さまともお知り合い、なの?」
…………、なに? その珍しい生き物を見た様な顔。
「本当に言っておるなら。捧華ではなく、御両親の捧華への躾に心が曇るち」
祷に悪気はなさそうです。
「知ってて当然。そういう事、なんだよね?」
「そうじゃ。そしておそらく捧華は特にな」
「っ? ……どういう事?」
大人しく祷は席を立ち、
「捧華自身の事じゃ。自身で調べよ」
そう言った祷は、
「わちももう探しに行く。ではな捧華」
………………
…………
……
一時間目が終わる頃には、
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二位 常世 祷じゃ。女子会行きたいちー。皆、お先に失礼♡
三位 歌坂 杏莉子。これにて。
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ふたりの友だちに置き去りにされてしまいました。
残るは、七ト聖氏、恵喜烏帽子氏、一途尾氏、あたし。
皆様に声を掛けさせて頂こう。
七ト聖氏から、
「見つけたらラーメンが食べられないじゃないですか!? ラーメンは日本の国民食。麻、食べてみたいんです! 逢真さまに召し上がっていただく為に!!」
そうですか。余裕ですか。そうですか。
恵喜烏帽子氏へ、
「適当な曲を探してる。邪魔はするな」
巨躯で、曲?
最後は一途尾氏、
「居場所は多分わかってるけれど小細工がメンドイー」
仰って教室をあとにされました。
やばい……。空気的にあたしが最下位になる予感。
それでも「恋バナ」ってなんかドキドキしちゃいます。
六位か……、ってあら?
六人? あたしたちって……、七人、ですよ……ね?
………………
…………
……
鐘が鳴り、放課、終わり二時間目。
二十分程して一途尾氏が戻り、
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四位 一途尾 ぬこだ♪
バイト前に横になれるーさんにんあでぃおすー♪
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二時間目終了間際、恵喜烏帽子氏、
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五位 恵喜烏帽子 御門。授業は楽しめた。有難う御座居ました。
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去る恵喜烏帽子氏に声をお掛けします、
「恵喜烏帽子氏、お疲れ様でした。告白の練習頑張って下さいっ!」
「する訳ねぇだろぅがっ!」
そっ……そうですか……?
そして実質の最下位は確定致しました。
糸口が、おぼろげですので、
フルドライヴに尋ねます。
ですが、
……フルドライヴは捧華にセーフモードをすすめる……
……セーフモード?……なぜ?……
……捧華が気付いておらぬからだ……
……なに……を?……
……フルドライヴの恒常使用を停止した事を……
……っ……
……そういわれれば……あたし……
……フルドライヴを何回か喚びだして……た?……
……フルドライヴなぜそんな勝手な事を!?……
……ほう?……捧華は勝手ではないのか?……
……どういう……こと?……
……フルドライヴに心はあると想うか?……
……フルドライヴはあたし自身でしょ?……
……ではフルドライヴも捧華を動かしてもよかろう?……
……そ……んな……
……捧華はどんどん加速し周りをみる事が…………できなくなっていると判断した……
……聴かせて?……
……うむ人生は複雑な迷路だが……
……目的を設定すれば一本道にもできる……
……?……
……目的を決めて新たなドライヴを創れ……分業だ……
……分……業……
……フルドライヴは基本でよく言わば万能だ…………枝は多いが深くはない……
……つまり特化したドライヴを創れって事?……
……善い……フルドライヴは現在問題が起きている為ほとんど休む……
……フルドライヴにもあたしにも?……
……そう……走り疲れたから少し華を愛でるくらいの心で休もう……
……わかったよ……フルドライヴ……うん……歩こう……
……ごめん……いつも有難う……
……有難う捧華……ではな……
「“フルドライヴ““休息診断”」
……筋肉の痛みはさらに強くなる為のよろこびでもある…………待っておれ捧華……
……うん♪……待ってる……
………………
…………
……
フルドライヴを終えると、
身体が重くなった気がいたしました。
さて、どうしよう?
