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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第32話「光るなら」

 貸コンテナの一件から数日が過ぎ、


暦は四つを迎える。



2016年四月一日金曜日先勝。



 私立普通学園入寮まであと五日。

早い人達。

清夜花さんはもう入寮を済ませて、

生活しているはず。


私は寮生活の支度を順調に終えていく。


あたしの胸をふくらませる、


普通学園には大原則があります。


 それは、



「自由」な校風です。




ですから逆に服装には悩む。

普通学園には指定の制服がない為です。


 それでも、

お父さんの言葉でそれは解消されます。


「自由とはこれまた突き詰めると、孤独にもあたる。捧華? 人とは和をもって接しても孤高であれ。僕ができてないのになんだけれど。自分を処す事のできる人間になってください。他者の自由を尊重し、して頂きなさい。人は意思というひとつの玉です。始まりの突く意思は、どうしたってぶつかる。それで強弱、メリハリ、バランスを心見なさい。捧華の方が逆に学園の自由を試みたっていいんです」



 よしっ目一杯お洒落しよ。



あたしは、買ってもらったトローリーと荷物をいじり。

お母さんは、ガラス細工を作り。

お父さんは、いつもの御本執筆。


 時は、


穏やかに流れていた。




ピン♪ ポン♬




このインターフォンが鳴るまでは……、




………………

…………

……




 来訪者は、




爆弾様とこよのさまです。




「突然にどうもすみません♪ 捧華さんのお母上ですかぁ? お若くて綺麗な方ですねぇ♡ 申し遅れました。わちは捧華さんの友人の、常世 祷です。これつまらないなんて言ったら、某所からお叱りを受ける程、美味しい和菓子なんです♪ よろしければ、皆さんで召し上がって下さいませ」



穏やかな日常は破られました。



夜の祓いの時とは、あからさまに異なる口調。


これから何が起こるか油断はなりません……。




 両親は瞬時に、

ある一定の理解は共有しているはずです。




なんだって話せないじゃないですか。

陰陽師の夜の事。

こちらの爆弾様、

心身ともにお綺麗なんですもの。


 父がみっともなく、

自分の気配を消そうと、

努め始めているのが、

なんとなくあたしには解る。

それは……、

親子だから?

それとも、

女の勘と呼ばれるものなのだろうか?


 しかし、


お父さん? それどうでしょう……。

一家の主の臨むべき態度でしょうか?

お母さんはそれを感じ、まずまず好印象の様子。



……お母さん? それ、いいんだ……。



 あたしはどうかと思いますが、

お母さんがそれでいいなら、

ふたりは、それでいいんでしょう……。


 お母さんの声音も他所行きに、



「あら? 綺麗な娘さんねぇ♪ 手土産まで下さって。なにもないところだけれど、良ければお茶でも飲んでいって?」



………………

…………

……



 四人座りのテーブルに、

母、爆弾様、あたしが座る。

上座下座に迷いましたが、

今は落ち着いている。

本当はもう一席あるといいのですが、

その余裕がお家のダイニングにはない。

四人座りだから当然一席空く。


爆弾様は、そこを突く。


「あら……お父上はご不在ですかぁ? わち入学のしおりを読んでがっつりとした、こひなた先生のファンなのにぃ。とっても残念ですぅ……」


 あ、あたし……どうしたらいいの?

ここは沈黙は金の一手です。


「ああ。そだね。常世さんには、夜の祓いで、捧華がお世話になってるし。面通しは礼儀だね。ほほほだんな様来やがってください」



瞬時に父のお部屋が凍りついた気がしました。



お父さんは少し声を張り、


「う、うん。もう少ししたらいきます」



理由はトランクス一枚だからですけどね……。

……まだあたしは肌寒いくらいなのに……。



………………

…………

……



 上下七分丈と羽織りの装いで、

お父さんはやって来て、

爆弾様とご挨拶を交わします。



爆弾様の表情は何処かしら輝いて、


「こひなた先生。お会い出来て嬉しいです。わちは常世 祷です。あのしおりって、元ネタは某漫画へのオマージュですよね? それを感じさせつつ、独自の世界観を構築していらっしゃる。大変感銘を受けました。嗚呼、わちも普通なんだって、喜びに溢れたんですっ♡」


 う……うん、そ、その辺にしといてください爆弾様?

お母さんのデフコン5が危うくなってきましたよ?


