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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第151話「O Waly, Waly and The Water Is Wide」

 伝えてしまった……、告げてしまった…………。

だけど、ぼくの胸に後悔はない。

思っていたよりも、ずっと自然に、ずっと素直に言葉は放たれた。


 この先の事なんて、風には分からない。

分かっている事は、いずれ星凪交差点に戻り、

その間に伝えておかなければ、

風は今の整然とした気持ち以上のものは、

決して得られなかっただろうという、

先生ちゃんの言葉なら、水色の想いだけだ。


 勝手な話だけれど、風はまずこれでいい。

後の選択権はかのじょに委ねる……。


「……ぁ? 風・1100? 

あんたは自分が何を言ってるのか解ってるのか?」


 彼女の空気は揺らいではいたが、

徐々に風に対して、壁を構築していっている。


「うん、理・0111、ぼくは貴女に、恋をしていま」

「止めろっ!! あたいはあんたに、そんな事、望んでないっ!!」


 瞬間的に風の視界は、望みを絶たれ真っ暗になった。

でも、いつまでも引きずっていたら、

それこそ大切なひとを悲しませる。


「うん、いいんだよ。それでもいい。

だけど、風が君を好きな事は止められそうにない。今はまだ……。

理……困らせて、ごめんね?」


「なんで……、なんであたいなんだよ!?

あんたとるぅさはなんだったんだよ!?

るぅさが全数字しょうがいしゃで荷が重いからって、諦めたのかよっ!?

……そうだよな、介助やってりゃ普通気付くよな?

感字いっぱんじん全数字しょうがいしゃの隔たりによっ!!

だからって、いとも簡単にあたいに鞍替えなんて、

……あんたを、見損なったよ!」


 やはりそぅるさんの推理は、的を射ていた様だ。

彼女の空気は、今や様々に交錯していて、

何が正しい感情なのか、風の空気でさえ理解できない。

しかし、誤解は早急に解いておきたい。

風は一度深呼吸をし、事実をも吐き出した。


「理・0111? 大事な事だから、落ち着いて、よく聞いて欲しい。

るぅさとそぅるさん、看さんと魂さんは、

同一人物で、そして……、ぼくの両親だ」


 この事実が、かのじょをさらに混乱させるのは理解できる為、

風は沈黙して、

理へ風の言葉をよく咀嚼してもらえる様に、ただ待つしかない。


「それ…………、本気で言ってんのか風?」


「本気だし、本当の事だよ。

理が風の靴を、父親こんさんと同じ物だって教えてくれたから気付けたんだ」


 理の空気は、ようやく正気を取り戻し、

それからどんどんと暗い方向へ落ち込んでゆく。


「…………はぁ……、…………、そうか……。

あたいが一番の道化ピエロだったとはね……。

…………、あんたには謝罪の言葉も思いつかないよ……」


「風の事はいいよ。君を好きな事が、きちんと伝えられたからね。

それを聞いてくれただけで、風はまたひとつ成長できた気がする。

初めての恋が、君で良かった、本当に」


「…………、はぁ……解ってるつもりが一番危ない……か。

あたいはどうしても感情が先行しちまうから、

不要な争いも起こしてきちまってたんだろうな……」


 そう言い終えると、彼女も深呼吸を始めた。


………………

…………

……


「なにはともあれ、風には実りの多いフライトだった訳だ。

立派なご両親がいて、風が羨ましいよ」


 風が危惧していたものとは、

全くといっていいほど遠く、理は清々しい空気で、そう告げてくれた。


「理・0111、風のわがままに付き合ってくれて有難う。

本当に、風は自分勝手だ、ごめん……」


「男がいちいち何度も謝るんじゃねぇよ。

風のご両親の事で、あたいに気兼ねしてんならなおの事だ。

その事実は、あたいにも役立つ事なんだからな」


 ……理へも、役立つ…………、……あっ!


「合点がいったか風? 

