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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第158話~Xrossover~「BACK ON MY FEET」

「し……もし……もしもし…………早水 捧華さん?」




 その言葉が瞬く間にあたし、

早水 捧華の身を震わせた…………、




…………、明らかな、戦慄をともなって……。




………………

…………

……




 親しいとは決して言えない距離感で、

あたしは、声を掛けてきた男性と、図書館の地下書庫にて、

一旦お父さん達の本を閉じて、向き合わざるを得なくなる。




「失礼致します。何か、あたしに御用でしょうか?」


「はい。貴女が読んでいらっしゃる本を、預かりに来ました」


な…………!? 何を言っているんでしょう……この男性は……!?




……フルドライヴ?……あの人……どうみえます?……


……悪い“気”の持ち主ではない……しかし……

……捧華との実力差を思い知らせる為の間合いであろうな……


……分かりました、おじいちゃん……少し休んでいてください……


……あい解った……




「再び失礼致しますが、

何故あたしの名前をご存知なのでしょうか?」


「それはぼくが学園の関係者だからです」


心也お父さんの「僕」とは、

明らかに異なるイントネーションの「ぼく」、ですね……。

けれど……今は……、


「でしたら、ご身分を証明していただけるものを、

あたしに解る様にお願い致します」


「早水さんは、雁野先生の受け持ちの生徒さんで、

なおかつ、きるくをお持ちですよね?

館内を出てから、雁野先生へ確認して頂いて結構ですよ?」


 …………そこまで言われてしまっては、

理由が解らずとも、手の中の本を渡さねばならないのでしょう……。


「承知致しました。

それではご一緒に退館してから、そうさせていただきます。

度々失礼では御座居ますが、

貴方様のお名前を、教えてはいただけませんでしょうか?」




「はい。申し遅れました。

ぼくは、ぼくの名前は……、

風月ふづき 詩郎しろう」と申します」




………………

…………

……




 夕方五時前には、無事に退館できたけれど、

あたしの心の中は、全く穏やかさから遠のいてしまっていました。




 一番の疑問は両親です。お父さんもお母さんも、

一体どういう視点で物語を取り扱っているのでしょうか?

第四の壁への理解を深めれば、辿り着ける解なのでしょうか?


 それに物語の空蝉さんが、雁野 空蝉先生に酷似し過ぎている点。

お父さん達はOLinerラヴライナー同士だから何かあるのかしら?

お父さんももしかして、重犯罪者なの?




 あとは?……あとは?……あとは?……あとは?……あとは?




 そんな胸中で、

瑞希図書館西側の遊具のない広い芝生の公園へと、

足を踏み入れたその時、

わずかな違和感が訪れ、あたしの顔に何かが付着した。


「……っ……なにこれっ……蜘蛛の糸っ!? どこから……?」


「違います、早水さん。結界の中へ入った証ですよ。

ここならひとまず安心していただいて構いません。

深呼吸でもして、落ち着いてから雁野先生とお話してみてください」


 結界…………? いえ……そうだわ……、

お父さんとの貸コンテナの一件で、あたしは学んだはずよ……。

感情を激しく揺らす事は、「死」に繋がるという事を。


問題が煮詰まる前に、深呼吸で御座居ます。


………………

…………

……


 それから…………、

荷物の入ったトートバッグはベンチへと置かせていただき、

きるくを起動させて、

luv-lab-Phoneの専用回線で、雁野先生と通話を致しました。




「おー早水フォン?

念の為に風月先生に付いていていただいたが良かったフォン」




 嗚呼……そういえば、専用回線はフォンだったフォン……。

もの凄く脱力しました…………。

現在雁野先生の頭上にも、

薄紅色の天使様の輪があるのかと想像すると更に。

しかし――、


「雁野先生フォン? あたしの両親は無事でしょうかフォン?」


「オイラが無事ならご両親も無事に決まってんだろフォン? 

心配のし過ぎは、ご両親も胸を痛めるぞフォン?」


「……は、…………はいフォン」


「つー事だフォン。塵の様な問題もほかっておくと山になるフォン。

いつだって目の前にある小さな問題を、少しずつ解決してゆけフォン。

じゃーなフォン」


 そうして雁野先生側から通話は途切れた、


…………つまり…………、


………………

…………

……


「それでは早水 捧華さん、

こちらの本は、風の方で預からせて戴きますね?」


そういう話になってしまう訳ですよね……。


「ですが、風月先」

「残念ですが早水さん? 質問には答えられません」


 あたしへの素早い制止……あらかじめ決められていた問答のようです。


「……あたし……こんなまんまじゃ、今晩満足に休めません……。

両親にも、明日の八百万倶楽部にも、

大変なご迷惑が掛かってしまいますっ!」


「風は、風自身と貴女の心身を考慮して、この措置を講じました。

……例えば…………そうですね……、早水さん?」


「……はい」

 

「貴女にとって悲しみの果てとは、

……何かを、思い浮かべられますでしょうか?」


……悲しみの果て……? ……そんなのっ、


「あたしに良くしてくれている、

みんなの居ない場所ではないでしょうか? 

