第61話~前夜~「みだれ髪」
屋台の居酒屋で、
面接は行われようとしている。
私立普通学園、
やはり笑わしてくれる。
………………
…………
……
腐れ縁の彼、
「…… …です。本日はよろしくお願いいたします」と、
わたし、
「…… ……です。どうぞよろしくお願いいたします」。
面接内容は、
「我々にあなた方の世界を教えてください」
ですって。
面接官はタブレットの中。
表向きは、
「腹割って話し合いましょう」
と来た。
面接が開始される。
………
……
…
……わたしの、……世界か……。
まず、
「“色即是空空即是色”ではないでしょうか? 全ては空の演者」
「なるほど。ですがそれではあまりに空虚ではないですか? 我々には塵芥ほどの望みも残す事は許されないのでしょうか? 人生の解が空になってしまう」
「ですが、ぼくらが知る限り、ぼくらはどうあっても、意思や意志をもって空にも虚無にもなれないでしょう。こうやって想いを、文字を連ねて、触れ合い、身を温め合うしかないのですから、その間をともに過ごせれば、それで良いのではないでしょうか?」
……そう、……かも……ね?
「はい。どて煮とウーロン茶割」と、屋台の親父さん。
彼はどて煮。
わたしは温かくして飲む。
寒風吹き荒ぶ街中故に。
「……ちゃん? 飲むだけでは身体によくない。これお食べ?」
どてよこす彼。
いつもこう、わたしばっかり、
「はい。有難う………ちゃん。いたただくわ」
「ごちそうさま」と面接官。
「どういう意味ですか?」とわたし達は声を重ねるが、
「特に何も?」と、
いなされる。
それでも飲酒を咎める雰囲気さえない。
無礼千万はお互いの暗黙の了解か。
「お二人は、勘違いして生きておられる。そういう事ですかな?」
「ええ。それは面接官様も同じ。正答は無い。あるいは、」
わたしが、
間を置いたところを、
詰めよる面接官。
「あるいは?」
「まだまだずっと先にあるのではないでしょうか?」
………………
…………
……
おそらく……、
わたし達に最後の質問、
「あなた方は知っていますか?」
「知っていますとも」
「なにをあなた方は知っていますか?」
「知っているんです」
「“無知の知”を?」
「極めて全知」
「では全く知らないのではないですか?」
「ええ。でも知っているんです」
「なにを?」
「それはみんなが教えてくれます」
面接官が、
タブレットの中、
優しげに揺れる。
「そうですね、ふふ」
………………
…………
……
あなたに教えて下さった肩の後ろに優しく手を置く事。
あなたが教えた肩、その手に後ろ優しく導かれる事。
「知っている」に「知っている」を重ねて。
ともに高みへ。
ふたりの声音、
凛として、
「本日は、御時間どうも有難う御座居ました!!」
あたえたいからあたえたい
歌 美空ひばり 作詞 星野哲郎 作曲 船村徹