第12話「My Grandfather's Clock~大きな古時計~」
今日も今日とて、戦争と平和。
捧華の必修、社会を修了手前。
地理的分野、歴史的分野、公民的分野。
高校という社会の縮図にのる前に、
もう少しだけ、伝えておきたい事がありました。
僕らが歩み、また後人が踏んでくれるであろう。
歴史という名のひとつ、僕らの“道”を。
それを新しい“道”、捧華の身に染ませる為に、
倖子君の能力に頼らせて頂きました。
………………
…………
……
僕は、憶えて下さっていたら幸い。魔法遣い。
“第四の壁”と“具現”の遣い手。
良き伴侶、
君は片鱗“瞳術”の遣い手です。
そのひとつに“永之理”、
術が御座居ます。
僕の第四の壁は、
あらゆるせかいの存在を受け容れられれば、
誰にでもすぐに遣えますし。
逆に具現はとても扱いに困る代物なので、
僕の良い様に遣う事はできないのです。
例えば、倖子君に具現を伝えたら……、
「おうおう♪ じゃあお金具現しようよ? ラッキ♪ 貧乏脱出っ」
と、ある意味女性らしい在り方を示してくれましたが、
「……それはできないんですよ……」
なぜなら、
お金には様々な工夫、
プロテクトがかけられています。
コンちゃんとポップちゃん誕生の奇跡は、
いわばですが、
広がる大海原へと適当に、
切なる祈りの意志を放り込んだ様なもので、
きっと誰が投げても海に石は入りますよね?
命懸けではありますが、聞き届けては頂けました。
しかし、お金の具現は、
こちらは水たまりの様なものでして、
必要な知識と精度が把握しきれないのです。
それに心臓への圧力。
いくらお金を大量に具現できても、
心臓が潰れたら、使えなくなってしまう。
亡くなってね……。
コンちゃんとポップちゃんは善い。
君という最高の芸術の分身が、
この世に遺せるならと、
僕の命にかえてもの覚悟で臨みましたから。
話を君に戻しますと、永之理は、
第四の壁の様に、どなたにでも遣えるものでなく、
具現の様にあまりにリスクの高いものでもない。
君の人生のたゆまぬ研鑽が覚えた。
敬える術なのです。
永之理は、
ある程度に体感と経験を促す幻術。
術者の“道”、歴史がなせる業。
今日は捧華に覚えてもらいたいのです。
………………
…………
……
倖子君と捧華の部屋に僕は居る。
三人で厳かに正座。
君はその空気を静かにひらく。
「それでは之くよ捧華? 先に伝えた通り、術には相互の信頼が必要。貴女の母親を信じて頂戴。私は貴女を信じてる」
いつもの君の纏っている空気、
そのものが異なってゆき。
君と捧華の視線が交わり。
言の葉が降ります。
「………………
…………
……“永之理”」
数瞬、
捧華はつよい催眠に没入する。
僕は、語り始める。
僕の歩んできた“道”を。
「捧華、進み歩こう。光と闇の様に、戦争と平和が在ります。愛と憎悪。愛は在る事。憎悪は無い事。愛は許す事。憎悪は許さない事。それでもお互いは交換しあえる同義語でも在ります。わずかの愛も無い物語も、憎悪そのものでしかない物語も、僕は見た事が無いから、そう告げます。憎悪は無いものだから存在はあまねく御神様が完璧完全に、愛して下さっている。それは、『はい』ひとつで表現できるせかいを、足りぬものの為に、『いいえ』と『どちらでもない』を、……例えれば、『じゃんけん』を与えて下さったのです。捧華? どうか遊んで学べる子になってください。現代の日本は、それを受容して下さりつつあるのですから……」
彼女はうつら。
「愛は『在る』、憎悪は結局『無い』。それ故に、愛は必ず勝つ。しかし、それは在るもの達すべての勝利です。矛盾する、憎悪や虚無や絶望、死もみんなが一斉に舞台を去る瞬きの、笑顔の一りなのです。捧華? 老兵の心を想ってください。全知全能と呼ばれる存在が愛して下さったから、全ては、起き、承け、転り、結ばれる。心は鳥。肉体は籠だ。人間の身体は翔べなくとも、心は…………、……おまえは翔べるんだよ?」
彼女はなにをみているのか、頬が滴り始めます。
「ひとつ。全ては、人智を超越した御意思、御意志のもと。そのものにとって相応しい場所へ、あるべきものがあるべきところに収まると、どうか覚えてほしいです。全宇宙の先が見えぬ様に、全知全能の先もまだ見えぬこの矮躯。身の程を想い知り、無限にその身をおけば、自ずと座るべき場所が分かる様になります。僕らは平和の礎たる道で、戦争に備える新しい『武器』と『防具』。老兵の心。ともに歩んだ死地を、愛する、今はもう古い装備で、誇りを持ち、新しい装備に立ち向かい、戦い、敗れ。新しい道になる去り際を心得る事。先人には敬意を、後人には礼をもってあたれる。心身ともに、健やかな子になってください」
間をわずか置き、
未熟にはやった呼吸を収めつつ
君に頼む。
よく受け取ってくれる、大切な君。
「…………、これにて仕舞い」
捧華への術が解かれる。
捧華は、段々と……段々と、
意識を起こしてゆき、
想いを巡らす仕草。
それから、
口を開いて、
くれた。
「……お父さん、お母さん。……なんて言ったらいいか、……わかんないけど……、その……、有難う御座居ます……」
こちらこそ、
生まれてくれて、
有難う。
おまえはまたひとつ、
僕らに倖せをくれた。
そなえあればうれいなし
すべてれんさ
ぼくらはひとつ
Lyrics/Music Henry Clay Work
作詞 保富康午