第19話「愛が生まれた日」
窓を開けたらドッピーカン♪
御天道様、
有難う御座居ますっ!
今日は三月三日雛祭り、
と同時に……、
あたしの誕生日でもある。
前夜、
お父さんお母さんは言いました。
「捧華? 明日は捧華が生まれた幸せな日だよ? だからね? お父さんとお母さんは捧華に明日だけは、なんでもひとつだけ、買ってあげたいんです。プレゼントフォーユーなんです」
で、でジマですか!?
あたしのその時の当惑といったら……。
なんて有難い日なのでしょう……。
……って、……でも、
「お父さん? ……コンお兄ちゃんやポップお姉ちゃんのプレゼントの時はどうしたの?」
お父さんの顔はなんだか難しそうです……。
「うん……、僕も悩んだんだけれどね? 第四の壁経由で、コンちゃんには『盾』を、ポップちゃんには『刀』を贈っておいたよ。……地球からまだ満足に出られない、未開人の武器と防具が、彼や彼女に、どれだけ喜んでもらえるかは、謎だけれど」
「心を込めた感謝の手紙。心也君はなっとらんっ!」
お母さんの凛とした声音に、
お父さんは「あぅぅ……」と沈んだ声を絞り出す。
いつもの事と言えばいつもの事です。
ですから尻目に、もうひとつの疑問。
「お父さんとお母さんたちはいつも何を贈りあっているのですか?」
場に漂う空気がさっと変わり、
そして、
あたしはこんな両親の空気を知りません……。
家族だけでも、
その世界はまだまだ知らない事だらけ……、なんですね。
両親声音重なり……、
「無理をせずにその時の、より善いものを」
………………
…………
……
そんな訳で、
今は菜楽町をバスで越えて、
商業施設に来ている。
あたしの目的地はただひとつ。
モール内にある楽器屋さん。
実はお父さんは、
昔バンドを組んでいて、
パートはドラムだったらしい。
それを教えてもらった時から、
いつかお父さんの隣でベースを弾く夢が、
あたしには生まれていた。
お父さんは、あたし達の真ん中、
お母さんとあたしの手を繋ぎ、
一家の大黒柱らしく、
先導をしてくれている。
徒歩とエレベーターで、
施設内を十分程度移動して、
楽器屋さんには到着できた。
お父さんとお母さんからの、
眼線での促しを受け取ります。
そう、
ここから……、
降りて言の葉、
「ささげフルドライヴ」
感覚は突き抜けて、
あたしは存在の震えて響く、
音を聴く。
ベースとアンプ売り場を、
慎重に何度も往復して、
あたしに共鳴するものが、いくつか見つかる。
それをフルドライヴ継続で、
丹念に感れ。
縁は導き出された。
お父さんへ、
決めたベースを伝えると、
「好いベースを選んだね。僕のお陰と呼ぼうか僕の所為と言うべきか……、店員さん呼んでくるから、フルドライヴで音出してみなさい」
しばらくして……、
あたしは試奏の許可を得る。
恥ずかしくてもあたしは初心者。
調律は、
店員さんにして頂くしかない。
でもでも、あと……、
「お……お父さん? もし良かったら合わせて、そちらの電子ドラムを叩いてくれないでしょうか?」
「…………、今日は、捧華の誕生日だからね? 大サービスだよ?」
そう言って、
お父さんは店員さんに頭を下げて、
電子ドラムを調え始めました。
そして、
多少の間から、
リズムを刻み始める。
多分これは、
8ビートというもの。
あたしはベースを掛けて、
今もフルドライヴの最中。
少しずつ様々な約束事が、
心身に浸透し始める。
ドラムのバスとベースラインが響きあうと、
音楽とはこんなにも心地良いのだと、
本当に想える。
それ……でも、
「……お父さん? オカズ入れてなのです。ずっと単調な8ビートじゃ、つまらなくなってしまうのです」
お父さんは8ビートを保ちながら、
あたしに話しかけます。
「捧華? ドラムの大切のひとつは、正確なリズムを、仲間の立つ足場を、しっかりさせる事です。その場で思いついたフィルインを入れたり、調和を自分勝手に激しく揺らす事はあまり好くない事なんだよ。即興演奏家にしても、ただそれまでに血の滲む程反復して積んだ研鑽を御披露していらっしゃるだけなのです。僕はもう十年以上ドラムに触れていません。ガッカリさせて悪いけれど、これが今の僕の限界なんです」
確かにガッカリしてしまった。
それでも多分、
間違っているのは、あたしだとも思えた。
「捧華に伝えとくと、僕の、ドラムという楽器に対するスタンスに、『叩く』という項目はあまり入れたくありません。どんな楽器も最終的には、歌える事が目標です。叩くよりは鳴らす方が、鳴らすよりは歌う方が良い」
………………
…………
……
試奏で十分を過ごし、
あたしは決断します。
お父さんと一緒に、
店員さんへ試奏の御礼と
購入のお伝えをいたします。
それから、
お母さんの言葉で、
「ほら? 決まったんならさ。お会計済ませてカフェで一休みしようよ?」
会話は一旦終着に導かれます。
お父さんは小型のアンプを、
左手で持ってくれる。
右手は、あたしに繋ぐ。
あたしはベースカバーを左肩に背負い。
その中にはチューナーも、
シールドもピックも入っています。
左手はお父さんへ、右手はお母さんに繋ぎます。
お母さんは、右腕が手ぶらで、
「ではゆこー♪」
と右手の拳を握り、
前に出し。
ショッピングモール一階にある、
カフェへと鬨の声をあげました。
おんがくはけっしてみみざわりであってはならない
むしろみみをまんぞくさせたのしみをあたえる
つまりつねにおんがくでなくてはならない
歌 藤谷美和子・大内義昭 作詞・作曲 秋元康 羽場仁志