「うんそうです。少し前の名作漫画だけれどよくご存知ですね。申し遅れました。僕の名は……」


彼女は静かに首を横に振り、


「早水家の皆様、久遠之焔とても助かっています。大抵の昏い子が発明ポラロイド、『朋礼ほうらいくん』で、還ってくれるようになりましたから。それにしても捧華さん。見違える程霊格が上がりましたね。出会った頃は、お姉さんを気取ってしまいましたが。わちも精進せねばなりません」



 多分生きて死に生きかえった、

あの夜のお陰故のお言葉なのでしょう。



「わち年頃近い女友達っていないんです。ですから、今の捧華さんになら、こちらからお願いしたい。捧華さん、わちと仲良くしてください」


 魂が綺麗になびく、


「常世さん……、はいっ、喜んでっ!」


彼女はほんの少し照れくさそうに、


「友達……いえ、好敵手ライバルなんじゃから、祷でいいち。わちも捧華って呼ばせて?」



 魂が震えて、あたしの胸を焦がす。

あたしは差し出された手をしっかりと握る。



ふたり「よろしくっ!」絆ぐ。




 すると……、




入学のしおりからの連想で、

あたしは想い出した。

それはお父さんの御本の書き方の秘訣の件。


会話の流れを切る唐突さで、

つい訊いてしまいました。


「……そういえば、お父さんの御本、あたしとっても大好きなの。だからお父さんの御本の書き方に対する姿勢なんかを知りたいのです」


祷も食いついてくれて、


「わちもぜひ、しおりだけでなく他の作品も拝読したいです」


お父さんは、

余りにも突然、



「あ~やはり倖子君は、せかいいちの美人様ですな~」



 あっ!? うんごめんなさい。

お父さんよく解るよ。

お母さんを空気にしてました。


お父さん格好悪いの突き抜けて、

格好良いにまわりました。


「よろしい野暮な心也君? ふたりのお綺麗なファンの方々に、教えて差し上げたまえ」


 つくづく……、


面倒くさいなこの夫婦。


「はい……そうですね。僭越では御座居ますが、僕は先ず、なんで僕は物語を打ち込むのだろうって考えてます。それは結局、僕の君への恋文ラブレターです。せかいに自分一人しか居ないせかいを想うと、僕はそこに物語なんてある必要はないって考えてしまいます。それにそのせかいには言葉すら生まれないでしょう。歴史。先人の連綿たる壮絶な愛憎の物語。道があるからこそ、物語は存在する意味があるんだと想います」


「それでこその『もじ こひなた』、『げんさく みんな』なんですよね」


と、


祷の恭しささえこもる声音。


一方、


お父さんの顔色はしみじみ穏やかです。


「そうです。わかってくださって、有難いです。その若さで。嬉しいなぁ……。そうです。責任の所在をはっきりさせる為だけに、『もじ こひなた』は在るだけです。しかし『我以外皆我が師』。原作はみんなの物語いのちです。倖子君、捧華、常世さん、君達が僕に教えてくれたんです。このいきかたを」


 そこでやや間を置くお父さん。

もしかしたら、お父さん自身も、

何かをその心に染み込ませていたのかしら。


「二人羽織りというものがあります。ふたりでひとりの芸です。僕は限りの無い羽織りの中に、その身を置いています。先人が背中をお見守り下さり、僕は心身を委ねるだけです。そして、後人のわずかな礎になれたら嬉しいんです。御神様はとっくに御承知の赤ちゃんにも劣る。精一杯の作文をいつも提出し続けるんです。『かみさまっ、がんばってかきました。どうですか?』と」


そこで場は和やかな静寂が降りて、

最初に切り開いたのは……、



「あ~私のだんな様も、

た ま に は善い事言うかもしれないな~」



これでも、

励ましてくれているんですよね?



あたしは祷と、




くすっ♪




………………

…………

……




 夕げの頃合を計り、

帰ろうとする祷。




「今日は、突然お邪魔してすみませんでした。こひなた先生、お母上様。とても勉強になりました」


お父さんは丁寧に頷いて、

お母さんは、


「うちの娘をよろしく!」



 それから……、



祷はあたしに柔らかな声音で、


「捧華? これよかったら受け取ってほしいち」


奥ゆかしい所作で、

上着のポケットから袱紗ふくさを取り出す。



承けて開くと、



………………

…………

……



 まぁ……、



おそらく絹。

白い絹に、

日の丸の鉢巻。


「捧華が、不安じゃったから用意したんじゃが。見違えた杞憂だったち。これじゃ宿敵に塩じゃち。わちも成長はしとる。これからよく磨きあおう。その鉢巻きには守護と、治癒の祈りを施してあるち。大切に使ってもらえると嬉しいち」



 ……そんな……、

……あたし……ダメだよ……ダメだよ……、



「あたし……祷に返せるものがないよ……!」


「捧華にはこれからでいいち。これはこひなた先生が下さった、普通のわちの感謝じゃ」


………………

…………

……


 そうして、


あたし達に見送られ。


好敵手いのりは夕日を背に、


町中へと消えていきました。



 お父さんは、



お部屋に戻ってから、




たった一言を、




あたしにくれた。








「“情けは人の為ならず”」って。


 あたしはえがたきともをえた

このはちまきにちかう

せいじつなしがつばか

歌・作詞・作曲・編曲 Goose house

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