第67話「dear my friend」
「ごちそうさまでしたっ♪」
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……
素直に言える喜びの尊さ。
狐のお面は口の部分が上下にスライドし、
一口目は戸惑いましたが、
三口目までには補正できました。
美味しいお食事を頂く間に、
会場にみえるお方々の漢字のお名前も憶えました。
祝宴を終えて。
狐職員方に付き添われ、寮へと向かう、わくわく感♪
うん……それでも……、
「……こちらは……寮と呼ばれるものなのでしょうか?」
そこには、
飾り気のない白く四角い大きな家が建っていました。
送る、
……フルドライヴ……“記憶を集めて”……
……捧華視覚情報より……近似の可能性提示「シェアハウス」……
そう、それです。
中に通されるのは、あたしと、祷と、歌坂氏、やった♪
入口を開けると、中に人が居ました。
西洋のお召し物かしら?
わあ優美♡
「お初で御座居ます。七卜聖・麻・タイガーリリィよ。ここから御挨拶、拝聴しておりました。早水 捧華さん、予定通りの運命。こちらのお洋服はゴシック&ロリータ。この国の独自性は素晴らしいわね。生き様は、輪り廻えし貫く愛。ふたりでひとりの運命と賢者。どうぞ、」
ふぅわり舞う礼。
「ヨロシクね♡」
「何故?」の疑問の連続の胸中に、
見蕩れるあたしと、
「どうぞ宜しく」と、祷。
頷く、歌坂氏。
それでもフルドライヴで覚える事。
祷も、……歌坂氏すら、
揺れていらっしゃる……。
ここで、こんな遠い場所から……聴いていたって……?
………………
…………
……
「それでは皆様、何事も始まりは肝心。どうか生きてください。これにて」
頭を下げて職員様をお見送りし、
綺麗な間で七ト聖氏の声音が紡がれる。
「お疲れでしょう。お茶を淹れてあります。西も東もつつがなく。今日は皆、ゆるりと休みましょう」
四月六日の事でした。おやすみなさい☆
………………
…………
……
四月七日。
いよいよ本格的な暮らしを迎える。
このお家を、少しずつ把握するんだ。
さすがにいきなりクラスメイト達の、
「お部屋に入れて♪」はないですから、
お家に「お早う御座居ます」を済ませてから、
北側の扉を開けて、大きなダイニングをみてまわる。
とは言え、
簡素に大きな木製の円卓と、
四人座りの椅子がよく際立つぐらいで、
さほど面白そうなものは特に御座居ません。
割り当てられたお部屋がすでに小さなお家になっていて、
お風呂も洗濯機もおトイレ等も御座居ます。
衣と住は問題が御座居ません。
食も、お部屋の中にキッチンがある為、
作れる人は、
作って食べなさい、そういう事なのでしょう。
ちなみにあたしは南側のお部屋。太陽さんさん♪
えーと、……しかし、今日のご飯は?
間もなく学園で働く方がやってきて下さり、
「お早う御座居ます。お待ちどおさま。普通の給食をどうぞ。お嬢ちゃん、ベッピンさんだね。うちの母ちゃんほどじゃあねぇけどな? ははっ」
ムカツク、
でも、しあわせです♪
「今日は狐のお面じゃないのですね? お食事、頂きます!」
おじさんは頷き、
「あれは学園の行事への習わしだよ。今年は狐の嫁入りだからな。玉藻前は、御免だけどな。……うぅ口にするだけでこえぇよ」
たまものまえ? 新しいおすもうさんの名前?
