第146話「ラストコール」
貨物浮揚艇がGreen Grassへと到着して、
樺崖での儀式を終えた母親は、
お部屋へ戻る最後にこう言った。
「魂はよく言うの。“若い時の苦労は買ってでもせよ”ってね。
未来の貴方を見ている今は、
そぅるは彼の言葉を疑わない。
だって、風・1100? 貴方はこんなに立派に育っているんですもの」
風は風がそんなに好きではないから、
母親に息子の風がどう映っているのかまで分からない。
でも、なんだか今までの両親への憤りすら忘れさせる程の、照れくささを覚える。
結局のところ、風の両親は、揃って風を見守ってくれていたんだから。
これからは、なあなあに履いてきたこの靴も、大切にしようと思えた……、
………………
…………
……
が、
「おう。どーしたい風ちんオイラに話しって?」
「……あの、先生ちゃん、先生ちゃんは街にいる時から、
風の両親の事情を知っていたんですよね?」
「まーざっくりとな?
そーか、なるほど、良かったな、ご両親の真実がひとつ見つかって」
「今は風の事なんかどうでもいいんです! 問題は……、」
「そか、理がそれを知っているかどうかなら、あいつは気付いてない」
それを聴けてようやく、空蝉先生のお部屋で深い息を吐いた、……でも、
「そんな事ってあるんでしょうか? 招請制度まで交わした間柄が?」
「てめーちゃんはご両親をなめすぎだぞ?
彼らは優秀な創造者達だ。
本気で隠そうとしたら、
理の様に「NSFD」を、
満足に使いこなせていない人間の眼を欺くなんて訳ねーだろ」
すると、僕は深い葛藤を覚える事になる。
つまり……、理がその事を知らないのであれば、
打ち明けるべきか、隠し通すべきか。
風らの共通点、親近感を覚える要素に、
風らには両親がいないという、分かち合えてたものがあるから。
どうしたら隠し通せるのかも。
どの様にして打ち明ければより良いのかも。
今はまだ、全くの五里霧中だ。
星凪交差点に再び戻れたとしても、
空蝉先生の話しから、そこで風らは別れなくてはいけない。
知らない方が良かった事なんて、身に染みる程ある。
人生なんてそんなもんじゃないか!
…………、……いや、よそう、単純明快にする。
風が今考えている事は、保身。それ以外にない。
どうしたら、理に嫌われずに済むかだけだ。
「先生ちゃん……? 風、理に伝えるべきでしょうか?」
「あたりめーだろ」
「……な、なんでそんなにはっきり言い切れるのでしょうか?」
「風・1100? おまえ、理に惚れたんだろ?
女に隠し事なんざ無駄な努力なんだよ。
それにおまえらが結ばれたら、風の家族は理の家族だ。
傷口が広がらねーうちに、苦い薬飲んどけ」
た……確かに説得力はある……けれど、
「先生ちゃん……、風らは別れてしまうじゃないですか?」
「風ちん? 本当の別れってのは忘れるって事だ。
一緒にいるって事は、どれだけそいつが心ん中にいるかって事だ。
忘れられるなら、言わなくてもいい。
だが、生涯離れる気がないなら、
何度も言うが、傷も涙も痛みも哀しみも、全部そいつへ刻み込んどけ。
所詮オイラ個人の想いでしかないがな。
おまえがもっと正しいと思える気持ちがあるなら、
一時の別れの間の、理への締め切りは、てめーで見極めろ」
空蝉先生から、この話しはここまでの空気。
でも、やっと愚かな風でも分かってきた事がある。
本質的には、恋人だとか付き合うだとかは、今まで風が思っていた様な、
甘ったるいだけの関係なんかじゃないって事。
風はこれから、これまで以上に理の事をもっと考えて、考え抜いて、
はっきりさせなきゃいけないっ!!
理が風の命よりも大切な女性なのかを。
あなたがもしもいきるいみをみうしなっているなら
どうかぼくのためにいきていてくれないかな
すくなくともきみはぼくにとってそういうそんざいだから
歌 flumpool 作詞 山村隆太 作曲 阪井一生