表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
XO!i  作者: 恋刀 皆
15/164

第13話「最後の晩餐」

 捧華の高校進学までの道程。


数学。

美術。

理科。

技術・家庭。

社会。

修了。


 残すは、


国語。

音楽。

保健体育。

英語、です。


国語と音楽は僕がそばに。

英語は君が。


保健体育はふたりでみる。

それはそう当然。

捧華は可愛い女の子ですから。


保健は美女と美少女同士。

体育は、

……まぁぼちぼち動けなくなってきた僕がつきます。


 そう布陣を並べ、今日。

待ちに待った、君からの知らせをうけ。

保健体育も修了間近に迫り始めたのです。




そう……、

捧華に生理が来たんです。




捧華が生命を絆ぐ事ができるとわかって。

コンちゃんとポップちゃん。

あまねく生命をたばねる存在へ、ありたけ感謝しました。




………………

…………

……


「ここからは女子のトップシークレットが繰り広げられるから、しばらくお家から出てて」


 君がそう仰るので、


倖子君からがっちり閉め出される形で、



僕は菜楽荘から外出となります。




僕は座右の銘候補に、

“好奇心は猫を殺す”を刻んでいるのです。




外出先もすんなり決めました。




支酉神社ととりじんじゃ】様へ。




 支酉神社様は菜楽荘から、

僕の足だと、

大体十五分程掛かる、古びた神社で御座居ます。

最近は捧華の事がありもしたので、

めっきりですが、

以前は足繁く参拝したものです。

もう手水舎も枯れてしまっている様な、

哀しみ曇る場所では御座居ますが、

色々と僕の成長を促して下さった、

御神様がおわします。


 参拝作法は十全とは言えませんが、

有難う御座居ますを、

しきりに御伝えする事を大切に。



……すると、みえるんです。



可愛いとは、

本当に無礼な事ですが、

小さな御酉様と、

白無垢を着たいつも笑顔の透けた女性が。



視える、覚える。

さらに、

心に、投影される感じ。



御酉様が、僕の左手の薬指に留まって下さる。

御礼を極めて告げる。




「いつも、有難う御座居ます。御酉様、早水 心也、ご無沙汰いたしておりました」




声なき鳴き声。僕の五感が揺れて響く。



それから、



……よう来たなぁ小童こわっぱ……

……そこな大樹が待っておったとゆぅておるぞ……




支酉神社様の南方に大樹様はおわします。




 また五感が響き渡る。

身体の内側が揺れすぎて、

奇妙に酔いそうにさえ覚える。


しかし、


御礼が自然にできる、


有難き仕合わせ。



「……ぉぉぼんや…………こちらにおいで…………あらたな因果を坊にみせてやるて……」



御礼を尽くし。

鳥居をくぐり。

大樹様の下へ。

ここでもありたけの御礼を尽くす。



「……坊……我に手をかざしてみよ……」



僕の揺らぎ……少しの不安も、



「……かっは……そう心配するでない…………我は確かに穢れでもある…………だがな坊…………坊にはわかろぉて…………くるぅりくるりじゃ…………水車みずぐるまの様にな……」



大樹様には御見通しです。


 入念に謝意を、


そして、




大樹様へ、手をかざしました。




大樹様は揺蕩う様に、



「……我が子にひとつ……

……ひぃらひら……

……全き一つの門出也や……」



………………

…………

……



 刹那にて……、



見知るせかいに僕は無くなり。

空間全てに渡り、

【扉】が埋め尽くされていた。



僕の身体の内外全てに、

無数の扉がある覚え。



 大樹様が慈愛からの御声、



「……坊……同様にみえる理に…………様々な名が付く様に…………我は此処を慶元令けいげんりょう…………そう呼んでおる…………時と時の仕合わせが巡り逢いし時…………また来るが善い……」



それからまた、

僕の心身や、魂にまで染み込むかの様な調べ。




「……どうか此の世に…………どうか此の子に…………光と愛を下さいますよぅ…………ほぅらほぅら…………巡り巡って…………また…………還るものなのさぁ……」




………………

…………

……




 そうして……、




覚えた途端、




……ぅん?

いつの間にか、

支酉神社様の鳥居の下に、



僕は在ったのです。



南方から大樹様が御告げになります、



「……我は疲れた……坊…………困った時はお互い様じゃ……人に頼る事を覚えよ…………万物はひとつ……しかしひとりでは生きてはゆけぬ…………坊……わこぉておくれ……」



数瞬の躊躇、

のちに深々と頭を下げる。

まだまだ未熟で御座居ます。




……ぅん?




左手が重い……、ぉ、御酉様?



……わっぱすえがみたい……

……儂を連れてゆけ……



末……? っ……、捧華を?



「……はい。……畏まりました」



立ち去る最後に、

深く御礼を。




此処はいい。

僕がどれほど未熟か、

まざまざと見えます。




支酉神社様から御酉様と、




帰路に着きました。




………………

…………

……


 呼び鈴を押すと、

ふたつの愛の形が、

チェーンロックを外してくれて、


君は眼をこすりしげしげ。

捧華は単刀直入に、



「ぅわ♪ お父さんの左手が光ってるのでっ♪」



と愉しげに告げた。



 僕はとんと、


「……さ、捧華? 光ってみえるの!?」


情けない事に、結構動揺してしまいました。


瞬き、






 ……きっと、




僕も捧華も君も、

大気の鳴動を感じたと思います。


僕と君は畏れから、

捧華を案じましたが、

捧華だけが頓着せずに、




「わぁ♪ この鳥さん、凛音りんねちゃんて言うんだ。ようこそ早水家へ♪ 凛音ちゃんっ♪」




ちょ、ちょっと待って捧華!?