おじさんは笑って去って行きました。
受け取った給食を持ち、振り返って……、
「ぅわっ!?」
七ト聖氏がすぐ傍に立っていました。
たくさんの食材の命が、危うく惨事で御座居ました。
フルドライヴで察知できないなんて……。
「早朝から剣呑な言の葉を、淑女の家に放り込まないでほしいわ。お早う捧華さん。給食の受け取り感謝します」
上には上が居るのです。まいっちゃうなぁ。
ダイニングに戻ると、祷と歌坂氏。
ご挨拶して、
「いただきますっ」
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…………
……
この日は、祷も歌坂氏も、
「お部屋の内装いじるち!」
と、
「本達を並べて差し上げなくちゃ、と。一人称は、二人称に告げました」
そう御篭りに。
七ト聖氏にいたっては、
「少し出てきます。わーひ♪ 逢真さまーっ♡」
あたしの中でキャラ崩壊を起こしました。
……どの様な御方なんでしょう。七ト聖氏も、おうまという方も。
くうねるしたくで、四月七日おやすみなさい☆
………………
…………
……
四月八日、早朝ダイニングにて、歌坂氏から、
「今日、お昼を済ませてからeとEの、集まれる生徒達で、親睦会があるのですが、二人称は如何かしら? そう一人称は問いかけました」
親睦会?
「みんなと仲良しになれるって事でしょうか?」
少し首を傾げて歌坂氏、
「二人称は面白いわね。と、一人称は告げました。そうね、直訳はそうかもね。ええ、そう如何? とさらに一人称」
もちのロンですっ、
「早水 捧華、参加させて頂きます」
歌坂氏はわずかに頷き、
「では参加ね。良かったわ」
まだ会話が続く雰囲気、
「一人称は、何故? を考える事を、割りと好みます。しかし納得がゆく解に辿り着けなかったので、非礼を承知でお尋ねします。二人称の固有早水さん。貴女の能力のほんの一端でよいので、教えてはくれませんか? 一人称もそれに見合う。もしくは、それを超えた能力を開示しますので」
訝しむあたし、
「何故その様なお話に?」
ひとふたの間から……、
「貴女は一人称の素顔を見る前から、一人称を一人称と断定していたと思われたからです。一人称には、成し遂げたい想いが在る。揺さぶりが大きく、なおかつリスクが少ない解消可能な問題は早期に片付けておきたい。推測で、貴女は南方。敵対は少ないと思い、お尋ねしています」
なんぽう? ……知らない漢方の軟膏でしょうか?
もとより歌坂氏、
……ううん、
クラスメイト達と敵対なんてしたくはないので御座居ます。
フルドライヴを手短にご説明しました。
………………
…………
……
「……なるほど、視覚情報を多角で自動解析、組立、それが恒常的に……。それも面や衣服の上から……、そら恐ろしいわね早水さん」
なんだか恐れと早水があたたかい。
「貴女は一人称を信じてくれました。有難う早水さん、一人称も貴女には、少しばかり俯瞰を解きましょう。改めて、よろしくね」
差し出された手を繋ぐ、
前に、
「ぇ? ……消え、た」
歌坂氏。
間を置かず開く東の扉、
「一人称はですからこの想いを差し出します」
なにが起こって……なにを言って、
「一人称は伝えたはずです。ほんの一端でよい、と。今度はこちらの情報で悩んでください。貴女の平安は、軋轢を知らない様に見えますから。では昼食後に、ご一緒しましょう」
そうして開いた東の扉は閉じられました。
「…………、まだ、未熟だぁあたし」
ですから、
上を向いて笑おう。
脳内すったもんだで……、
………………
…………
……
親睦会で御座居ます。
集まったのは、お面なき面々。皆様大人しい。
お部屋の隅に置かれた長方形の机に飲み物が適当に置いてあり、
また「適当にどうぞ」と机に張り紙が御座居ますので、
感謝の念で清き水。大人しく座っていよう。
沈黙をどなたが開くかとくと見る。
てってけてーさんで御座居ました。
「わがはいは無理だから、誰か進行役ぷりーず」
一理あります。
「委員長っぽい奴でいいんじゃねぇの? やぁ祷ちゃんヨロシク」
な、馴々しいなおっきい白い人、
すぐに祷の方を向くと、
「あーそー御門の部屋にはね? 面白い隠し棚が……」
「その節は大変ご迷惑をお掛けいたしました」
その声音の親しみと切実さから、
……あら?
