第22話「花かんむり」
どこにでもありどこにもない場所。
それはひとつ。
観測者誕生を待つ。
境界なのかもしれません。
そこにひとつ、
こんな喫茶店が看板を出しています。
【喫茶・COVO】
「物語の終わりと始まりの仕合わせを、どうぞご一緒に♪」
オカシイですよね?
ですが、
現実には、
矛も盾も、
同時に存在しているのです。
店内は薄暗く、
間接照明がいくつか。
古めかしいテーブルに、
広く大きく柔らかそうなソファーも、
いくつか設えてあります。
背景には、絵画と音楽。
そこはかとなくコーヒーの美い香り。
少しへんてこがあるとすれば、
花々で彩られたハンモック。
おそらくの住人達は、
そこでお休みの最中。
……おや……?
観測の存在を繋ぐ、
一人の女性が、
花々のハンモックから、
こちらを覗いています。
瞳は【せかい】と【せかい】を、
絆げる扉。
女性は優雅に降り立ち。
典雅な御挨拶。
「ごきげんよう。私は、この店の主D'arcy EndBookですわ。私は扉が開かれた時に起こり、結びを終える時、眠りに就くの。さぁお客人? 興が乗らば、輝く星座に想い馳せ、お茶会でもいたしましょう?」
店内上空は吹き抜け突き抜け、
広大な星々が調和しながら、
覚えている人が居ないくらいに、
静かに瞬いています。
頁をめくる音と一緒に、
ひとつの疑問が降ってきます。
『あなたはだぁれ?=わたしはだぁれ?』
いつか神様に出会えたら、
お尋ねしてみてもよいかもしれません。
………………
…………
……
あたしはマニとの演奏を終えて、
三時のおやつを食べる。
本日は、お醤油の厚焼き煎餅。
お母さんとともに、
キッチンすぐそばのテーブルについて、
お話しを楽しんでいる。
「お母さん? このお煎餅とっても美味しいのです。いつも有難う」
お母さんはにやり。
その表情には何処か、
してやったりが見え隠れ。
「だろぉん♪ ふふふ私の眼に狂いはない。よく噛んでお食べ?」
あたしはお煎餅を食べる度に想う事を口にする。
「捧華は西洋菓子も好きですが、この厚焼き煎餅の無骨しかして洗練。“質実剛健”を想うと、日本の素晴らしさを想う事しきりですよ」
ちょっと吹き出すお母さん。
え……今格好いい事言いましたよねあたし?
「あなたは一体幾つのお人だよ? でも私は嬉しいかな。そうだね。お煎餅って日本を体現する、誇りを持てるお菓子のひとつだね」
そうお母さんと会話を楽しんでいると、
お父さんが、
自室から出て来てあたし達に、
「できました」と告げた。
あたしはニコぱっ☆
「できました」つまり、
お父さんの御本の新作です。
「お父さん?
今回の御本は、
どんな感じのお話なのですか?」
お父さんは、
きっとあたしが興味を持ち易い様に
言葉を考えてくれている。
「……小さな魔王様に立ち向かう、小さいけれど、とても賢い女の子のお話です」
すかさずお母さんに、
お願いの目線を送ってしまう。
お母さんは右手をひらひらさせて、
「良いよ」。
これであたしは、
お父さんの御本の最初の読者になれた♪
お父さんは優しげに、
「捧華、有難うな?」
右手であたしの髪を愛してくれて、
左手で御本を渡してくれました。
その声音の優しさは、
何処からやって来たものなのでしょう……。
「その代わり倖子お母さんは、今から僕が独り占めです」
お母さんは徐に、
「そう言えば、今日はスーパーの特売日だ。だんな様と行ってこようかしら?」
少し恥ずかしそうにそう言う。
お父さんはその言葉を承り、
「お仕えいたします♪」と、
姫君に恭しく接する。
それでもそれから、
ふたりは口酸っぱく言ってくる。
「誰か来ても出ちゃだめよ? 鐘の音みっつで私達だからね?」
あたしを……まだ子供扱いする。
………………
…………
……
あたしは、
お部屋でゆったりとしながら、
御本の表紙をまず拝見。
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OTOIROEHON
♪Happiness is here♬~しあわせはここにあります~
もじ こひなた いろえ じょにー
げんさく みんな
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………………
…………
……
それから表紙をさらりとめくり、
物語の始まりです。
………………
…………
……
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「その花かんむりは、あなたのものです」
おしまい
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………………
…………
……
……おや?
物語は始まりの頁で
終わってしまっている。
ん? どうゆうことかしら?
しあわせはここにあります
わたしのむねにたいせつにしまってある
はじまりはおわりでおわりははじまり
歌・作詞・作曲・編曲 新居昭乃