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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第152話「Shelter from the Storm」

 りぃに対する想いの告白と、

ぼくの両親との出会いの後ろめたさを、

一気にふたつも伝えられて、

理との森での会話は、風の想像以上に有益なものとなった。


 後はふたりで、『尖った蜜』の閲覧可能データの自習を、

灰明の明かりまで、お互いに解らない部分をやりとりし、


きりの良いところで、Green Grassへ、食事を摂りに戻った。


 ところが……、


………………

…………

……


 Green Grass内の空気が、

この短い滞在期間の中で、最も張り詰めてしまっている。


 それが何故かまでは分からなかったが、

そのまま、食堂で理とともに、灰明のお食事を受け取り、

風と理は、男女のお部屋の明確な岐路に立ったところで、

お互いに、しばし別れを告げた。


 風はお部屋に戻り、扉の鍵を外し、廊下側に開くと、

いつもお食事を頂いているテーブルの上に、

白く長方形の……おそらく手紙が置かれている事にすぐ気付いた。


 このGreen Grass内に関わる内容であるだろうと推察し、

テーブルにお食事を置き、差出人を確認したら、先生ちゃんである事が分かり、

焦っても仕方がないので、お食事を済ませてから、

手紙をできるだけ丁寧に開けた。


 入っていた手紙は零通。


………………

…………

……


風・1100へ


勝手に入って、すまん。


おまえの事だから、Green Grassの空気で気付いちまってるだろうが、

結論から述べると、街の中枢と、警察や麻取の連中が動き始めている。

だがおまえや理には、致命的なデメリットはないから、まずは安心しとけ。

最悪、オイラの情報を持っている事で勾留はされかねないが、

オイラの星の連中の力で、そう長く勾留される心配は、まずない。


ただオイラには、オイラとオイラの地球、

このPolarisとの、のちのちの外交の為に、

ここでPolarisが強権的なやり方に出てこられると、

真っ先にオイラの身柄がヤバいので、

おまえ達を忘れずに、強い想いで、

一足先に樺崖からフライトしておく。


手紙は理にも届けてある。


だから、おまえ達ふたりには伝えておくが、

どうしても譲れないフライト先がないなら、

なるべく、以前の未来に近い場所へフライトしておいてくれ。

その方が、オイラもおまえ達を見つけやすい。

あんまり都合よくフライトし過ぎても、しっぺ返しがあるから注意しろ。


Green Grassの連中には、情報収集でお世話になったから、

おまえのご両親伝てで、今回の巡察の件をお伝えした。


おまえ達が巡察を受け入れるにせよ、逃げるにせよ。

街に入る際には、必ずJ-D-Vが、強制的に一度だけ接続されるから、

どちらにせよ、おまえ達の存在は、街に認識はされる。

だから極力面倒事を増やしたくないのなら、一ヶ所にあまり定住するな。

とはいえ、権力というのは色々ややこしい手続きを踏まなければならない。

一ヶ月やそこらじゃ、簡単に令状なども出せない案件だろう。


おまえ達が腹をくくって街の裏通りを歩くなら、

「灰」の力も借りられる様に話しをつけてある。

困ったら頼ってみればいい。


尖った蜜で優先的にデータ化してある、

「多言語対応装置」が正常に動作しているなら、

零通目の、オイラの星の言語も読めるはずだ。


………………

…………

……


 そして、風は問題の零枚目に目を通した。


………………

…………

……


ハロー、どうだい風・1100。

この二通目が読めていたら上々だ。


「灰」には招待の上で認可コードをもらってある。

おまえにこの数字が、「1111」としか読めないなら、

「多言語対応装置」は正常に動作していない、

もう一度書いておくぞ、パスワードは「1979」だ。

二回目の数字が「1979」と読めているのならとりあえず問題はない。

この措置は、おまえ達が他の星で生きていく上で必要なものだ。

それにオイラもそうしてもらった方が、意思疎通がよりうまくゆく。


最終的には“第四の壁”のデータまで、おまえ達に転送できれば、

あとは尖った蜜を抜いてくれればいい。


最後になるが、おまえ達が樺崖からフライトを決意したなら、

樺崖に数十人程度の捜査関係者が網を張って待っているだろう。

おまえ達がフライトすると決めているなら、

不本意だが、これが初めての実戦となる。

おまえのご両親には、このGreen Grassにあるだけの、

貨物浮揚艇を、明日の黒夜と白夜の境目、午前四時に、

他のGreen Grassのワケあり住人を乗せて、

出発させてもらう様に頼んである。


捜査関係者達は、

少なくとも光弾の麻痺銃や実弾の麻酔銃は、最低装備しているだろうから、


まぁ、ほどほどに頑張れ。


ムキになって、おまえ達の未来を暗く染めちまうような力は使うなよ。


じゃーな、グッドラック♪


                       空蝉より


………………

…………

……


 ……風が思っていたよりずっと早く、

このGreen Grassを去る日が訪れようとしている事は理解した。

一番の問題は巡察を受け入れるか、樺崖からフライトして、

一時的に捜査関係者の眼を欺くかだ。


 先生ちゃんは安心しろと仰るが、

勾留される事の方がデメリットが多い様に、現状思える。


 例え街に入る時に、J-D-Vの強制接続が行われようとも、

現在は、逃亡案の方が、街の煩わしさを、やや緩和できる気もする。

街に入ってからは、今までの様に、

J-D-Vの秘匿性を高めて、街中を移住すれば、

ある程度の捜査関係者の眼も、風を特定しにくくなるはずだ。


 しかし、数十人もの捜査関係者を相手に立ち回り、

樺崖からフライトする事は、どう考えてもリスクが高そうだ。


 理には“時間停止”があるから、難なく切り抜けられるだろうが、

風の“空気”では、争い事は避けられそうにない。


 明日の午前四時までに、幻装者の能力ちからを、

もう一度、不良の森にて模索し、より穏便な方法を、

今日の内に身につけておくべきだろう。


 既に、風と理に残された時間はわずかだ。


今日の灰明から黒夜までに、技を磨く必要を覚える。

タイムリミットは、一日も残されていない。


この件は緊急だ。


 麻痺銃には対策がしてあるが、実弾は厄介。

理とも相談したいが、理には次のフライト先への決意がある。

ここは樺崖からのフライト選択で間違いないだろう。

風には名残惜しいが、








両親に庇護される蜜月は、これで終わりとなる。



 あらしのまえのしずけさ

おちついて

あすはわがみ

Song/Lyrics/Music Bob Dylan

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