第3話「電話をするよ」
君が不在のまま早水家は、
一週間程を過ぎようとしていました。
君恋しいがいたし方なし……。
心身が健やかに動く限りは、
僕は家作りを主にしています。
つまりはアマチュア作家です。
これも僕にとっては、君に仕える事。
大切な、お仕事なのです。
売れる売れないは極力考えていません。
正しい楽しいと想えるものを書く。
気が付くと夜を越えて、
朝日を迎えるのも珍しい事ではありません。
今日も朝方六時を、
時計は回ろうとしていました。
家作りをしながら、
廃棄物処理への思考も並列して巡らす。
今日は月曜日。
燃えるゴミさんは明日だったな。
……良かった。
このままPCさんをスリープさせて、
僕もまた眠ろう。
そう思考を切りかえた時、
電話が鳴った。
僕は「恐怖症」と名付けるか迷う程、
電話が嫌いです。
ありきたりな感想ですが、
どうにも相手方の顔が見えないのが性に合わない。
倖子君ともその件では意気投合する。
しかし、
だからこそ、電話に出る気になりました。
僕の生活リズムを知る人しか、
こんな時間にかけてくるはずがないからです。
つまり倖子君。
でしたら、
僕が出ないはずがないのでした。
およそ十秒ほどで……、
少しの不安と期待を掛けた解答が……、
「はい、早水です」
「もしもし、……良かった起きてた。仕事お疲れ」
……正答だと得られました。
麗しい声音が僕の心身を潤す。
なんだか鉢植えを探す、
……涙出そう。
「うん。みなさんはお元気ですか? ……倖子君、なにかあった?」
我が君の心が、
わずかに揺れている様に感じる為に尋ねてみました。
「……う、……うん、家族は元気だけれどもさ、ありがと。……その、昨日から……居るのよ実家に、娘の、ポップちゃんが。家族と和気あいあい……でさ」
これは嬉しいニュースでした。
瞬時、
僕の部屋にも透き通る少女は居た。
わずかの驚きはありますが、
僕はタイムパラドックス等は、
パラレルワールドで回避する思考なので、
もう不惑前だし、
「面白い」で落ち着く。
遍在できる事は教えてくれてたし。
「そう、それは僕には好かった♪ こちらにも居てくれてるよ?」
「やっぱりどこにでも居るって本当なんだ。面白い……確かに面白いけどさ。……あー……ダメだまた頭痛くなってきた」
君の困った所って案外僕は見慣れていないですから、
少し嬉しくもあるんです。
その所為か僕の心は正直になります。
「……君が居ないと、寂しいよ。早く、帰ってきてくれないかな?」
「ふふん。私の大切さが身に染みているようね。良い事だわ、非常にね。愛たまってるかしら?」
僕はひとつ。勝気な君の声音が好きだよ。
「そうだね。君が居ないと、僕の全ての愛情は消え失せて、生きる喜びから随分と離れてしまうんだ」
穏やかな沈黙が、いち、にぃ、さん、
「心也君、有難う。……ちょ、ちょっと嬉しかったから、帰る事考えといたげる。……これから私も、ポップちゃんと親しくなりながら、家族達と今後の事話し合ってみる。……答えはもう、出てるようなもの、だけれど――ぅふ♪」
嗚呼……、君は温かい。
太陽に照らされる月の様な気持ちなのかも知れません。
「うん。僕待ってるからね? 気をつけて、帰ってきて?」
「うん、電話代凄いからもう切るね。今からお休みでしょ? ゆっくりしてね。それじゃ」
財布の紐の番人はもちろん倖子君です。
「倖子君、有難う。僕からもまた必ず、電話をするよ。まだ伝えたい事はあるからさ。……苦手な電話、本当に有難う……嬉しかった。……倖子君?」
「ぅん? なに?」
きっと死ぬまで辿り着けない言葉だとしても、
大切な君に真心を、
「愛しています」
「ばっ、……ぉバカっ……、じゃあね。心也君、おやすみなさい」
本当に大切な言葉は、
決して口に出すべきものではないのかもしれません。
ですが、僕はずっと未熟です。
「愛する」事を探求する旅路の最中。
様々に試行錯誤を繰り返す「愛」もまた、
御神様は、「それもまた善し」……、
そう仰る事でしょう。
「はい、おやすみなさい」
彼女が電話を切るのを確認し、
僕は受話器を置いた。
ポップちゃんは、いつの間にか消失していました。
僕の心は奮起を覚える。
君は容易く、
僕の全てを動かしてしまう。
君は……、
せかい中で、
最も、
頼もしい存在です。
例えそれが、第四の壁による彼岸の蜃気楼だとしても……。
このやりとりから、
さらに一週間の後、
僕の女神様は、
我が家に降臨ってきてくれました。
ふたり苦手な電話で、
心を絆いで。
どんなくらやみにもひかりはさしこむ
そとがわのきょりにはなればなれにされることはありません
きみはぼくのすべてです
歌手 UA 作詞・作曲 渡辺慎