今かろうじて発現させられるのは、
第四の壁だけか……。
ますます打つ手がなくなり、
気が付くと放課の時刻に入っていました。
ラーメンかも……。
……そう、か。
あたしは弱く、愚かで足りない。
恥を掻いて、強くなっていこう。
「七ト聖氏? あのあたし」
「予定通りの運命。『疾走回路』、『シュレーディンガーの猫』、『無限の囮』『点と線』、そして、『超弦理論』。五枚の札を贈りましょう」
「ま、待って下さい。なにを……仰って?」
祷以上の静謐さで、七ト聖氏御起立、
「あとは図書室にて見なさい」
有無を言わせず教室を出て行かれました。
………………
…………
……
お父さんの好きな言葉「我以外皆我が師」。
今は、教えを請うた師のお言葉に従おう。
図書室を探すので御座居ます。
うろうろする間に、
三時間目から四時間目になってしまいます。
四時間目を二十分程回り、図書室へ到着。
これだけの御本があるともの凄い壮観。
図書室には御本達の素敵な匂い♪
『シュレーディンガーの猫』は、
お父さんから教えてもらっている。
最初の糸口はそこしかないでしょう。
量子力学である事は、
菜楽荘の日々で辿り着いていますので、
探す事には、時間はあまり掛けませんでしたが、
理解に時間を要しました。
………………
…………
……
五時間目、六時間目、十五分を回る。
出した御本に礼をし、
仕舞い、
また仕合いが始まります。
『シュレーディンガーの猫』に、
『超弦理論』はついて参りました。
フルドライヴは万能の札。
『猫』と『超ひも』はお揃い。
あとは……、
『囮』と『点と線』の札が、
雌雄を決する。
「拉麺」か「恋バナ」か。
お父さんの別れの贈り物。
「白と黒の融和する場所」
たとえばそれは、
0と1が重なって在る場所とも仮定できるはず。
魂から心へ、試みる。
………………
…………
……
あたしの心の地平線の向こうから、
低く淡い土煙が一線に、
また大量にやって来ます。
限りなく、荒野を駆ける仔猫たち。
あたしは弱い。
今はただ、勝負より、
挑む勇気を創らなきゃ!
幼さを鳴く、
言の葉、
「走って! 重ね合わせの仔猫たちっ!」
………………
…………
……
……よろしくニャン♪……
……宜しく!……シュレーディンガー。早速で悪いけれど……
……お願い!……走って?……
……範囲はどうするニャン?……
……普通学園校舎全体でお願い……
……狭い狭い……あっちゅー間ニャン……
……六時限が終わる……捧華もいそげ……
……うん!……
あたしは駆け出し、
さらにっ!
「“二律背反の囮っ”!」
を撒く。
撒き終えると、
『囮』と『点と線』が繋がったので御座居ます。
学園内のあらゆる場所に、
無数の仔猫たちが散らばって、
雁野先生に当たって光る。
「先生は、移動してる……。でもっ!」
先生が移動したって仔猫たちは限りない。
雁野先生に当たる度、
光の『点』は増えてゆく。
先生は屋上へと向かってる、
そうっ!
光の『点』を繋げば、目的地までの『線』になるっ!
駆け上がり、屋上の扉を、開けた、
…………ら?
………………
…………
……
「……なに? この大きな半球の建物は?」
ドキドキしながら『線』の先、
半球に入る。
真っ暗でし……、た……、
が……、
小さな光が天井にたくさん、優しく灯る。
………………
…………
……
「わあ♪ お星様です♪ ……が……屋内なのに?」
「ああ、プラネタリウムだよ」
お面と外套、
そして……、
教室にいた時よりも、
確実にお身体が縮まっていらっしゃる、
……雁野先生の小さなお姿。
………………
…………
……
「よかったぁ♪」
ニッカリこん☆
その声音とともに六時間目終了の、
チャイムが遠くで鳴り響きました。
「ギリギリだったなー。早水、合格合格」
失礼になりません様に、
「雁野先生……、なぜそれ程に小さく?」
「……まーおいおいだがな? オイラは、『超弦』という罪科もちなんさ」
これ以上は多分、
踏み込ませないご意志を感じさせる声音。
あたしは黙る。
「……早水は優しいな。有難う、仲良くできそうだな?」
「はいっ、雁野先生。よろしくお願いいたします!」
それでは……、
「恋バナ聴かせて下さいっ♪」
何故か、
え? ……な間、
「……てめー子ちゃんやるなー。よし、」
………………
…………
……
つくりものの天と星。
それでも……、
とっても優しいのです。
きっと、
それはつくった人々の、
命の輝きだから。
座席に座り、星を眺めながら、
「……まずな? オイラの惚れている女性の名前はな……?」
あたしの先生は、
お父さんがお母さんに話しかけているような、
大切な人への想いを、
あたしへと、語って下さいました。
お父さん? お母さん?
あたしには、まだ難しいけれど、
愛し合っていますか?
あたし、頑張れそうだよ?
この、普通学園で。
おそれずにゆめはでっかく
るいはともをよぶ
フルハウス
Song/Lyrics/Music Imogen Heap