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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第153話「Are You Gonna Go My Way」

 白夜が訪れる午前四時、

ぼくの両親が集めてくれた五艇の貨物浮揚艇ホバーは、

予定通りGreen Grassを出発した。

りぃぼくも乗せて。


 出発前に両親は、理に対して、

むすこをよろしく頼みます」と、そう何度も頭を下げていた。

理の空気には、風の両親への、

軋轢の様なものはなにも感じなかったから、安心した。


 風には、大きな猫の母親そぅるさんが、


「元気でね? いってらっしゃい。

あなた達の靴、間に合わなかったわね。

でも大丈夫、いずれ必ず、あなた達に届けられる様にする。

良い靴に仕上げておくから、期待して待ってて」


と、ぬくもる声音の後の、大きな犬の父親こんさんが、

風に残した、

母親そぅるさんとは異なる厳しいぬくもりが特に印象に残った。


「男は背中で語るもんだと思ってる。

しかし、ひとつだけ言わせてほしい。

むすこよ、現実と事実はほぼ同義だ。

どんなに理不尽と、不条理と思ってもな。

つまりせかいの状態とは、常に肯定イエスしかないんだよ。

ただね、それまで事実だった事も、現実、真実も、

君自身の主観によって、いつでも変わってゆくものなんだ。

だからこそ、特に自身が生む憎悪とは、慎重に付き合いなさい。

風・1100、生まれてくれて、有難う。ではな」


最後の「ではな」が、やはり看さんと魂さんを繋げる声音となる。


理が最後に、「短い間でしたが、お世話になりました」

そう風の両親に伝えてくれて、

風も初めて、


「有難う、お父さん、お母さん」


長い間、愛憎の対象だった人達に、素直に感謝を伝えられた。


 そして、理と風は、一路、嵐の待つ樺崖へ。


………………

…………

……


ふぅ、空気は感じてるかい?」


「ああ、理。

間違いなく数十人の厳しい空気が樺崖からこちらに向けられてる」


「そうか、解った」


 そこで理はすぐに黙り込み、深呼吸を始めだす。

風ももちろん緊張はしているから、理にならいながら深呼吸をする。

同時に乗っている浮揚艇の面々にも注意を払う。


 風達の浮揚艇に乗っているのは十二名。

空気で探れば、相手の実力もある程度測れる。

おそらくは風らが一番若いのだろうが、

3Dアヴァターの件もあるし、即断即決は早計だ。

ただ誰もが緊張し、その時が訪れる事を恐れているのが伝わると、

先生ちゃん程の実力者がいない事は解った。


 それでも皆が、争いになる覚悟をした眼だ。

一列縦隊で風らを運ぶ貨物浮揚艇。

風らの浮揚艇は幸か不幸か先頭をゆく。

これは吉か、はたまた凶か?


