第36話~前夜~「雲のように風のように」
あたくしのありたいカタチ。
それは雲のように。
あたくしのはこびのカタチ。
それは風のように。
けれどもあたくし、清夜花は、
その在り様を保つ事が、
わずか困難な有り体。
彼女と出会ったあの日から。
………………
…………
……
あたくしは鳥達の舞う空となり。
心をいつも空とし。
小鳥達に慕われ。
我が師であり友、
法華を迎える事さえできるまでになった。
あの日彼女が現れるまでは、
鳥達はあたくしという空を切り、
心地よく囀り翔んでくれていた。
青と白と透き通る場所そのものになれていたはずだった。
過去形。
現在あたくしの空には、
火が燻っていた。
嫉妬。
彼女を照らす光の鳳。
あたくしは押し込めてしまおうとしても、
嫉妬の醜い臭いは消せない。
端的に。
「何故あの程度の娘が」
………………
…………
……
『四神』に護られている?
法華は鳴き。
教えては下さる。
法華はあたくしの友とも呼べるが、
鳳はすべからくそのカタチ。
理を持ってこの星に遍在していると。
法華自身にもそのお力は循環しているのだと。
我が師法華にはあいすみません。
……それでもなお、
あたくしには器の違いを見せつけられた想いが……、
あたくしの空を知る事もできぬ、
鳥達の音色に劣る者が、
軽々とあたくしを、
翔びこえていった事としか考えられず。
嫉妬の火がちりちり……ちりちり……、
想ってしまう……、
憎悪。
「……許さない」
この想いは、
時間で風化させるか。
もう一度彼女と相対するかしかない。
同じ学園に入る以上、
結局は相対しか選択肢はない。
そんな憤りを募らせる、
あたくしを、
さらなる闖入者が掻き乱す。
入寮しちょうど一週間目。
あたくしは、
男子に告白されたのだ。
公衆の面前で。
………………
…………
……
「それがし、そなたの佇まいに惚れましたっ! それがしを、どうか姫君の下に。誓いに、この“鼎”は姫君の為にっ!」
闖入者はそう言って、
……なるほど霊力の宿る。
かなり短めの木剣を、
あたくしへと差し出していた。
ですが男の子?
先ずは名を名乗るのが、
照る道理でしょう?
「失礼仕り候。それがしの名は、『…… ……』で御座居ますっ!」
………………
…………
……
あたくしの空への闖入者達。
どちらも憶えやすい特徴的な音色。
あたくしに恥を掻かせてくれて、
心を吐きそうな程揺らしてくれて。
どうも有難う。
こんな気持ち、
生まれて初めて味わってるわ。
そうよね?
空は曇るし雨も降る日だってある。
あたくしの願いはただひとつ。
あの、
雲のように風のように。
穏やかな空を取り戻す事。
それが、
あたくし、
星野 清夜花の、
入学式前夜の、
誓いでした。
あたくしはあなたをにくんでいるわ
歌 佐野量子 作詞 真名杏樹 作曲 釘崎哲朗 編曲 山川恵津子