白い人と祷、お知り合い? 隠し棚? なにを隠すの? へそくり?
「おう、どんな傾向の本なんだ?」
御本は確定なんだと、三尾氏の慧眼に敬意を抱きます。
「おいっ親睦だろうが、引き裂くぞ!」咆える白い人。
「方向性によっては盟友フラグだろうが?」
食い下がる三尾氏に心が敬意を取り消し始めるなぜでしょう?
祷に至っては、
「わち悲しいあー泣かされた絶滅してち♪」ノリノリ。
「泣けてきた嬉しくて悲しすぎて……」
なぜ恵喜烏帽子氏は死刑を宣告されて嬉しいのでしょう?
でも、
ん? なんだか胸がちりちりして、つい動く。
「祷? 恵喜烏帽子……氏とお友だちなの?」
「お友だち? ………………………………、うんそー」
その間なに? 熟考してその投げやり?
ぁ、恵喜烏帽子氏が小さく見えます。
っ!?
気配がどろ……りとぬめる……重……た……い。
いつの間にか、
お部屋に立つ方が居る……この方お部屋に居たっ!?
「おまえら五月蝿い。最小最弱でも眠りを妨げられたら怒るぞ?」
いや親睦ですし……、
「言い訳はよい」
聴こえてる!?
「顔に書いてありますよ?」
もう疲れるここ驚きどおし、
七ト聖氏が怒る人の隣に突然居るので御座居ます。
「逢真さま? 短気はいけません。またお背中流しますから」
……あたしの中の色々なものがヒいていきます。
「リリィには敵わぬ……もうよい。神守森 逢真だ。われの生き様は、リリィに示す為に在る。出席はした。あとはリリィ頼む」
消える神守森氏。お父さんやお母さんも消えれたのかな……普通に。
フルドライヴでも神守森氏の存在を追いきれません……。
ぬめる気配が気持ち悪いのですが、気持ちを整えていきます。
進行役は七ト聖氏、
「逢真さまが寂しがるといけないので、各人の重要事項だけ伝えあいお開きといたしましょう。
みなさんは普通学園でなにをしたいですか?」
背中を流しあうおふたりが脳裏を過ぎり集中を欠きますが、
うん、とっても大切な事で御座居ます。
先ずは誠悟氏が立たれます。
「失礼します。ふたつ。ひとつは友だちをつくる事。あとは、早水さん、さとりを調べて下さいとお願いしました。もう少し声量を絞って下さい」
あ、忘れてました。
「は、はい、誠悟氏。調べておきます。すみませんでした」
……ん? でもなぜ、それがわかるの?
「それがさとりです」
な、なるほど……、思考が筒抜けなのですね。
…………え? ぎぃやー! 恥ずかしいっ!
………………
…………
……
ふーはーの疲労がたまってゆきます……。
情報量とアンノウンが多すぎて、
フルドライヴしてても全然足りません。
……これが外の世界。
「わがはいはみんなと遊んで、懐かしい人と再会したいだけだ。アルバイトしてるから、授業はたまに休む。諭と仲良くして欲しいけど、あんま仲良いと邪魔してやる」
痛快な、一途尾氏の声音。
アイコンタクトで微笑みあうご両名。
お父さんとお母さんみたいです。
お次は三尾氏、
「野球をやりましょう、みなさん。できたらジャズも」
キラリ、
「ジャズ? あたし音楽大好きっ!」
「おおっ! 同志発見!! どのパートやりたい?」
「なにを隠そうベースやってますっ」
「わあ♪ 女性ベースは熱いな!」
「三尾氏は?」
「わいさは現時点じゃエアドラマーだ。昏いからな……」
「……昏い?」
「だからさ、そのふたつ通じて友だちつくりてぇんだ」
「ふたつと言わず。もっとしてみたいです。あたし外の世界に興味津々ですからっ」
「……外の世界? ……そうだよな、みんな……色々あるよな。いいよなんだか、わいさも普通っぽい」