両親に会いたいと願って交差点からフライトすれば、

あたいだって、両親には会いに行けるはずなんだからよ?」


どうしてそんな簡単な事を思いつかなかったのだろう……。

保身の為に、大きな可能性を見落としてしまっていた。


「正直あたいに与えられた過去の境遇を思えば、

両親に会いに行くのは、少し怖いし、期待もできない。

それでも、あたいの様な人間を産んだ人達が、

本当はどんな人間だったのかには興味がある。

……だから、次のフライトでは、両親のもとへ飛んでみるよ」


 彼女はいつもの癖、簡素で物騒なチョーカーを撫でながら、

迷いなく風に、そう告げた。

それから…………、


「あんたが今、

あたいへの告白の答えを待っているなら、答えはノーだ。

だが人の心は変わる事もある。

風・1100、あたいへのその想いが変わらないってんなら、

あたいを変えてみろ。良い男になってな?」


「うん。解った」


 そこが一旦の会話の終着点に思われたが、

風達の空気がまだ繋がれている事に気付き、

風は理の次の言葉を待つ。


「あのさ風?」


「なんだい理?」


「なにか、あたいの為に一曲歌ってくれないかな?」


「もちろんいいけど……今は薔薇ギターもないし……」


「風のアカペラでいいよ」


「分かった……でも、そんなに期待されても困るよ?」


「るぅさ……風のお母さんは絶賛してたよ? あたいも聴きたい」


「それは母親るぅさのひいき目ってヤツだよ。

それより、理はどんな曲が好きなの?」


「静かで落ち着けるのがいいな。

やたら明るい曲よりは、暗くても優しい方がいい」


「解った。風なりに考えてみる」


 薔薇ともだちが居れば容易い願い事だけれど、

アカペラで歌う事を考えると、若干の照れ臭さが出てしまう、

この照れ臭さは、歌う上で非常に邪魔で失礼なものだから、

しっかり歌いたいなら、場を整えなくてはならない。

……なにしろ初恋の女性ひとに伝えられる、

初めてのラヴソングなのだから。




「それじゃあ理・0111へ、聴いて下さい、曲名は……」




……………… 

…………

……


「その河辺は彼方と此方に


深々と横たわっていて


彼方の君にどうすれば


私の声が届くのか


私の想いが伝わるのか


本当には よく解りません



愛とは優しくある事 そして いたわりの心


始まりは若葉の様に瑞々しい


けれど愛も人の様に老いてゆくもの


かといえ人は誰かを愛さずにはいられない


最後にはあさっての方向に


散り散りに消えてゆくものだとしても



生きてゆく事は背負う事


その重さに耐え切れず


投げ出してしまうのか


それとも荷とともに潰れてしまうのか


だけれど想う


私のこの愛だけは


誰もがそう祈るのでしょうが


私には 本当の事は なにひとつ解りません



その河辺は彼方と此方に


まるで光年先にまで


ただ厳然と広がっている


彼方の君に


その日一日 たった一日の


喜びや怒り


哀しみや楽しみを伝えるだけでも


人生は何度でも終わり また始まる



もしも神が


一艘の船をお与え下さるのなら


彼方の君をむかえにゆきます


そして二人で



そう二人で



私の唯一つの愛とともに」



………………

…………

……



 風が歌い終えると、

理は優しい拍手をくれた。

今までいただいた拍手の中で、

風には、最も誇らしいものだ。



「風・1100、有難う。聴けてよかった」


「どういたしまして」


 風らは同じ船に乗る事ができるのだろうか?

それとも風は、彼方の君が日暮れて消えてゆくのを、

ただ見守る事しかできないのだろうか?


 けれど未来さきには、

彼女との別れしか、風には見えずにいる。

彼女が望んでいるものは、

風ではなく、「自由」と呼ばれるものだから……。


 ただひとつ、


はっきりとさせた想いは、

彼女と風の命の優先順位を、








ぼくよりもかのじょに重きを置く、その決意だけだ。



 いつでもできること

そうおもってることが

ほんとうにいつでもできるとはかぎりません

スコットランド民謡

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