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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第161話~幕間~「もうひとつの土曜日」

 2016年四月二十三日土曜日先勝、

午後十時頃、虚鏡門こきょうもん聖域にて。


 おや……? 僕が座頭に?

……捧華が眠れたみたいですね。良かった、休んでくれて。

いつも情けない僕の事を心配し過ぎて、

捧華の心身に負担を掛けていたら、本当に申し訳なくなる。


「どうしたの? 心也君?」


倖子君には……隠し事はできませんね。


「はい、捧華が休んでくれたみたいです」


 すると、今まで僕と君が繋いでいた手と手が、

一層のぬくもりをおびて感じられました。


「……そっか、それは一安心ね」


「はい」


 虚鏡門の中へと入り、もう二時間程経過している。

けれど、僕らにできる事と言えば、手と手を重ね、

久遠之焔くおんのほむら”を結ぶ事くらいしかありません。


「あー楽だなー」


「かはは、全くその通りじゃ」


 僕と倖子君を、前方で守護していただいている人物、

雁野 空蝉先生と川瀬 美代子先生の、

安穏とでも表現したくなる声音が聴こえてくる。


「……あの、先生方?

森の門番とは、

いつもこのくらいの穏やかさなのでしょうか?」


 ここまで何も起こらないとは思っておらず、

僕は先生方に問い掛けをする。


「あー、なんてーかこの森は、入った者の心を映す鏡の様なものなんよ。

早水ご夫婦には、迷いがない。

だから森のセキュリティ……、いえ、通過儀礼イニシエーションが適当ですね、

も、すんなり終わり、

森自体も濁らないってー訳なんよ」


 すかさず倖子君、


「ですが、私達の娘や、その友人達は、

ここに命を懸ける可能性がある訳ですよね?」


 倖子君の声音からは、どことなく、

両先生方への叱責めいたものすら感じる。

けれど、仕方ないとは思う。

なぜなら入学当初の学園側の説明に夢降る森の件は入ってなかったか――、


らっ――!?


「――神代学園長……?」


 神代学園長が手と手を繋ぐ倖子君と僕の目の前に瞬時に立たれていた……。

遍在…………か……? ビックリした……、


と、ほとんど同時に、魂の双子も僕らをかばう様に現れる。


「コン、ポップ!?」


 神代学園長と魂の双子が対峙し、

三人は何事か、数瞬大気を震わせたかに覚える。

推測に過ぎないが、

それは三人の、

なんらかのコミュニケーション手段に思えた。

その後、コンとポップは倖子君と僕に振り返り、僕らの瞳をジッと見つめ……、


そして、


「そう、あなた達がそうするなら、私はもう誰も責めないわ。

神代学園長や川瀬先生、雁野先生をまだ信じられなくても、

あなた達の事は、お母さん、信じているからね。YESそれで良いわ」


 てへっ♪ ふふっ♪


 ふたりは倖子君の言葉に安心してくれた様で、

また瞬時にここではない何処かへと姿を消してゆく。

忙しないな……、ゆっくり話せる時間が欲しい。


「頼りにしていますよ、早水御夫妻」


 そう神代学園長からも、

僕の心身全てをうねらせるような大変力のこもったお言葉をいただき、

僕ら夫婦は丁寧にお辞儀をすませ、

神代学園長もお姿を消失させた。


………………

…………

……


 それから、午前二時頃まで先生方と僕ら夫婦、

和歌市の有志の方々と聖域で各々の能力を行使しながら談笑している時に、




「それ」は、来た。




 兆しは、月明かりのかげり。

僕は月が雲間に入ったのだとつい空を見上げたら、「それ」を見てしまった。




 僕を一点に貫く、

覇気の込められた、

十数もの人とは異なる巨大な瞳を……!




 僕は瞬時に殺されると覚った。

っ――だが踏み止まる!! なぜなら隣には倖子君が居るからです。

何もできなくても、

守り抜く意志まで踏み潰される訳にはいかないのですっ!!

倖子君のお陰で僕は思考を取り戻せた。

その内に周りの声も覚えられる様になり、ひとりの有志の方のお声が耳に留まる。




「クラス・九頭龍、神格。皆、安心召されよ。

今日参られた早水御夫妻の旦那様に御用があるのだそうだ」




 よくよく周りを見渡せるようになると、死ぬ程戦慄していたのは僕ぐらいで、

ほとんど皆様緊張していらっしゃらない。

なんだったんだ僕のあの覚悟は……。

それにしても……、九頭龍……様? あの九頭龍大神様が僕に御用……?


………………

…………

……


 九頭龍大神のお身体は、

およそ地上に生きる生物では、まるで比肩しうる存在がいないだろう。

おそらく以上を探すのであれば八岐大蛇の時代まで遡らねばならないはずだ。

聖域に深く厳かな九頭龍様の音声が響き渡る。


「……ぉお……おおうつけめ……

……まだいかされてはおるようで……まずはよい……」


僕は自然と両膝をつき、有り難い大神のお言葉をひたすら承る。


「……おおうつけよ……そちはおろかだ……いのちをかろんじるな……」


僕の胸中の奥底まで看破されているのがよく伝わってくる。


「はっ」


「……ときがおとずれればせいめいはひとしくしす……

……そちはどがすぎたうつけゆえ……

……あのやまやまにすまうものどもからのしんげんとうけとめよ……」


「大神様のお言葉、有難く頂戴致します」


「……そちのあゆみ……ゆかいであった……ときがゆるせば……

……またおとずれるがよい……」


「畏まりました」


 たったそれだけを残され、

九頭龍大神様は現れた時と同じく忽然とお姿を隠された。


………………

…………

……


「で? 心也君? 私に何隠し事してんのかなー?」


ぅぅ……、九頭龍様? この問題に関してのご解答はないのでしょうか……?


「いえ、倖子君、

ただ単に以前「九頭竜」の名を冠する土地に、

僕が足を踏み入れたというだけのご縁だと思います」


「私に言えない事してたんだ?!

ふぅん……あ、そう――」


倖子君の瞳が別の意味で九頭龍様に匹敵するくらい怖い……。


「あの……色々と、現代社会において許されない旅路でしたので……」


「ふんっ! もーいいっ!!」


ぁぅう姫君がご立腹に……。


そこにスッと川瀬先生がお言葉を差し挟まれる。


「いやぁ、それにしても旦那様と違い奥様はえらく肝が据わっておるのぅ?

あの大神が恐ろしくはなかったのかぇ?」


 ぇ……、倖子君は平気だったんだ……。それは、めっちゃヘコむ…………。


「ホントによー? 奥様は何か切札でもおありのよーだな」


倖子君にはまだ何か切札わざが!? 僕、瞳術しか知らないよ……。

我が君はどことなく所在なさげになりながら、僕の手をぎうとし、

照れくさそうにしながら、ぶっきらぼうに告げる。


「別にそんなものないですよ。ただ、私には心也君がいるし、私達は――、」


嗚呼……? 嗚呼、そうだね。


きっと――、そうだ。


僕達は――……、








……ふたりでひとりだから……



 せんせいにおそわったこと

おきてしまったことは すべておきてしまってよかったこと

つぎはOD!iというものがたりでであえたらさいわいです

歌・作詞・作曲 浜田省吾

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