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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第29話「世界が終わる夜に」

 お父さんは支度を、


早々に終えていた。


 お昼の件の所為か、

服装は大人しく全体的にシック。

羽織りにはロングカーディガン。

首にかけている太陽をかたどった、

懐中時計が印象的。


 あたしもお父さんから

「楽な服装で」と言われたので。

下はサルエルパンツ。

上はなるべくゆったりめのスウェットパーカーで、

お父さんについて玄関へ。


頭には当然日の丸鉢巻き。


見送るお母さんが一言。


「捧華、あなたが負けるはずない。頑張ってこいよ」


 あたしはわずかな不安をかき消す為、


精一杯に元気に、



「お母さん、いってきますっ!」



 そして、



お父さんと視線を交わして、




座頭を交換した。




………………

…………

……




 菜楽荘の辺りは、

もう夜が降りている。

虫さんや様々な生き物さん達の、

オーケストラを聴きながら、


“壁”を巡らす為に思う。


“第四の壁”は、僕には恒常的なものです。

ですから、“壁”の向こう側を常に意識する。

こと創作に関しても、非常に便利な能力です。


三月ももう終わる。

四月には、

愛娘は社会の縮図に加わる。

捧華に覚えてもらいたい事、




それは、「死」です。




 先ずは一手。


「捧華? 早速だけれど、せかいの果てまでの質問をするよ。捧華は『全能の逆説』を知っているかい?」


 捧華の表情で発する言葉は、

予測できました。


「……、お父さん、知らないので教えて下さい……」


僕はより端的な説明の仕方に思惟する。


「……基本的な問題はこうです。『全能者は自ら全能であることを制限し、全能でない存在になることができるか』……捧華はどう思うかな?」


彼女は綺麗な即時の応答。


「できる。

……捧華はそう思います」


僕は少し昂揚して尋ねる。


「どうしてそう思うんだい?」


真っ直ぐな瞳で彼女は僕を見る。


「だって全能とは、全てできるって意味だと理解していますから……」


 こわい言葉だね。

捧華の言葉の深さは、

僕ぐらいでは読み切れない。


 しかし、



「うん。お父さんもそう思っています」



ひとつ安心を得ました。

それでも油断は禁物。


 ……ですが、


思った以上に早く、



捧華に命綱を結ぶ事ができる。



なぁ……


なぁ…………


なぁ………………


捧華?


せかいとは捧華にとってなんだい?



「お父さん、捧華に伝えておきたい事がある。捧華? これから先、これより先、捧華が何処へ行く事になっても、僕は捧華を探して見つけてみせるよ。倖子君、そしてその結晶の双子に捧華を。僕にとっては、暗闇の中に唯一光る道標みちしるべだ。お父さんは弱い。弱さを突き抜けて強さを得た。でもどうだろう。君達が居てくれるからこその強さだ。君達の輝石が唯一僕を照らすものだ。お父さんには親姉兄おやきょうだいが居る。父は既に亡くなったが、思い出は消えない。母に背き姉兄に背き今が在る。ひとつの後悔が数多の後悔に繋がり、もう取り戻せず、感覚も麻痺してきた。それでも、とても大切な人達。こんなお父さんを、今でも愛してくれている、大切な家族です。僕の創るものは倖子君ありきです。それだけが、みんなに有難うを伝えるただひとつです。これは今夜の捧華の為の命綱だよ。僕らはね? 捧華? わかりあえても、わかりあえなくても、絶対に絆いでいる。僕は今夜、捧華にそれを証明する。捧華が、大好きだと言ってくれるお父さんに今夜はついてきてほしい。捧華を、今を精一杯謳う鳥にする為に」



 彼女はへんてこな顔ひとつして、

それからなんだか笑ってる。



「お父さん? なぜなにそんなに深刻なのですか!? 捧華今までもよくわかってるのですよ? お父さん達はみんな優しくて……」







と、

間入まいり捧華の声を摘み取りつつ、


「“瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ”」


僕は自然に歌えた。


「捧華、“一期一会”を、どうか覚えてください。そして、捧華? 生き残れ」



 互いの気が合い、

相殺された形になりました。

沈黙が僕らに寄り添います。

生き物のオーケストラは今は聴こえません。

外灯またたく町中に、

その身ふたつあるからです。


捧華と僕。


互いが沈黙で繋がり。

手と手も繋がっています。



 そのまま十分ほどで、



目的地に着きました。



 僕は沈黙を、







と開き、


捧華に告げます。



捧華は眠っているんだろうか?

それとも起きてくれているんだろうか?


 さぁ……、捧華や?








「せかいの終りへ入ろう」



 これはぼくのせかいのおわり

きみはおきてる?

それともねむってる?

歌 チャットモンチー 作詞 福岡晃子 作曲 橋本絵莉子

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