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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第15話「Hungry Spider」

 僕は、腹を空かせた淘汰待つ蜘蛛。


………………

…………

……


 いよいよ捧華の中学修了が見えてきました。


本日は、国語を修了できる見込み。


愛娘は、



芥川龍之介氏の『蜘蛛の糸』を読み耽る。



「……う~ん……納得できないのです……」


そう……だね。

僕も以前は葛藤した御本です。


「どこに納得できないのかな?」


いやはやと愛娘、

どことなく脱力さえ感じる。


「どこって……、まるで救いが無いじゃないですか!? それは、きっと御釈迦様が一番悲しんでいらっしゃる。……でしょうけれど、誰も救われない物語に、唖然とするしかないのです……」


 そうだなぁ――今日は少しおもむきを変えてみよう。


「……そうだよ捧華? 人は何人なんぴとたりとも救われない。誰も幸せにはなれないんだ」


捧華はただちに茫然自失とする。

捧華? ポーカーフェイスを覚えようね?

僕も苦手だけれど。


「そ……、……そんな事ないのですっ! 現に今捧華は、お父さんお母さん、あんまり会えないけれど……、お兄ちゃんお姉ちゃんが居てくれて、幸せなのですっ!」


 うん。また親孝行有難う。

全てへの感謝は忘れちゃ駄目だ。

負うた子に教えられて浅瀬を渡る。

僕にだって役割はちゃんとある。

落ち込む事はない。


「それはまだ、捧華が放つ光輝さんが生まれたてだからだよ。傍にいつも寄り添ってくれている暗闇さんと、うまくお話ができていない部分があるからなんだ」


捧華はおずおずとなってしまう。


「じゃ……じゃあ捧華、……あたしも結局は地獄に落ちて、カンダタさんや罪人の様に刑罰を受けるのでしょうか?」


答えは大別ふたつ。選べる仕合わせ。


「捧華? 全てはね? 仕合いと仕舞いの仕合わせだ。“一期一会”。その有難き仕合わせにどこまで深く感じ入る事ができるか。それがせめて、……いや、大変有難い倖せです。捧華? 人は十人十色で、言の葉は生き物です。人に教えを請うという姿勢はとても大切だけれど、その間、捧華はそのお相手の言の葉の檻の中へ入ってしまっている事を、どうか忘れないでほしい。お父さんの喜びのひとつは、成長した捧華の、新たに檻を突き破った地平。そのさらなる彼方で次の扉へノックし、目を瞑る事なんです」


捧華がみるみるか細くなる様子。

こ……怖い事じゃないんだよ?

みんな同じ。

生きて死ぬんです。

朝起きて夜眠る様に。


「お……お父さん、なんでそんな悲しい事を言うのですか? あたし成長していく事が怖くなってきたのです」


これは……深く言い過ぎたな……。

どうしたら調えられる。


「……捧華、全ては連鎖です。僕達は命を毎日毎秒殺して生きている。だから、その一端をきちんと担いましょう。そして、覚悟を決めて、一隅を照らすなら、僕らはまた、果てしなき輪廻の流れの果てに、幾度でも、仕合わせと倖せが、頂けると想います」


もしも捧華を檻に入れてしまったとしても、

僕は大切に触れてみせるよ……。

本意はそこにはないけれど。


「……『幸』とお母さんの『倖』と『仕合わせ』って、どこが違うのでしょうか?」


「うん、あくまで僕の仕合わせとは、礼儀と礼節を肝心とする。出逢いと出会い。岐れと別れだね。幸せに人偏はつかないだろう? 君に巡り逢えたから、僕は倖せなんです」


「……そうなんだ。お父さんから受け取る感じだと、『幸』せが一番小さな事なのね……?」


僕はそうだろうね。


「うん。小さな幸運が仕合わせの糸になり、君と僕を紡ぎ温める倖せになったんだよ」


 それではここから、

またまわして見てみましょうか……。


「捧華、御釈迦様の尊顔を笑顔にして差し上げましょう? ここは血の池地獄だぞー。痛いぞ。苦しいぞ。でもあら? 天上から救いの糸が。僕らは、どうしようか?」


愛娘から逡巡を感じる。


「い……いえ、どうせ切れるって知ってるから、登らずに見てるのです。……お父さんはどうするのでしょうか?」


う、うんまー正解なんですが、付け足し。


「そうかぁ、では蛇さんに足描いちゃおう。僕は天上の御釈迦様に、『皆様が登り終えたら、登ります。謹んで申し上げ奉る』そうお伝えするんです」


狼狽えを見せる捧華。

捧華? 僕が正しいんじゃないよ?

最善はなく、より善いを目指しましょう。


「……い……いえいえ、どうせ切れるのですよ?」


「御釈迦様はね? きっと人一人の幸せでは、動く事はなさらない。同時にそれが天上の正体のひとつと想います。僕は今のところ、誰に地獄だと忌憚され様とも、突出した不平不満は持っていないよ。2+2=5と同じ。天国も地獄も、くるりと円すのさ。山だったものが谷に、谷だったものが山に。そうすると座るべき場所を、天上天下が御用意して下さるんだ。そして心身が自然なら、そこに正しく座せる」


「お父さんは天上天下の御声が聴こえるのですか!?」


吃驚愛娘、お家は一軒家じゃないからね?


「捧華? 僕はただの捧華の父親です。人の身には完璧も完全もない。この言の葉の檻にすら、それはない。でもだからこそ自己を守る為に、理論武装する。それにしたって、どんな理論も論理も全知全能が否と言えばそれが正しいんです。……もう一度逆さに教示するなら、人の言う事など聴かなくてもいい。それが、もしも凶と出ようとも、笑って舞う、自由を謳う鳥になってください」


………………

…………

……


 君は僕を……、

魅了してやまない美しいてふてふ



いとをかし。



この身が朽ちたなら、


きっと僕も、


待つのは飽きたから、








君を迎えに行く。



 ゆっくりちゃくじつにレースにかつ

よくねむれましたか?

ここもゆめのなかですけどね

歌・作詞・作曲 槇原敬之

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