 しかし、浮揚艇が捜査関係者の人波を感知したら、

後の事は、自分達の足だけで、行き止まりをこじ開けねばならない。


 風もそろそろ「NSFD」を立ち上げて、

能力ちからの行使が円滑に進む様にしておく、

風だって何もせずに、

Green Grassでの自習時間せいかつを送ってきてはいない。

街にいた頃以上に、格段に「NSFD」の能力も上がっているし、

空気ドリットとの親睦も順調だ。


固まるな、流れて、脱力。


自分自身にそう言い聞かせていたら不意に、


「なぁ、風?」


「理、どうかした?」


「あんたは、あたいに……ついてこれるかい?」


 理……、それって普通男性側が言う台詞じゃないかな……。

そんな間が抜けてしまったが、

その声音の空気には、風に対する挑発や挑戦、

そして微かに憂いを帯びていた。

だから、理の空気と合わせて、それらを受け止め、拭い去る様に、


「ああ! もちろん」


 そこで浮揚艇は速度を落としてゆき、

この先がデッドエンドである事を、風らに教える事となる。


樺崖へ到着。


………………

…………

……


 まもなく捜査関係者の代表からの第一声。


「Green Grassの者達よ。

おとなしく捜査に協力する者は、

この交差点までの逃亡については不問にする。

我々はあなた方を敵視している訳ではない。

ただ「手遅れ」かどうかの判断をJ-D-Vで調べたいだけだ。

今から君らに五分間の考える猶予を与えよう。

万が一の為に我々は武装している、よく考えて行動してもらいたい」


 Green Grassの住人達の空気は、微かにしか揺らがない。

皆がどんな事情を抱えているかなど分からないが、

もう皆、覚悟やるしかない方々ばかりなんだ。


 しかし、五分という時間は、こちらにしては、有難い時間だ。

誰もが迅速に事に当たれる様に、浮揚艇を降りだした。


「あたいは五分後、すぐに時を止めてフライトする。

この距離なら七十七・七秒あれば充分だ」


 風は無言で頷いた。

それから、バリアジャケットを展開する。

戦争地域で使用される様な、

特殊な光弾でなければ、大抵の光弾は、これで相殺してくれるはずだ。

理と風のバックパックと薔薇ともだちは、

戦闘になった際には足枷となってしまうが、

お互いに譲れぬものなのだから、置いてゆく訳にはいかない。


 問題は実弾射撃、

捜査関係者から、こちらに向けられる空気には、

先程告げられた様に殺意は込められていない。

バリアジャケットは対実弾でも効果はあるが、

連続で撃ち込まれれば、最悪行動不能になるだろう。

僕の実弾対策は、五分後、

理がフライトしてから行使する事に決めた。


 Green Grassの住人達は、

グループを持つ方、単独の方がいるようで、

何らかの対策を講じる為話し合う方、

すでに臨戦体勢に入っている方のどちらかだ。


緊張感のある長く短い五分間が終わろうとしていた。


………………

…………

……


「時間だ。素直に投降する者はこちらに来たまえ」


 その言葉に即座に応じたのは……、


理・0111だった。


「よし、おとなしく両手を上げて、こちらに来たまえ」


 意外ではあったが、すぐに真意を理解できた。


風らと捜査関係者の間、結構な距離を、

理は慎重な足取りで間合いを詰めてゆき、

投降間近、


一瞬で彼女は姿を消し、

同時に、捜査関係者側に異変が起きた。

盾の様な強固な陣形に、穴が空いていた。


これが避けられぬ争いの火種となる。


「総員っ! 各自の判断による、発砲を許可するっ!!

もう一人も逃がすなっ!!」


 風は迅速に薔薇ローズとバックパックを背負い、

浮揚艇の裏に隠れて、呼吸を整えた後に、


「ドリット、“風の大盾”、展開」


「……承知アイ・アンダスタンド……」


 ドリットがかぜを集めてくれて、

ぼくの身体全体を激しいかぜが覆う。

このかぜが何処まで実弾を逸らせてくれるかが、

無事にフライトできるかどうかの、最大の鍵だ。

もうとっくに捜査関係者からの銃撃は始まっていて、

樺崖までの道半ばで麻痺させられている方達もいる。

争いは始まっている――。


 風は次の作戦の為に、浮揚艇の影から、慎重に戦況を見極める。

捜査関係者による人の壁の、最も薄い箇所を探る。

Green Grassから、先頭で出発した事は幸いした。

後部にいたら、これ程広く全体を見渡せなかっただろう。


だからこそ十数秒で狙いを定められた。

この攻撃方法は、

先生ちゃんの教えに反するものかどうか悩んだが、

この捜査関係者達が警察にしろ麻取にしろ、

最低でも防弾に対する装備はしているに違いないから、

最後は結局、この攻撃の是非は、風自身で背負う。


 風はしゃがんで、浮揚艇の右側の影から、

顔半分を出し、右腕を、定めた狙いに向けて、真っ直ぐに伸ばして、

右手の形を掌底突きの様にする。


 捜査関係者達は、

十数人の麻痺者を出しながら、

ジリジリと、

風の隠れている先頭の浮揚艇まで間合いを詰めてきている。


 だが、もう遅い。


「ドリット、威力の調整を頼む」


「……承知アイ・アンダスタンド……」


さぁ、正念場だ。


「固まるな、流れて、脱力……」


そして、風は決意の言の葉を発する。




「――“空気砲弾”!!」




………………

…………

……




 風の放ったその砲弾で、

狙いを定めた手薄の部分の十人足らずの人間は、

見えない砲弾に吹き飛ばされた。




 後はもう、薔薇ローズとバックパックを背負い、

迷わずその空いた穴に向けて走り出すのみ。

様々な怒号と弾丸が飛び交う中を、

脇目も振らず、樺崖に向かって、フライトする事だけに集中した。

バリアジャケットが正常に動作したかも、

ドリットが実弾をどれだけ逸らしてくれたかも、 

実感できぬ程夢中に、

樺崖からの、過去との決別と新しい未来への、

結果として――、








自由への疾走は成功した。



 あなたがそれをゆるさないかぎり

なにものもあなたをきずつけることはできません

あなたのみちをあゆんでください

Song Lenny Kravitz songwriter Craig David Ross / Lenny Kravitz

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