第157話「1979」
「Daddy」の居場所、
そこは、風には想像だにしない場所へと到着する……。
………………
…………
……
「先生ちゃん? 本当にこんな場所に、
風らの街の特権階級が
いらっしゃるのでしょうか?」
「おまえ達の街の指導者は、
「NSFD」とJ-D-Vを体内に有していれば、
実質どこにでもいらっしゃる。
この万華鏡惑星の他の都市、他の多世界すら通じてな。
それでも全知全能ではないだろうから、
オイラの様なイレギュラーな事案は尽きないだろう。
この場所を選んだのは、
オイラに与えられた権限での独自の判断だ。
二人共、気をつけろよ、」
そこで先生ちゃんの空気がピンと張り詰め、
ここからは「ちゃん」付けでは呼べない領域なのだと覚った。
理の空気にも確実に緊張を与えながら、
先生は理と風に、注意の言葉を向ける。
「ここからは、オイラにも何が起きるか保証はできねぇ」
………………
…………
……
ここ、この場所は、街の再開発指定地域のはずで、
さびれた廃ビル群が不気味な雰囲気を醸し出している。
風の空気でも、人の気配はあまり感じられない。
それでも皆無ではないのは、
きっとここでしか生きられない、
そんな生活を余儀なくされた人達の、
雨露をしのぐ場所にでもなっているのだろう……。
「理・0111、風・1100、
手紙に書いた「灰」の認可コードは覚えているか?」
何故ここでそんな事を先生が聞くのか、
すぐには理解が及ばなかったが、
「……風は覚えています」
「あたいも……大丈夫です」
「OK、それじゃあ二人共、ここでJ-D-Vに接続だ」
よくよく考えれば、理由はそれしかないはずだ。
それでも、その理由はお尋ねしておくべきだろう。
「先生、それは何故でしょうか?
理も風も、そんな事をして大丈夫……なのでしょうか?」
「オイラから答えられる、
そのふたつの質問にはこうだ。
ひとつめ、「Daddy」の本体に拝謁できる程、
オイラの権限は高くない。だからJ-D-Vが必要だ。
「Daddy」は「灰」……反体制派の先にいらっしゃる。
J-D-Vに接続したら、
すぐに「灰」へ認可を請う様にしてくれ。
オイラは、おまえ達とは別のアプローチでJ-D-Vに入る。
ふたつめは……、」
………………
…………
……
先生のふたつめの答えを聴き終え、
理と風の強い緊張が一気に伝播しあう。
「……理? 行けそう?」
「ハッ! 風? あたいを誰だと思ってやがる」
「そうか……、そうだね……、理? 手をつないでもいいかな?」
「男が情けねぇ事言うんじゃねぇよ、……でもま、あんたなら許してやるよ」
そして、風の右手を理の左手につないですぐ、
理の左手が確かに震えている事を感じられ、
もう一方の理の右手は黒いチョーカーをなぞっている…………、無理もない。
風にだって、現在の自分自身のコンディションがよく解らない。
まさか、街の特権階級者なる存在になど、
風は、お会いできる機会さえ、与えられる事などないと、
ずっとそう思い込んで生きてきていたのだから……。
先生ちゃんのふたつめの答えは……、
「ここがおまえらの命の賭け時だ」
理と同時にJ-D-Vに接続すると、いつもの音声。
「What do you bet?」
きっと理も、もちろん風も、おそらく勇気と呼ばれるものを奮い立たせて、
「身命を賭す」
そう告げる。
「I understand.Let's enjoy life」
やはり、今回もJ-D-Vの応えは変わらず、
「人生を楽しもう」と、
本来の使用ならあるはずのない言葉をくっつけてきた。
でも、風はもう『天使の揺籠』の様な、
何をしても空しくて虚しくて仕方なかった風じゃない。
この感情を、風は言葉になんかできないけれど、
ただひとつ、たったひとつ、応えられる言葉を、
あれから、……そして、これまでで得ている。
「Yeah,you're right」と。
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しんちょうに かつかくじつに
Song The Smashing Pumpkins Lyrics/Music Billy Corgan