孤独ひとりぼっちそのものですよ」


「…………、「みんな」ですか……、

申し訳ありませんが……、それでは尚の事、

風は、現在・・の貴女には、この本を託す事ができません」


「……ぁの? あたし達の会話……、成立していますでしょうか?」


「もちろんです。全ては繋がり、意味を持っております。

ですからこそ、見出す意思のない言葉には、

全てにおいて何の意味もないと、風は答えます」


 ……ややこしい……、

なんだかお父さんと会話している様です……。


「しかし、学園の関係者と致しまして、

風は、早水さんの健康状態の維持へも、心を砕くのは当然の事です。

それ故、」


そこで風月先生は、左脚をほんの少し浮かせて、

すぐに浮かせた左脚を、すとんと地面に下ろされた、




 刹那っ!!!!




柔らかな爆風ばくふう――!?

とでも呼べるかぜがあたしを丁寧に吹き飛ばすっ!!

あたしは満足な受身もとれずに、

公園内の芝生を5メートル近く無様に転がって止まった。




「くっ、ぇほっ、くほっ、うぇふ――風月先生っ!? 一体これはなんの」

「運動を致しましょう」


 っ――!? うん…………どう?


「適度な運動は、質の良い睡眠に適当です。

四角荘の門限につきましても、五代様へはお伝えしてあります。

貴女には先ず受身の体得が必要だと判断致しましたので、

風はそこへ微力を尽くします。

風にも、貴女の生きて学び得たものを教えてください」


 その声音や空気、立ち居振る舞いで、

あたしにだって覚えられる……。

風月先生とあたしとの、歴然とした霊格というものの差を。

だからといって……っ!


「風月先生の課外授業、確かに、ご高説承りました。

……ですが、あたしが授業を最後までやり遂げられた時は、

あたしからの質問への、お答えを下さいませ!」


 例え慇懃無礼でも、こうなってしまっては、お互い様でしょう!?


「答えに溢れた、この答え無きせかいに、

貴女のひとまずの支えとなれるのでしたら、

のでも良ければ、

仕方ありません……お答え致しましょう」


「……では、この……早水 捧華、承知致しましたっ」


………………

…………

……


 授業…………いいえ、稽古と呼ぶべきなのでしょう。

差し当たって、

テーラードジャケットはこれ以上汚されたくありません。

トートバッグを置かせていただいたベンチと共に。


後はスニーカーとデニムパンツにロンT。

最後は日の丸鉢巻を巻きなおす。


対する風月先生の出で立ちは……、

上から、黒の……チョーカーらしきもの。

アウターはハンティングジャケット? それともモッズコートなのかしら?

一度袖を通して見たくなる様な、

洗練されたジャケットが、一番に目を引く。

それから、ボトムへと向かうと、細身の黒いパンツ。

足元へも、また、驚きを覚える、


まるで――、




結晶クリスタルでできた様なブーツだわ……、……美しい……。




けれど、ジロジロみる様な真似は、この場には相応しくありません。


 やがて、風月先生と、一定の距離を置いて対面し、

あたしは自然に、この場と師へ、感謝と礼儀を払う。

本の件がなければ、あたしはこのお方を好いたろうに。


確かな“気”が、通じ合う……。


さぁ、臨み、望みを勝ち取ろう。


あたし、お尋ねしなければ、気が済まないのですよね――、




貴方様はおそらく……。




………………

…………

……




……おじいちゃん、嘘を吐く様なカタチになってしまって、ごめんなさい……




……構わん……仕方がない時は……何度でも頼りになりたいでな……


……有難うおじいちゃん……幸福ハッピーも、出て来てくれる?……


……当たり前だニャン……あちらの方へ……良い機会をいただけたと……

……今は感謝すべき時ニャン……


……うん……努力するよ……有難う、幸福……

……あたし……風月先生このおかたに……手加減はできそうにありません……


……おじいちゃん……幸福……“制限解除”……

……全ての路よ回れ!!……

……出し惜しみなく!!……



いざ……尋常にっ――、








「“全力疾走デッド・ラン”!i」



 せかいがほんとうにかんぺきなら

ぼくみたいないのちはそんざいできないきがします

だからこそぼくはせかいからのあいじょうをかんじます

歌・作詞・作曲・編曲 BOOM BOOM SATELLITES

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