夢中のラリーをしてしまいました。
ふと……、
……視線感じて、
天休氏と神咲氏です。込められた視線の想いまでは読めません。
あたしにではない事はわかりますが。
出し抜けに七ト聖氏、
「賢者が案を下さいました。【みんなのやりたい事ひとつひとつやっていこうクラブ】、これです」
てらいのなさお見事しかし名称は即時脳内シュレッダー。
「なら、サッカーもできるか?」
大きく戻った恵喜烏帽子氏。
七ト聖氏無論の頷き、
光が生まれていきます。
「おう、わいさも頑張るから、野球も力貸してくれ」
御本好きのお二人に和もできる。
「おめーら輝いてんな♪ とびっきりっ♪
わがはいも協力するぜ。
それがわがはいのしたい事に今なった」
「猫かわいがり、吾も様々を学びたい」
一途尾氏と誠悟氏、これぞ阿吽。
そこに、
おずおずとした声音が入ってまいります。
「此方、ケーキバイキング行きたい」
「命? ……うん、そうだね。行こう。此方人等も頑張る。命と行きたいからね」
ケーキバイキングとは敷居が高いものなのですね。
あたしも頑張らないと! 天休氏、神咲氏、ご両名参加。
「読書会、そう一人称は希望を述べました」歌坂氏にぴったり。
「わちはみんなの写真たくさん撮りたいち。肖像権にうるさい方は言ってち」
しょーぞーけん。祷はいろんな事をご存知です。
あたし撮って欲しいっ。
すくと立ち上がり、
お部屋の扉へ向かい出す清夜花さん。
「野鳥観察、失礼します」
退室する清夜花さんを追いながら流天氏、
「それがしは、コンピュータゲーム、なにが面白いのか学びたい。ではな」
す
で、
と
の扉。
極力の大人しさ。
その所作に感動する暇を奪う様に、
七ト聖氏、
「麻は逢真さまが居て下されば他にはなにもいりません」キリッ
しん
これだけの数の黙殺を受けたら、
あたしなら生き方を考え始めるでしょう……。
「みんなのやりたい事ひとつひとつやっていこうクラブ、頑張ろー! おーっ!!」ケロリ。
……そうか……、生きて……たのですね。
あたしの脳内には、もうその名称は残っていませんでした。
振り絞ろう勇気を、下克上で御座居ます。
「……あ、あの、七ト聖氏? そのお名前はあの……」
七ト聖氏の眼力がフルドライヴすら萎ませる。
「……長いよな。長い長い」
有難う恵喜烏帽子氏!
援護で眼力の重圧をわずか押し返せました。
友の塩、
「そうとってもよいお名前ですけれど、
ほんのですよ? わずか少し長過ぎます」
言葉のチョイスがオカシ過ぎる。
けれど!
額の日の丸触り、ふたつの恩義必ず返す。
「わいさは十文字以上を見ると、どうも胃腸の調子が……」
はい痛いですよねホントにキリキリと、この御方の眼力。
あら? ……いえ、三尾氏は読書好きでは……?
「一人称は提示させて頂きます。【八百万倶楽部】と」
歌坂氏さえ、揺れていらっしゃる。
そうなのですね、
きっと個性を保つには、
覚悟がいるので御座居ます。
有難う歌坂氏!
援護して下さった皆様、あたしはここだけは退けませんっ!
「良いですね歌坂氏っ! その御心は?」
「ずっと、一緒に、居ようね。これから、なにがあっても」
………………
…………
……
まごころは、
それが透き通る程、
染み渡ってゆくもの。
誰も孤独、
感じられれば繋がれる。
流れ始めた旋律が御座居ます。
【八百万倶楽部】へようこそ。
明日はいよいよ、
入学式で御座居ます。
ハイ! ひょうじゅん?
ここにいるとおちつく
しんあいなるミドにささぐ
歌 Hi-STANDARD 作詞 横山健 難波章浩 作曲 Hi-STANDARD