第33話~前夜~「愛してる」
僕は病院で、
手術室清掃のアルバイトをしている。
時給は良い。
だから選び。
面接を通り。
仕事を与えてもらえた。
手術室の清掃は、
言葉は悪いかもしれないが、凄惨だ。
院内感染に充分注意して、
もうひとりの男性のパートナーと、
時に別れ。
時に協力し。
ひとつひとつこなしていった。
働き始めて幾日が過ぎると。
僕の上にあたる人が。
新人さんが入ってくるよと、
教えてくれた。
また、
その新人さんは美人の女性だよとも教えてくれた。
僕も男だから美人と聞くと、
ぼんやり良かったなって思う。
僕はもう二十を越えているのに。
女性経験が全く無かった。
いわゆる。
ファーストキスもまだだった。
どんどんみんなに先を越されて、
多少は焦るが、
不思議と僕はそれで良かった。
アダルトなものに触れ。
自分を慰めていれば。
それで良い気もした。
なぜなら僕は、人に触れられる事に、
嫌悪すらもよおす人格だったから。
キスなんてとんでもない。
恋愛なんて行き着くところは性欲だ。
僕の醜い身体を、好きな人に見られたくないし。
愛なんて存在すら知らなかった。
新人さんとの顔合わせで、
打ち合わせ会議の扉を開け、
君の瞳と。
僕の瞳が。
扉を開くまでは。
………………
…………
……
傍らに君。
僕は君に、
「愛してる」
君はんーんと首を横に振るね?
僕もそんな自分に残念な気持ちになる。
愛はまず行動で示さなくちゃ。
告げる資格すらないと、僕は想う。
でもいつか成し遂げたい。
僕の仕える君が、
「善し」
そう首を縦にしてくれる事を。
僕が僕であるもの全てで、
魂全てを君への愛で満たしたいんだ。
ありがとう、愛してる
そして微か笑んでくれたなら。
小賢しくお願いするんです。
「僕とまた、出逢って下さい」と。
明日僕らの愛娘は、
この家を発つ。
想う事……、
「自由に翔び謳え、高き鈴、凛と音鳴らし」
ぼくはきみをあいしています
歌 高鈴 作詞 山本高稲 作曲 高鈴 編曲 伊藤ゴロー