こちらにおわしますのは……、





……童……よい……





その音へ畏敬の念を抱き。

心が調えられる。

深く、

感謝を込めてお伝え申し上げました。



「はい」



「物凄い御方様ね……。なにしでかしてきたの心也君?」


神妙な声音の君に、

迅速な応えを伝えたくも……、




「……玄関ですし、部屋なかで話します」




………………

…………

……


 三人と御酉様。

収まるのはキッチンのテーブル。

六つのお赤飯が目の前に在りました。

コンちゃん……ポップちゃん、今は忙しいのかな?

ふたりの都合は、僕らには分かりません。


捧華の保健については触れぬ方が良いでしょう……。

年頃の女の子は繊細デリケートでしょうから。




 そう判断してから、

僕は支酉神社様での経緯を語った。


「凛音様は、……霊格を……、超えていらっしゃる感覚を、……まだまだ未熟な私でさえ覚えるから心配してないけれど、どうしてこの様な私達のもとに降りてきて下さったのかが謎ね。特に……約一名どうしてこの様な者に、謎ね」


 約がつけばその存在の固定化は免れる。


でもね……奥様?


これもまた謎だけれど、

僕凄く胸と誇りが痛むんだ。


何故かな?


 僕はこうこつ……ではない、しっかりしろ……、

鴻鵠こうこくの懐で、

君の言をさらりと交わすと。



……童……今最も大切な事を優先させよ……



 凛音様から有難き御言葉。

だからこそ僕は、

僕の役割、体育の修了を、進め始めました。



捧華にはフルドライヴがある。

それにて修了なのですが、

そのフルドライヴが問題でもあります。




 つまり、




「捧華? フルドライヴしてて、心身に不安な部分はない……かな?」




場の空気は微妙に、かつ確実に変わり、

僕らは、お赤飯をもぐもぐする末の娘に注視する。

お赤飯をきちんとしてくれた、

倖子君への感謝も忘れたらアウトです。



「あいっ♪ 捧華は今日も元気でっす!」



う……うん多分、

この会話は微妙に齟齬そごが生じてる……。



 ふたたび、








心身が御酉様の鳴き声に揺れる。



……どれ……童……末を……儂がみてやろう……



千載一遇。

恐悦至極。

これほど有難い御医者様も有り得ません。



倖子君と想いを交わす目配せをしてから、



「凛音様、どうかよろしくお願いいたします」



………………

…………

……



 およそ十分後、



待望のお答えを頂きました。



……うむ……童の末は心身ともに健やかじゃ…………童の望み……フルドライヴとやらは…………おそらくじゃが……現在のこの国の時間で…………精々一時間の続き連なりのまわしが…………限界じゃろう…………なにもゆぅなわこぉておる…………その後は強制的に眠りに入る…………それに…………童らには辛かろぅが…………コン殿とポップ殿が傍に付いておる…………童……娘……なにも心配するな…………そして…………それが悔しければ…………成長して…………共に楽になれ……



僕と君は、言葉もなく、ただ深くお辞儀する。



………………

…………

……



 一連の流れを見ていてもハテナ顔の捧華。



「捧華? どこか変なのでしょうか?」



僕らの未熟が、

それを言わせてしまったね。

反省は必要だが、

引きずるなよ僕。



 僕はテーブルからゆっくりと身体を伸ばし、


愛の……、


「最高の御医者様が、大丈夫、だってさ」


……命に、


撫で撫で。


僕に真心と呼ばれるものが、

わずかにでも在るのなら、

全て伝えてやりたい。




よかった……本当に。




………………

…………

……




 その夜、




自室に居ると、すぅ、と君が入ってきた。

手にはカバンを持って。




……う、うん……なんだか重そうな物が入っていそうです……。


「ゆ、……倖子君? きょ……今日は捧華の保健にお赤飯と、本当に、お疲れ様でした。……でも……、ほ……ほら? せめてノックは欲しいかな? し……、親しき仲にも礼儀はね?」


 君は淡々と、

任務を遂行してゆく様に、

窓をガッチリ施錠し、

押し入れを丹念に調べ上げて、

それから、

僕の前でカバンをガサゴソし、

半田ごてと

それにまつわる道具たちを取り出し、

半田ごてを電源につないだ。




ぼ……僕はか細く、

「ぃぃ加減にしろ許して下さぃ」




 君は僕の覚える事のできる全てを

静止させる声音で、



「きっと私より、……ずうぅっと、御綺麗なんでしょうね? その……白無垢の御嬢様は?」


勝手に解った気になって

虫さんごめんなさい。

命を懸けても、

光明にすがって飛ぶしかない時は、

人にもあります。


「ちっ……違うよっ!? あのお方様は……」

「黙れよ?」

僕は即座に沈黙。


 君はゆらぁりゆらぁり流れているのに、

何処かが外れ、壊れて見える。


「よろしい。私のだんな様だった人が、故障し始めた様子の為、修理を始めます。脱げ。そして、溶接します」



 僕はおへそからもう少し下方の息子に、

怖々と、心で話し掛けてみます……。



……溶接って、おまえの事かなぁ?……



その間にも、

君は震えて、

半田ごてを両の手で握り、

呼吸を荒げていらっしゃる。



「私……実家に帰らせて頂きますっ! 溶接してからっ!!」




うんその前に僕出血多量かショック死で、

永遠の御許へ還りますよ?


夭折しちゃうよ? 








自分で言うのもなんだけど。



 くちはわざわいのもと

どうかおみごとなかぎをかけて

かみさまたすけて

作曲 mouse on the keys

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